四十七話 救助それから
城を出ると、ザハエル様は神殿跡に少女の遺体を安置すると、飛んで行かれました。
別れた私は、惨状に一瞬悩んだのですが、助けを求める声を聞き。
水を操り、建物の上に取り残された人々を、下ろす事から始めました。
怪我をした人を回復し、現状の確認をして回ります。
そうこうしていますと、王都の人たちが協力して下さり、皆で助け合うことが、出来はじめました。
修道女だと、一目で解る格好をしていたのも、良かったのかもしれません。
それと、朗報なのですが……。
「ぶはぁっ……」
「お、お前良く生きていたな」
「自分でもそう思う、けど何か水の中でも呼吸が出来たんだよ」
「んな馬鹿な」
キャディキャディ様の欠片を取り込んでいた人たちは、彼女の力により水の中で溺れる事が、無かったのです。そのお陰で思ったよりも、人死には少ないようでした。
「しかし、なかなか水が引きませんね」
水の中で、助けを求めている方が大勢居ます。
沈んでいるだけでしたら、水流を操り直ぐに出して差し上げることが出来るのですが、瓦礫に挟まれていますと水を避けながら掘り出すことが必要になります。
私だけでは、どうにもなりません。
「それは、流石にゆっくりだ。急いでやると建物が流れるし地面が抉れる」
「ザハエル様、そ、そうなのですね」
「修道女様、有り難うございます、有り難うございます」
戻ってきたザハエル様に、ひょいと瓦礫を持ち上げられて少し驚いてしまいました。いい加減、急に現れる彼に慣れなくてはいけませんね。
「一応今はアマトで、な」
「あ、はい、申し訳ありません」
見れば、今は翼を仕舞われておりました。
アマト様は、広く正体を明かすつもりは無い様です。
確かに人々を支援をするのに、神霊様が直接いらしていると解れば、余計な混乱を生むでしょう。アマト様に伺えば、面倒だから等と言われてしまいそうですが。
「どうにせよ、水が引くまで数週間、乾くのにも同じくらい掛かる、術で短縮出来て半分くらいだな」
「すると、その間の食料や安全に過ごせる場所が、必要ですわね。それと人手も」
聞いたところ、雨は月の初め、儀式をした頃から降り続いていたそうです。
最初は物流もあったそうなのですが、雨が長く強くなるとそれも難しくなり、備蓄で食いつないでいた人が多いのだとか。
既に王都の蓄えは少なく、疲弊している人が多いのです。疲弊している者同士では、助け合うにも限界がございます。
水だけは、私でも求水で出すことが出来ますが……。
「ま、何とかなるだろう、援軍も来ていることだしな」
そのお言葉通り、フェリスさんが修道院の人たちを大勢連れて、数日後には助けに来てくださいました。
全員に凄く怒られてしまいましたが……。
それから。
私たちは王都の復興に、尽力致しました。
そして、キャディキャディ様の霊を回収する事も同じく進めてまいりました。
数月経つ頃には、王都に散らばった欠片の回収は完了し、王都の人々も何とか再建の見通しを建てることが出来るようになったのでは無いかと、思われます。
その間、王族や貴族の間で色々と争いや、再編があったようですがそれは私には関係が無いことですね。
責任を取らされ国王が退位したり、ブレダン王太子が王位継承権を失ったり。コールドウィン伯爵家が、取り潰しになったりいたしましたが、もはや関係の無い事です。
「マリーは修道女です。もう世俗とは関係がありません!」
……そうですね、私の方も確かに揉めたのですが、フェリスさん始め神殿で保護して下さったので、とても助かりました。
キャディキャディ様の事があった直後でしたので、流石に無茶をしてくる人が居ませんでしたから。
それに、王都に居た貴族と関係があった神官は、亡くなってしまいましたので……。
「ところでお二人に、お願いがあるのですが、宜しいでしょうか」
私は、悩みましたが、やはりちゃんと相談しようと、フェリスさんとアマト様に声をお掛けしました。
「どうした?」
「お願いなんて珍しいわね」
「あの、一応私の罪、罰? と言うのは無くなったらしいのですよ」
「それは良かったわ」
「まぁ当たり前だな」
お二人は、当然の様に喜んで下さるのですね。
「それで、あの……自由に移動が出来るようになりましたので、他の場所に散らばってしまったキャディキャディ様の欠片を集めて回りたいのです」
「な!? 駄目よ」
「駄目でしょうか?」
「一人で危険じゃない」
フェリスさんに止められてしまいました、でもそうでは無くて……。
「ええ、ですからその……お二人に一緒に来ていただければと、駄目でしょうか」
「いいぞ」
「本当ですか、有り難うございます!」
アマト様は即答で、了解していただけました。
元々、キャディキャディ様の欠片をそのままにする訳には行かないと仰って居ましたものね。
「待って、それなら私も行くわ! でも神官長様にもちゃんとご相談してからよ」
「それは勿論です」
良かった、フェリスさんも来て下さるようです。
三人で、いえ。キャディキャディ様も含めて四人ですね。欠片を求めてこの国を見て回るのは、少し不謹慎かもしれませんが、楽しいものになる気がいたします。
そうして、キャディキャディ様を元に戻したら、北の修道院に共に戻りましょう。
きっと……。




