第四十二節 : 狡猾なる代行者
第四十二節 : 狡猾なる代行者
「と、言う訳だ。エナン、お前も四五発殴られとけ。」
殴り飛ばされたエナンを見ながらにやにやしているおやっさんであった。
「いや・・・これ何発も喰らったら死にますから。」
「全く、鍛え方が足りんな。俺は殴られても痛くも痒くもなかったぞ?」
まあ、それは事実ではある。熟練した闘気使いが素人に素手で殴られてもまずダメージは無い。魔術師が魔力を纏うように気を纏いダメージや魔法を軽減する技能は基本中の基本である。
「ひそひそ・・・でもキンタマ蹴られた時は少し痛そうだったわよね。」
「んまっ! いけませんわお姫様、そんなお下品な言葉を使っては。」
「・・・・・蹴りが痛くなかったとは言ってねぇ。」
「それは兎も角としてだ、エナンお前に真面目な話がある。」
さりげなくエナンに寄り添ったアルテュストネに介抱されて体を起こしたエナンに向かっておやっさんが真顔で話し始めた。
「その人なんだろう? お前を助けてくれた館の主ってのは。」
それを聞いたアルテは恭しくお辞儀をすると答えた。
「アルテュストネと申します。私は館の主であるエナン様の僕ですわ、救われたのは私の方なのですから。」
何か知らないがもう全て筒抜けになってるこの状況に何故だれもツッコミを入れないのかと、今更確かめる気力も無くなったエナンではあったがどうせミュリッタがペンダント以外にも何か仕込んでいたのだろうと思って勝手にその件は納得してしまった。
本当の所はティモ様によって盛大に盛られた武勇伝のせいでミュリッタが赤くなったり青くなったりした挙句でっかい尾ひれが付いて広まった訳であるが、そこは知らぬが仏というものである。
そんな事より何やら切迫したおやっさんの様子の方が今は気になる。その声と表情から何か良くない事が起こっている、そんな気配が伝わって来た。
その顔が疲れ果てやつれている事に気が付いたエナンは息を飲んだ。
おやっさんが深々と頭を下げて言った。
「エナン、頼みがある。ラブダ嬢ちゃんとあのじゃじゃ馬のお師匠様、そして俺のヴィクトリアをお前の所でかくまって貰えないか?」
その言葉を聞いたエナンの頭から血の気が引いていった。
人生をかけて守って来たヴィクトリアを他人の手に委ねる、その事がおやっさんにとってどれほどの緊急事態なのかは今更確認するまでもない。そしてその言葉は最早この場所が安全では無いという事を告げていた。
「おやっさん・・・いったい何があったんですか。」
昨日の夜、ミュリッタ達が帰還して暫く後、赤竜亭では急遽の作戦会議が開かれていた。
ミュリッタ達のもたらした情報は赤竜亭に計画の修正を迫るものだった。
「邪神は深き者と呼ばれる死と恐怖を司る存在です。この世に冥界の暗黒をもたらす強大な力を持った存在でしたが、太古の昔この地で水の大精霊様によって一度は葬られた存在でもあります。」
説明に立ったのはティモだった。忘れられし大天使の話を今説明する気はない、伝承を利用させてもらって説明は省略する。
「邪教徒の目的はこの邪神の復活、その目的の為に数千年の間この地で活動してきた者達です。すでにある程度の力は回復させる事に成功していると見るべきでしょう。そして偶然にも彼らが事を起こす時期が迫っていたのは間違いありません。」
「何故そう断言できるんだ。」『蒼月の丸盾』の代表が容赦ない追及を行う。これも彼の役目である。とりまとめである銀翼が無駄に反感を買うような厳しい質問をするのは避けたい、とはいえ格下の参加者ではなかなかそのような質問をする事すらはばかられる。赤竜亭と同格の彼だからこそこのような質問も許されるのだ。
何故なら彼女は聖人フォルセリアの同行者なのだから。真言の聖人の同行者が虚言を吐くなどと疑うこと自体許されざる無礼と大抵の者は考えるだろう。
