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第五十二節 : ミスリル大金貨

 第五十二節 : ミスリル大金貨


 ラブダやヴィクトリア達をアルテに任せるとミュリッタとおやっさんは再び赤竜亭の地下へと戻って来た。そして何故かエナンもそこに付いて来ていた。

『赤竜亭の地下に鞄を置き忘れて来たので使って下さい。』とアルテに言われて戻って来たエナンだったが、使って下さいと言われても何の事やらであった。

「でっかい鞄・・・使って下さいってどういう意味だろ?」

「そんなの開けてから考えなさい!」

 ミュリッタに聞いたのがそもそもの間違いで、そう言うとミュリッタはいきなり鞄を開けてしまったのだった。

 中から出て来たのは大量の金貨だった。エナンも驚いたが、それ以上にその金貨を見て絶句したのはおやっさんとミュリッタである。

「嘘だろ・・・・」

「ちょ・・・何これ有り得ない!」

 金貨は金貨でもただの金貨ではなかった。それは大天使テスと獣姫キウがかつて暮らしていた国マグナテラの大金貨。通称ミスリル大金貨であった。

 純度の高い金に偽造防止と硬度強化の為にきっかり0.1%のミスリルが混合されている。その不動の価値から気の遠くなるような年月を経た現在でも貨幣として使う事が出来る最強の金貨である。何より現在では産出していないとされるミスリルが確実に入手出来る為ミスリルの原料として各国の貴族や大富豪が競って収集している。その市場価値は最低でも金貨千枚とも二千枚とも言われていた。

 エナンは拝んだ事も無かったのでそれが何か分からなかったのだが他の二人は違った。さすがのミュリッタも目の色が変わる程の財宝が目の前に現れたのだった。


「これは・・・すごい量ですね。千枚や二千枚って数じゃなさそうだ。」

 奇しくも、というか意図的にこの国、トロッサスの大金貨もこのミスリル大金貨と同じ大きさをしている。エナンには模様は違うが同程度の価値の金貨にしか見えていなかったのでそう言ってしまった。

 だが言った瞬間、エナンのアゴにおやっさんとミュリッタの拳がめりこんでいた。


「ぐはぁあっ?!!」

 再び吹っ飛ばされたエナン君を後目にミュリッタが言った。

「きっかり三万枚・・・って!! 枚数の問題じゃないのよこの馬鹿!」

「うう・・・馬鹿って言われた。」

「嬢ちゃん、もう数えたのか凄いな。エナンお前嫁が用意してくれた物の価値も分からんのか。後でたっぷり説教してやるから覚悟しておけ!」

「何でそ~なるのっ?!」

 いきなりけちょんけちょんにされてしまったエナンであった。


「全く・・・腐っても不死皇帝の孫娘ね。どんだけ持参金積むつもりなのよ。」

「腐ってなんかいません、とってもいい香りがします・・・」

「焼くわよ?」

「妬くの間違いじゃないのか?」

「黙りなさい筋肉ハゲ!」

 そんなやり取りが続いていたが、ミュリッタの頭の中では冷静な一つの思考がある可能性を検討し続けていた。

 アルテの助力のおかげというのが少し複雑な心持ちだが、冒険者ならだれもが夢に見るような垂涎のアイテムがここに来て大量に入手出来たというのは幸運と言うしかなかった。

 これを使えばどんな無茶な依頼でも冒険者達にオーダーする事が出来る。ミスリル大金貨一枚でも充分な程の価値があるが、さらに重ねて五枚位、普通の大金貨にして一万枚相当にもなる報酬を用意してやれば命を賭ける事すら厭う者はまずいないだろう。それこそ一生遊んで暮らせるほどの財産を手にできるのだから。

 赤竜亭に集った600名からの冒険者達もこのアルテの手土産の一割程度を使えば思うように動かす事が出来る。おやっさんに逃げろと言われても素直には聞き入れて貰えないだろうが、そこは食う為なら何でもやるのが信条の冒険者達だ。一世一代の大博打、大金をせしめるチャンスとなれば動かない者がいるはずは無かった。

 たとえそれが邪神相手の戦闘であったとしてもだ。


 そしてミュリッタの本当の目的、邪神との決戦にガルドーを引き摺り出すには銀翼を含む赤竜亭の冒険者達が一丸となって赤竜亭からの離脱を決行する必要があった。

 赤竜亭に釘付けに出来るという見込みが無くなれば嫌が応でもガルドーも全力でそれを阻止しなければいけなくなる。

 ミュリッタを含めた赤竜亭の現有戦力なら現状程度の死霊達の包囲であれば突破するのは容易い。ガルドーも早急にそれを阻止する為には切り札、すなわち邪神の力を解放しなくてはならなくなるだろう。

