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七話 祈りの時間

「駄目ね、取りあえず洗面台の水だけ補充しましょう、間に合わないわ」


「す、すみません」


「最初だからしょうが無いわね、腕力がこんなに無いとは、よっぽど甘やかされていたのね」

甘やかされて……いたのでしょうか?

それだけは、すんなり受け止めることが出来ませんでした。

でも、確かにフェリスさんと私は違います。箒を掛けたり、雑巾を絞ったり、棚を拭いたり、大したことの無い動きだと思っていましたが、宿舎の廊下を綺麗にするだけで身体のあちこちが痛くなって仕舞いました。

圧倒的に体力と筋力が足りていないのです。


それは、日々私が何もしてこなかった証拠。


「こっちの桶は飲み水用だから、間違えないで、掃除用は用具入れに仕舞って。裏の井戸に行くわよ」


「はい」


二人で一つずつ大きめの桶を持ち裏口から出て、裏庭の片隅小さな屋根の付いた井戸へ参ります。

付くと直ぐにフェリスさんは井戸に置いてあった綱付きの桶を、中にと落しました。これは釣瓶と言うらしいです。

井戸の水が釣瓶に入ると、綱を引いて上に引き上げます。屋根の上に小さな車輪が付いていて、綱を引く度に鈍く回りました。


上がってきた釣瓶をフェリスさんが捕まえ、持ってきた桶に水を移します。


「何度か往復する事になるから」

二人で綱を引きましたが、かなり重く、大変です。

こ、これは、どうにか少しでも楽にならないでしょうか。一応私には水の加護があるのですから。


「あの、ご提案があるのですが、よろしいでしょうか?」


「なに? 時間が無いのだけれど」


「あの、魔術で水を運んでは駄目でしょうか?」


魔術で出した物は、術者が維持しなければ消えてしまうので、飲み水として溜めて置く事に向きません。しかし、元々自然に存在している水を操ればその心配もありませんわ。


手で運ぶより余程簡単に出来ます。

ただし、掃除自体が修行であり、私に課せられた罰でもある、そう言われてしまう可能性もあります。そうとなれば、提案自体が怠慢と取られて、ただでさえ悪い心証を、悪化させてしまうかもしれません。


「……そんな事出来るの?」


「はい。では、少しだけ」

このくらいならば、妖精キャディキャディ様に力を借りる必要も無いですわ。世界に宿りし水のマナに、呼びかけましょう。


「水よ、我が意思に従い、こちらへ。求水」


私の求めに応じて、井戸の中より水が自ずと飛び出して、大きな塊となって浮かび上がります。大体一つの水瓶がいっぱいになる程度の量に調節いたしました。

このままゆっくりと運んでいけば、簡単に水の補充が出来ます。


「…………そこは、嘘つきじゃないのか……?」


「あの、駄目でしょうか?」


「……いえ、いいわ、そのままこっちへ」


フェリスさんが先導して下さるのに続いて、一階の洗面台に設置された水瓶に水を注ぎました。

それから、許して戴いたので、一階と二階の残り三つの大きな水瓶を順に巡り、一応の作業を終えます。


多少はお役に立てたでしょうか?

しかしそれもまだまだ足りず、神殿の本殿に皆さんが集まり出す時間になってしまったようです。


「祈りの時間です、行きましょう。神官長様の有り難いお話を拝聴してから、神霊様と対話を試みて貴女なら重ねた罪を懺悔しなさいね」


「はい……」


急いで本殿に入って直ぐ、礼拝堂の並べられた長椅子、空いている場所を見付けて私も腰を下ろしました。

側面にある大きな色ガラスの窓、漸く上り始めた朝日がその模様を床に落とし、正面祭壇には天空女神様の像が見守って下さっています。


爽やかな香りが、銀の香炉から漂い。

清浄な雰囲気の中、左側にある説法台に神官長様が立ち、お話を始めました。


「みなさんおはようございます。今日も共に新しい朝を迎えられた事を、尊き三神様に感謝いたしましょう。さて、私たちが守神であらせられる天空女神様はある時、三柱の天使様を使わしこの様に仰いました……」


穏やかな口調、経典の中の文言を引用し、実際の生活に落とし込むための解説をして下さいます。


「みなさん、隣人には親切にいたしましょう……」


お話が終わると、全員で祈りを捧げます。

私は隣のフェリスさんに倣い、手を組んで祈る姿勢を取ります、がしかしいったい私は何をお祈りすればいいのでしょうか。


無難に国や民のことでしょうか。

それとも、懺悔でしょうか。


そうですね、婚約破棄の諸々の罪は誓ってありませんが、もう朝の時点でご迷惑を沢山おかけしてしまっていますので、その事については心から懺悔したいと思います。


それから、少しも身体を鍛えてこなかった自身の生活態度とか。願わくば、少しでも早く掃除の仕方を覚えて、フェリスさんの足手まといになりませんよう。

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