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八話 神殿での仕事

祈りの時間が終わると、食堂に移動し、朝食の時間となりました。

食堂は宿舎の一階にあり、当番の方が掃除をしていた時間に、食事の用意されていたようです。

温かいスープにやや硬めのパン、マルイモを蒸したサラダ。モウブーの乳に、チーズもついています。とても美味しそうですね。


「自然の恵みに感謝しましょう、天空の女神様、大精霊神様、大地母神様毎日の糧をありがとうございます」


「さて、食べましょうか」


皆で祈りそれが済むと、黙々と食べ始めます。

この神殿では食事の時は私語は厳禁、糧になった命に向き合い感謝し、味わう事に集中するためにそう決められて居るのだそうです。

始めは戸惑うでしょうがと、ここでのやり方なので守るように、そうフェリスさんに言われました。


そうですね、食事は普通は親しい人とお喋りしながら、楽しくするものなのでしょう。

私は、自宅でも家族と食事を共にする機会は少なく、元々普段から皆に無視されて過ごしていたので、特段苦ではありません。

むしろ、そうする事がマナーだと決まっているのは、気が楽でもあります。


何よりきちんと一人分が用意され、ゴミや虫がわざと入れられている様な事がないのですから、喜ばしい事です。


「美味しかったですわ」

食事が終わると思わずそう、呟いてしまいました。

朝から身体を動かしたからか、とってもお腹が空き。それを満足できるだけ、充たす事が出来たのです。それは、なんとも形容しがたい幸福感を私にもたらしました。


「そう、良かったわね」


「はい!」


「……変なの、猫被ってるの?」

フェリスさんや、周囲の方に少し怪訝そうな表情をされてしまいましたが。


「ま、いいわ、食べ終えたなら掃除が終わっていないし、早く行きましょう」


「は、はい」

朝食後は、それぞれの仕事に従事する時間なのですが、私たちは宿舎の掃除の残りを先にすませます。

次回、明日からは、時間内に終わらせなくてはいけませんね。

皆様に、ご迷惑をお掛けしてしまいます、特にフェリスさんに。




「遅れて申し訳ありません」


「申し訳ありません」

二人で頭を下げて入室いたします。


掃除を終えて、案内されたのは作業場でした。

すでに多くの方が机に着席し、書き物や、祭事に使う小物、販売しているお守り等を作っています。

フェリスさんに促され、彼女と共に、仕事の開始時間に遅れた事を謝罪し入室して席に着きました。


彼女は私の所為で遅れましたのに、一緒に頭を下げて下さったのです。


「貴女貴族だから、文字は読めるのよね」


「はい、多少は」

この国の言葉であるラルー語と帝国語、周辺の国の言葉と古語は少しだけ。

私が説明すると、フェリスさんは傷んだ文字の書かれた紙の束と、真新しい白紙の束を机上に差し出しました。


「ならいいわね、貴女には書写の仕事をして貰うわ」


どうやら片方は見本で、それを元に聖句の写しを作り、信徒に配布するのだそうです。

これも神殿の大切な仕事なのだとか。


「これは木版にして刷らないのですか?」


「何を言っているのですか、これはただ書き写せば良いと言う訳ではないんです。一文字一文字、祈りを込めて書く事が重要なんです」


つい、疑問を口にして怒られてしまいました。

確かにその通りですね。

私は謝罪し、与えられた仕事に従事しました。よく見知った祝詞や聖句もあれば、初めて読む話もあり。とても興味深く、思いがけず楽しい時間です。


たまに見本に綴りの間違いを見付け、フェリスさんに聞くと後で原本を確認すると言われ、どんどん報告するように指示もされました。

見本も写しの写しだそうで、間違いが稀にあるのだそうです。


「字が読めない人も居るのよ」


「そうなのですね」

それでも祈り、神話を反芻しながら書写をするのは、修行の一環。

しかし、形のみを捉えて書くので、間違える場合もあるのだとか。勿論、潰れたり掠れたりで、劣化で読めなくなる事も。

見習いの私が任された見本は、あまり人気ではない物が多いので、修正されていない箇所が多いのだろうと言われました。


そうしてその仕事を昼食まで、昼食後にはまた、神殿に集まり祈りを捧げる儀式をいたします。


午後は、午前中にいらした参拝者の、後片付けを任されました。

私は罰として神殿に預けられている身なので、外部の方に接触する事は当分ないそうなのですが、神職として交代で訪れる信徒や怪我人、病人、様々な救いを求める方に対応するのも、重要な仕事だそうです。


その中で今私が任された仕事は、汚れたシーツや包帯を回収し、新しい物と交換してセットする事。

私が、素早く作業が出来ないのは判明して居ますので、一番簡単な事を任されたようでした。


それでも労働に、息が上がり、汚れ物を扱うのに色々と注意を受けてしまいます。


「大変な仕事ですわね」


「当たり前でしょ、これくらいで愚痴を言わないでよね」


「はい」

その通りです、他の皆様は私より何倍も働いて、更にこの後、午後からいらっしゃる参拝者の治療や、お世話をされるのだそうですから。

これが終わったら私たちはまた、室内で書写の続きですので、これでだいぶ楽な仕事を、割り振っていただいているのでしょうね。

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