 そうなれば最悪顕現した邪神そのものとの戦闘となる。統制も取れずただばらばらに逃げるだけの冒険者達では守るのも難しい。

 だから統制の取れた行動を行ってもらう為にも今一度司令官の指揮下に入って行動してもらう必要があるのだ。例えそれが形だけの戦闘であっても。

 その為のミスリル大金貨五枚の報酬なのである。


 何があろうと一人たりとも損害を出すつもりは無かった。犠牲を出せばまたエナンの心を傷つけてしまう。

 ミュリッタにとってそれは何より優先すべき目標なのであった。


「エナン、それにおやっさん。一つ提案があるわ。」

 ミュリッタは真顔に戻ると二人に言った。

「このミスリル大金貨があればどんな無茶な内容でも今ここにいる冒険者全員に依頼する事が出来ると思わない?」

「ミスリル大金貨?」

「あ~もう、そこからなのね。これは万神紀以前に造られたマグナテラ大金貨。通称ミスリル大金貨よ。ほぼ完全な純金に硬度強化と偽造防止の為のミスリルが混合されているの。価値は同じ重さの普通の金貨の数千倍と言われているわ。賢者の塔だと交換レートは二千枚程度だったわね。」

「王国でも貴族の間じゃ大体その位だな。まあ、相場を知らない素人相手に買い叩く古物商なんかに騙されると千枚位で買い取られちまうらしいがな。」

「エナンは完全に買い叩かれる口ね。とにかくこの鞄に入ってるだけでも普通の金貨にしたら六千万枚の価値があるって事くらいは理解しておきなさい。この国の年間予算なんか余裕で超えているわよ。」


 さすがのエナンもその言葉を聞いて腰の力が抜けるのを感じた。

 そしてある意味命よりも金が大事な冒険者達ならこれだけの金があればどんな事でも言う事をきかせられるという事も理解した。

「おやっさん、どうかしら。この資金を使って全員で邪神討伐に出陣してもらうってシナリオは?」

 おやっさんもミュリッタの言わんとしている事を一瞬で理解した。

「名案だな。結果的に離脱する事になっても依頼、ましてやこちらからの討伐クエストともなれば赤竜亭を離れる事を疑問に思う奴はいないだろう。もちろん命に見合う報酬があればの話だがな。」

「報酬はざっくり六百人と見積もって一人当たりミスリル大金貨五枚、総額三千枚ってところね。」

 さすがにその金額におやっさんも度肝を抜かれる。

「五枚?! いやいくらなんでも多すぎないかそれ・・・」

「いいのよ、これだけあれば死ぬ気にもなれないでしょ?」

 生還した暁にはバラ色の人生が待っているのだ、そりゃ死ぬ気にはなれないだろう。おやっさんも言い返す事が出来ないがちょっと待て、それエナンの金じゃないのか?

 思わずエナンの顔を見た。

 だがエナンは雲一つない笑顔でそれに応えたのだった。

「わかった、好きなだけ使ってよミュリッタちゃん。あ、それから俺が依頼しても全く信用されないからミュリッタちゃんのお金って事にしてくれると助かります。」

 その言葉に嬉しそうにミュリッタはうなずいた。

「任せなさい。賢者の塔の大魔導として破格の依頼を出した事にしてあげるわ。」

 かくして決戦のシナリオが動き出したのだった。



 赤竜亭が一気に慌ただしくなった。

 ミュリッタはフォルセリアを叩き起こすと今一度ガルドーとの最終決戦を挑む事を伝え再度総司令として冒険者達を率いる役目を引き受けてもらう。

 一方おやっさんは銀翼や主だった冒険者の代表達を集めると、ミュリッタからの依頼とその報酬を伝えた。

「ミスリル大金貨五枚?!」

 銀翼を含め全ての酒場の代表者が絶句した。だが目の前の鞄から流れ出すミスリル大金貨の輝きを目にした以上、その依頼が本物である事を納得せざるを得なかった。

「無理は言わん、下手をすれば相手は本物の邪神が出て来る訳だからな。」

 精一杯深刻な顔を取り繕うのに苦労しながらおやっさんは彼らに一世一代の賭けに乗るかの選択を迫る。

「時間が無いがとりあえず持ち帰ってこの依頼を受ける奴を集めてくれ。あと報酬は前渡しだ。死んでも奪われないように守護やら呪いやらを大魔導の嬢ちゃんがたっぷり掛けてくれるらしいぞ。死んだらあの世まで持って行けとさ。」

 大金に目がくらんでの同士討ちの対策はミュリッタがしっかり準備してくれた。そこまで人々の心を読めるのなら大したものだとおやっさんも素直に嬉しかった。

 ここに来てからのミュリッタの精神面での成長は著しかった。あれならきっと良い王様、もとい大魔導様になるさと思うのである。


 結果、冒険者達はミュリッタの目論見通り一人残らずこの依頼に参加する事となった。一生に一度出会えるかも分からない破格の依頼に冒険者一同大歓喜した事は言うまでもない。