まあ、それはとんでもない勘違いなのだけど。
「それは事の発端、エナン様が救った少女が邪教徒の手から逃げ出した特別な儀式の生贄とされるはずの存在だったからです。」
ティモの答えには銀翼にも思い当たる節があった。なぜあんな人などほとんどいない廃棄街区で大規模な人狩りが行われたのか、なにか腑に落ちない思いは銀翼も抱いていたのだ。
「そうか・・・それで廃棄街区なんかで人狩りをしていたと。」
銀翼の一言で多くの人間が納得したのだった。
「となるとその時点で百狼戦団が邪教徒の意図を汲んで活動しているのは明白、その点について証明はこれ以上必要無さそうだ。時間も無いし次の課題に移ろう。」
なんでエナンの事情をそんなに知っているのか等々追及しはじめたらきりが無さそうなので銀翼はさらっとその辺りは流してくれた。
「問題の邪神司祭ガルドーは奴隷商人を名乗ってカエルラで活動していました。教団に詳しい者の話では奴隷商人をしていた理由も生贄を集める為の手段であった為でした。彼がこの地域の邪教徒達の元締めで間違いないという事です。」
ロドピスからの情報が大いに役に立った。少なくともガルドー以上の使い手はいない、それだけでも貴重な情報である。
「そいつなら話を聞いた事がある。傷病人やら客を取れなくなった娼婦なんかを安値で引き取る変な奴隷商という話はあったな。」参加者の誰かからそんな話が聞こえてくる。引き取られた者達がどうなったか、想像するのもおぞましい話であった。
だが、真の元凶はそのような者達を生み出し絶望に追い込むこの社会そのものである。ティモは憐れな者達を食い物にした奴隷商の事をしたり顔で罵倒する参加者達にこそ嫌悪を感じるのであった。
ならば何故お前達は彼らを救ってやらなかったのだ。自分には何の責任もないと思っている無意識の加害者達、そんな存在がいるかぎり邪神が消える事など無いのではないかと思えてしまう。
苦しむ者達に救いの手を差し伸べた心優しきシスターは殺され、なにもしない痴れ顔共が正義面をしてのさばっている。今でも時々、此の世の理不尽を呪わずにはいられない気持ちになるのだ。
ミュリッタは沈黙してしまったティモを座らせるとその後を引き継いだ。
ティモが歯を食いしばって飲み込んだ言葉はミュリッタにも理解できる。
『なぜお前達は何もしなかった』それはミュリッタにしても同感であった。今更の話だがそんな胡散臭い奴隷商にゴミを捨てるように働けなくなった人々を下げ渡して彼らが救われるとでも思っていたのかと。
悲惨な末路が分かっていながら都合よく使ってきた外道が今更何を言うかと思う気持ちはミュリッタとて同様であった。
「黙れ、ゴミは貴様らとて同様だろうが。」
ミュリッタはティモのように沈黙はしない。最大の侮蔑をこめてミュリッタは言い放った。
「この街の人間共がそうやってせっせと邪神に餌を与え続けてくれたおかげで今それと対峙せざるを得ない状況になっている、ということよ。それが理解出来ない馬鹿はいまここで私が殺してやるわ。文句があるやつは前へ出なさい。」
息が詰まるほどの圧がその場を満たしていた。
誰一人ミュリッタの言葉に反論する事は出来ず、その場は沈黙に包まれたのだった。
ミュリッタがラブダの顔を初めて見た後の事だった。
足を痛めて歩く事もままならないラブダを見て嘆くロドピスから聞いたのだ。
ラブダは唄や楽器よりもさらに踊るのが大好きだったという事を。
だがラブダの足は傷つき踊る事は出来なくなってしまった。しかしそれはガルドーが意図的に彼女にもたらした事なのではないか、そんな疑念をミュリッタは感じ始めていた。
当然ながらラブダは踊れない足になってしまった事を悲しみ、その心は体以上に大きな傷を負った。さらに追い打ちをかけるように傷物、役立たずのレッテルを貼られた彼女は歌姫になれる見込みは無くなり、近々娼婦にされて男達の慰み物となるという話を聞かされる。だからラブダはそんな未来を拒み命懸けで奴隷商の元から逃亡したのである。
