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五話 初日

まだ暗い時間にノックの音。

わたくし感動してしまいました。誰かが、朝起こしに来て下さるなんて、何年ぶりの事でしょう。


来て下さったのは、フェリスさんでした。彼女は昨日お食事なども、部屋まで持ってきて下さいました。

ここでは食堂で集まり皆で一緒に食べるそうなのです。しかしまだ、皆さんに紹介するには、私が落ち着いて居ないだろうと、配慮して下さった様でした。


「起きてますか?」


「はい、大丈夫です」


「着替えは……」


「勿論大丈夫ですわ」

昨日も驚かれたのですが、基本的に貴族の令嬢は、自分一人で着替えないものです。

私も血の繋がったお母様が居た頃はそうでした。


でも流石に長年の、侍女を付けていただけない生活で慣れましたのよ。それに修道女として用意して戴いた衣服は、ドレスなどよりとても着やすい物です。


嬉しい事に、これから神殿での修行と仕事をするのですから、動きやすくもありますわね。


思えば、着飾ろうと誰も見もしないのに、お古のドレスをパニエで膨らませ、コルセットできつく絞め、足に合わないヒールで歩く。それはとても虚しく悲しい行為でした。


「そう、て、手間が省けたわね」


フェリスさんは私の着替えを手伝うつもりで、いらして下さったようです。嘘つきの令嬢だと思われているのに、彼女はとても親切なのかもしれませんわね。


聞き取れませんが、口の中で何事かモゴモゴと言葉を転がしています。

彼女には何も出来ないと思われているのでしょう、そして、それは正解だと思われますわ。


「なら、直ぐに行きましょう」


「はい、よろしくお願いいたします」

私が黒い修道服の裾を持ち上げ、軽く膝を曲げると、フェリスさんはムッとした顔をされました。

どうしたのでしょう?


「それ、それは辞めた方がいいわ」


「それ、っとおっしゃるのは?」


「それよ。その、今の挨拶!」

指摘され、初めて気付きました。淑女としての挨拶や動作は、ただの修道女には必要では無い。いいえ、似つかわしくないのですわ。

フェリスさんには馬鹿にされているように感じると、言われてしまいました。


「そ、そんな事はございません。決して、馬鹿にしたりなどと……」


「なら辞めて貰える、ここで馴染んでいく気があるのなら、無いならいいけど」


「辞めます」

今すぐに改めますわ。他にもう私は行くところが無いのです。

この場所に馴染みたいです、出来れば親しくしたいです。せめて失礼の無いように振る舞いたいのです。


「申し訳ないのですが、挨拶などは皆様どうされるのか、教えて戴けますか?」


「どうって、普通に頭を下げるか、丁寧にしたいなら身体の前で手を軽く重ねて頭を下げるか……」


なるほど、よく考えればメイドや執事たちがしていましたわ。

挨拶と言うより、出迎えとか控えている時の気がしますが、退出する時とかこんな感じで頭を下げながら辞す事を宣言して、出て行きます。


やってみた事が無いものは、身につかないものですね。

ちょっと練習した方がいい気がします。


「よろしくお願いいたしますわ」

頭を下げ始めてから、発言を開始して教えていただけたように、腰を折ります。

フェリスさんにお願いして、監督していただき、何度が練習して及第点をいただきました。


「ちょっと深く頭を下げすぎ、そう、そのくらいでいいわ。でもこれは、色々なところで習慣の違いが出てしまいそうね……一つ一つ摺り合わせるのは面倒だし、とりあえず周りに合せてやってみて、何かあったら直ぐに注意するから!」


「解りました、ご指導お願いいたします」


「うーん、動作が……品があるのは仕様がないのか……」

ご迷惑おかけします。


挨拶から教えていただいて、フェリスさんの後に続いて部屋を出ます。

階下に下りて、洗面台を使わせて戴きます。私たちの他にも朝の準備に出てきている方たちが沢山いらっしゃいました。


「おはよう」


「おはようございます」

フェリスさんの真似をして、挨拶をいたしますと、少し驚いた顔をされましたが同じように「おはよう」と皆様返答して下さいます。

なんでしょう、朝からご挨拶をし会う、返答していただける。とても、とても嬉しい事ですわ。

家では、殆どの者から無視される事が多く何時からか、私の生活から失われていた事でした。


「朝のお勤めの前に皆に紹介するから」


「はい!」

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