 急ピッチで部隊の編制と出撃の準備が進められた。

 再度軽い食事が用意され、酒を飲み過ぎた連中は死ぬほどマズいと言われている特製の酔い覚ましを無理矢理胃の中に流し込まれる羽目になった。

 そして出撃の準備がほぼ整い冒険者達が再び赤竜亭の前に整列し始めたその時だった。事態の急変を告げる一人の伝令が突如赤竜亭へとやって来たのは。

 火急の知らせを携え単身で赤竜亭を取り囲む死霊達の群れを突破してやって来たのはアルミス伯爵軍の猛者だった。

 彼が伝えた火急の知らせ、それはアルミス伯爵からの救援要請であった。



「殿下! お下がりください!!」

 アルミス伯爵の鋭い声が響いた。今アルミス伯爵軍は死霊の大群との会敵により最前線での戦闘を強いられていた。


 ミュリッタより先に動いたのはガルドーの方であった。

 ガルドーは遂に大天使ノアルの存在に気が付いてしまった。そして彼女にまだこの状況を支配されているのだと知った今、ガルドーは今までの思考を全て放棄する決断をしたのだった。

 そして銀翼の存在に配慮して一度は諦めた最初のプランを復活させたのである。

 それは世界を愛する大天使への嫌がらせの意味も多分に含まれていた。これから大勢の者が死ぬ事になるのはお前のせいなのだぞとの。

 ガルドーは当初考えていたカエルラを死の街にするプランを実行する事にしたのである。


 だが今度もガルドーは想定外の妨害に出鼻をくじかれる事態となった。

 カエルラの守備兵と交戦になるのは想定内だった。だが想定外だったのはその強さである。

 ガルドーが送り込んだ死霊の第一陣はアルミス伯爵一人によってほぼ一瞬で消滅させられてしまった。しかも魔力を奪われ無力化されるのではなく、魂もろとも消滅させられたのだった。

 本来神性の加護でもなければ魂まで浄化する事は不可能なはずである。しかし今の伯爵には大天使テスの加護があった。神性にもまさる大天使の加護の前では邪神の力による強化も無力でしかなかった。

 その他の兵にしてもガルドーが差し向けた死霊では全く相手にならない強さだ。いくら魂さえ浄化されなければ邪神の力ですぐに復活するとは言え、相手の戦力を全く削る事が出来なければ千日手でしかない。

 かくしてガルドーはアルミス伯爵軍との死闘に突入したのであった。


 群体と化した死霊の怪物が伯爵の闘気術によって次々と粉砕されていく。

 だがそれはある意味当然とも言える結果でしかない。

 ミュリッタですらその実力を測りかねる存在、分野は違えども間違いなくミュリッタと同等、あるいはそれ以上の高みにまで達している存在なのだ。ミュリッタに一瞬で消し飛ばされた群体程度など伯爵の相手になるはずは無かった。

 それでもガルドーはひたすら数に任せた波状攻撃で相手が消耗するのを待った。

 それが闘気使いにとっての弱点である事は広く知られていたのである。


 終わりの見えないガルドーの数任せの攻撃に伯爵も内心焦りを感じずにはいられなかった。ただでさえ寡兵のアルミス伯爵軍である。このまま戦い続ければさすがの猛者達も消耗し、いずれは倒れる事は明白である。

 だから伯爵はガルドーの目的が持久戦だと明白になった時点で手を打ったのだ。今この戦場に駆けつけられる、邪神相手であろうと勝てる可能性のある存在に助太刀を求めたのである。

 単身死霊達の包囲を突破して来たアルミス伯爵軍の百人長からそのメッセージを受け取ったミュリッタは即座に全軍で伯爵の救援に向かう事を命令したのだった。


「フォルセリア! ガルドーの攻撃目標がカエルラに替わった!」

「何てこったい、あたしらのせいで市民に被害が出るような事になれば冒険者達の居場所はもうこの街には無くなってしまうだろう。何が何でも食い止めないと。」

「すぐに全軍出撃させて。私は先行するわ、案内は彼に任せる!」

 そういってアルミス伯爵軍の百人長に誘導を任せるとミュリッタは飛翔の魔法で空へと消えた。

 それを追うように銀翼も飛び立つ。そのグリフォンの背中にはおやっさんの姿もあった。

 間髪置かずに残りの冒険者達も一斉に出撃する。

 雄叫びを上げながら突進する一団の前に、行く手を阻もうとした死霊共は一瞬で消し飛ばされたのだった。


 冒険者達の目は今までに無い真剣な眼差しをしていた。

 カエルラに生きる全ての冒険者酒場が今、その居場所を失うかもしれない危機に直面していた。

 それを阻止する為なら冒険者達は命すら惜しまない。

 カエルラとその冒険者酒場は全ての冒険者にとって絶対に失う事の出来ない大切な居場所だったのである。


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