当然追手がかけられたろう。だがラブダは機転を利かせそれをかいくぐり見事に市街から脱出した、という。
それがまず腑に落ちないのだ。ミュリッタも尾行されたらからこそ分かる。ガルドーが本気になれば逃げ出したラブダなど見つける事は容易い事だったのではと思えてならない。そもそも重要な生贄のはずであるラブダを見失うなど理解に苦しむのだ。
だがそれでもラブダは逃げおおせた。
そして彷徨った果てにかつてのティモが育った悲劇の舞台であるあの孤児院跡へと辿り着き、苦痛と飢えと寒さに必死に耐えながら救いが訪れるのを待ち続けたのだ。
そしてエナンと運命の出会いを果たし救われたかと思った時、それを嘲笑うかのように再び運命は暗転する。彼女に用意されていたのは愛しい人と離れた僅かな間に暴漢達に襲われ、汚され嬲られて苦痛と絶望の中で死んでいく末路であった。
まさに死と恐怖を司る邪神へと捧げる生贄に相応しい最後だとは思えないだろうか。
その絶望した魂はさぞや邪神にとっては甘美な供物となった事だろう。
それがもしガルドーの意図した筋書き通りに進んだ事だったとしたら・・・ミュリッタはその推論に戦慄したのだった。
偶然に重なる偶然の連鎖がもたらす定められていた結末、それは因果の流れという必然に他ならない。もしそれが事実だとしたらガルドーは既に邪神の因果を操る存在、つまり神の代行者であるという事になる。
そんな男がこのカエルラという都市そのものを絶望した魂の生産装置として操り生贄を作り続けていたのだとしたら、想像を絶する狡猾さと周到さを兼ね備えた存在である事は間違いなかった。
だがそんなガルドーですら想像していなかった事態がラブダに起こった。何故なら、ラブダが出会った存在が“エナン”だったからである。
火の大天使の灯した小さな炎が加護となってラブダの魂を救ったのだ。ラブダは決して諦める事なく絶望する事なく最後まで抗い続けた。そしてラブダの魂は邪神の因果を打ち破り、気高く誇り高いまま死を迎えた事によって生贄の運命を回避したのである。
そしてエナンのもたらした奇蹟によってラブダは蘇り呪われた因果は反転した。ガルドーの定めた因果に綻びが生じそれが拡がり続けている事は間違いない。そして今の赤竜亭の状況もその延長線上に存在する。全てがガルドーの掌の上という訳ではないはずなのだ、今はそれだけが救いであった。
だが邪神の代行者、つまりは邪神の真理に相対して赤竜亭の冒険者達が抗えるのか、それは全く別の話だ。単純な力比べで考えてもほとんどの冒険者はガルドーと相対すれば殺されるだろうとしか思えない状況だった。
しかし全ては推測に過ぎない。それをこの場で言うべきなのかミュリッタは迷っていた。
やはり最悪の想定だからこそ言わねばなるまい。間違っていたなら笑って済ませば良いのだから、そう決心するとミュリッタは口を開いた。
「ガルドーという存在に関して知り得た情報を見た限り奴は既に邪神司祭などには留まらぬさらに高位の存在、代行者の域に達していると考えられる。それは即ち邪神の真理である死と恐怖の象徴を顕現出来るという事を意味する。」
抑揚の無い冷たい声で賢者ミュリッタはかく語る。これもミュリッタの持つ数多の姿の一つである。普段は意識の深層で黙々と思考を続ける並列意思が表へと姿を見せるとこうなるのだ。
「一つ、奴はすでに因果を定める力を持つに至る。お前達が無意識の内に弱者を虐げ絶望へと導き、それが邪神の糧となっていたのも定められた因果故の事。」
隣でティモが息を飲む気配がした。ティモですら気が付いて居なかったのが逆に恐ろしい事に思える。そう、気付かせる事によってのみしかそれに抗わせる事は出来ないのだ。気付かねばそれこそガルドーの掌の上で踊る事となる。
「二つ、ガルドーの活動歴は既に人の寿命を遥かに超えている。姿名前こそ変えてはいたかもしれぬが邪神司祭として古くから活動している事が確認出来ている。」
これはロドピスに確認した事だ。表向きはともかくガルドーは間違いなく常人では有り得ない期間司祭として君臨していた。
「三つ、件の邪神教団の起源は遅くとも古代魔導帝国期にまで遡る。強力な呪いの結界で虚構の館を造りあげ、人の心を悪夢の中に捕らえ操るような邪法も行使する強大な力を持つにも関わらずその存在は現在全く知られていない。ならず者達の理解しがたい結束力や統率も恐らくは信仰心とは無縁の精神支配でしかなく、本当は司祭だけが唯一の邪神の使徒ではないかと推測される。そしてそれらの自覚の無い邪神の奴隷の存在は神性の力の影響を示唆している。」
邪教徒の集団が危険分子として名が挙がるどころか、全く存在すら知られていなかった事は伯爵に確認した。伯爵も薄々感じていたようだが、ただのごろつきにしか見えない百狼戦団の結束力には不自然さしか感じない。それが邪教徒と関わっているとなれば尚更の事である。
普通に考えればならず者達が邪神を信奉しても得られる利益などない。集団として結束する事以外の利点が無いのなら邪神を信奉するなど余計な束縛でしかないのだから。
だが外道共を束ねて数の力を与えてやれば放っておいても悪辣非道の愚連隊と化して弱者を喰らい蹂躙し欲望のままに死と恐怖をまき散らす暴力装置が完成する。邪神の為に魂を蹂躙する道具としては申し分無いではないか。
そうやって邪神になど全く関心の無い人間達を協力者に仕立て上げ、自らは素性を偽り誰に疑われる事も無く人間社会の中で邪神復活の為に活動し続けていた。その狡猾さこそが真に恐れるべきガルドーの本質なのだ。
「以上の事からガルドーは既に邪神の力を行使する代行者であると結論する。」
ミュリッタは無慈悲にそう宣告した。
居並ぶ面々から面白いように血の気が引いていくの見える。それで良いのだ、油断してやられるよりは警戒していたほうがまだ幾らかはましだろうから。
そしてここから先は彼ら自身が決める問題であった。
一口に代行者と言ってもその性能にはピンからキリまである。
ティモのように神性の存在の半身として当たり前に降臨を行うような規格外の代行者などまず存在しない。それは主たる神性の問題でもあるのだが、神の多くは尊大な存在なのである。人間に代償なくその力を行使させるような神はほとんどいないし、強大な神の力に耐えうる精神と肉体を持った人間も滅多にいないのだ。
代行者といっても神そのものとは比べ物にならぬほどに脆弱な存在、故に人の身であっても決して勝ち目が無い訳ではない。
だが今回ばかりは相手が悪い。根源になる邪神の真理が死と恐怖である以上、一度力を使われてしまえば犠牲は避けられそうになかった。
誰だって本音は自分が先頭を切って餌食にはなりたくない。さりとて今更逃げ出せば信用に関わる。誰がどうするどうなるの応酬で会議は一気に荒れた。
だがそんな状況を一喝して黙らせたのはフォルセリアだった。
「死ぬのが怖い奴はとっとと帰んな。ガルドーが代行者っていうのならあたしがタイマン張ってやるから露払いだけしてくれれば良いさ。」
真言の聖人のその言葉で多くの人間がようやく平常心を取り戻したのだった。
そして銀翼のような本物の猛者達はその間ただ静かにそれを眺めていた。
これは戦いなのだ、どんな容易いと思える戦でも運の悪い奴は死ぬ。
死ぬかもしれないと思っただけで足がすくむようでは話にならない。参加する以上は覚悟を決めてもらうしかなかった。
いかに代行者の力が強力であろうとも恐らくその力が使えるのは一瞬に過ぎない。例え仲間の屍を乗り越えてでも相手が切り札を使った後の一瞬の隙にその喉を喰い千切る。死線を渡って来た者達にとっては勝機とはそういう物であった。
「じゃ、方針を決めようか。」
フォルセリアが一同に向かって言った。その言葉にこめられた何かは有無を言わさず彼らを従わせたのだった。
結局相手の手の内が分からない以上大した事は決められなかった。
ただ、死霊召喚や暗黒魔術の力が弱まる正午に合わせて行動するという事で方針はまとまった。真昼の光の下であれば死霊を召喚する事はほぼ不可能になる。それだけでも相手の戦力を大きくそげる可能性があった。
宣言通りガルドーが出てくればフォルセリアが対応してその力を封じる。あとは状況に応じて対処する、そう決定すると会議は終了した。
代行者と同等以上の存在が自分達の側にも居るのだと改めて再認識した冒険者達は表面上はすっかり落ち着きを取り戻したのだった。
もちろんフォルセリアは冒険者達を安心させるために出まかせを言っているのではない。この世界で最も信仰を集める大神格の聖人たる彼女にはそれだけの事が出来る奥の手がまだ残されていた。
神にすがる者と神に愛される者の格の違い、聖人の真の実力はただの代行者風情などとは比べ物にならぬのだ。力比べで負けるつもりは毛頭なかった。
ふぅ・・・と大きく息をつくとフォルセリアは身体の力を抜いた。
「おつかれ、フォルセリア。」
ミュリッタが役目を終えたフォルセリアの所にやってきた。そのミュリッタをがばっと抱き上げると膝の上に乗せて羽交い絞めにした。
「ミュリッタぁ~! まったく、物には言い方ってものがあるだろう。縮まっちまうくらいビビらせてどうすんだい!」
「ぐひぃ~! ぐるじいって!」
これが二人のいつものスキンシップである。ミュリッタはこうやって包み込んでくれるフォルセリアが大好きだった。
「まあいいじゃない、雨降って地固まるってことで。」
「何が固まるだい危うく土砂崩れだよ。大体こんな夜遅くまでどこで油売ってたんだい? また何かやらかしたかと思って心配したじゃないか。」
「邪教徒の拠点を一個ぶっ潰してきたのよ、そこの暴力神官が。あと伯爵にお昼ごはん御馳走になってきた! 超おいしかったよ。」
「いいねぇ・・・君たちは楽しそうで!!」
フォルセリアにぐりぐりされながらはしゃぐミュリッタ達を見て『邪教徒の拠点ぶっ潰すのとお昼ご飯が同列なんすか・・・この人たち怖い。』と周囲の人間に思われていたのは言うまでも無い。さらに魔力に磨きのかかったミュリッタ様の前では赤竜亭の面々も戦々恐々であった。
「あ、あと言い忘れていた。もう伯爵が市街の外に出て部隊の指揮に入ったわ。自分から手を出す事はないかと思うけどちょっと危ないから絶対近付かないでね。」
銀翼も同じような事を言っていたが少し様子が違うようだ。ミュリッタが危ない等と言う時点で完全に警報級である。それに反応したのは銀翼だった。
「その話、聞かせて貰って良いかな? 今どういう状況なんだい。」
「事件が起こって門が閉鎖されてたから伯爵に同行して市街を出してもらったんだけど・・・」そう言うミュリッタの顔が渋っ面に変わった。
「あのバカ王子が能天気に観戦したいとか言い出して付いてきちゃったのよね。おかげで伯爵も神経すり減らす羽目になりそうな状況よ。」
「なっ・・・・!」
さすがにその展開はまずい。王子の安全を確保するためには伯爵もより攻撃的にならざるを得ないだろう。その上王子がまた何か余計な事を言い出したら、と展開が予測できてしまった銀翼であった。
そんな銀翼を見てミュリッタは付け加えた。
「まあ伯爵は邪教徒の事に勘付いていたから危ない事にはならないんじゃない? あとね・・・」そう言うとミュリッタはニヤリと悪魔的な笑みを浮かべた。
「これ以上余計な事が出来ないように少し仕込んでやったわ。今頃青い顔をしているんじゃないかしら。」
うわぁ・・・と一同下腹部になにやら違和感を感じた瞬間であった。