四十六話 拒絶
ヒュンと音がして、青い槍が妹に突き付けられました。
「寄るな」
ザハエル様は、呆れたような視線を妹に向けております。
「ザハエル様」
そう言えば、殺した方が良いと言われていたのでした。あの時、納得していただけたと思いましたが、気が変ってしまったのでしょうか?
ま、まあこの惨状では、そうなるでしょうか……。
しかし流石にそれは止めて欲しいと、裾を引きますが、ちらりと視線を向けられただけで、流されてしまいます。
どうされるお積もりなのでしょう。
本音を言いますとこんな事をしているよりも、キャディキャディ様の欠片を探したり、王都の人々を助けに行きたいのですけれど。
「ザハエル様、そんな怖いですわぁ」
「いや、よく普通に話し掛けてくるよな。お前さっき、俺の福者に斬り掛かっただろう?」
福者と言われて、妹は怪訝そうな顔をしますが、ザハエル様が視線で私を示されると納得した様子でした。
「それは、悪魔の気を引くために、わざとやったのですよ」
助かったでしょうと、妹は言います。
なるほど確かに、キャディキャディ様は彼女の行動で私の方を向いて下さいました。あれが無ければ、封印にも、もっと手間取ったかもしれません。
しかし、私としては納得は難しいです、彼女は本気で私に殺意を向けていました。
「悪魔なぁ、確かに気は引けただろうが……」
「そうですよ、それにザハエル様は、お姉様を助けようとはしていなかったじゃないですか?」
ザハエル様が槍先を下げ、同意されると、妹はそう続けます。私を助けるつもりは無かった、私は重要な存在では無いと、そう言いたいのでしょう。
何時ものことです。
ザハエル様はどの王侯貴族よりも、美しいですからね妹は一目で気に入ったのでしょう。
何だか、嫌な気持ちになりますね。妹の側に居ますと、昔に戻ったような気分になってしまいます。
神霊様同士の戦い、その最中の事です、助けられなくても普通です。それを色々言うことで、不和を起したいのですわ。
「いや、こいつには前もって守りの神術を渡してあるからな、平気なのは解っていた」
「あ、そう言えばそうでした。(だいたい)全ての攻撃を防ぐのでしたね」
練習で掛けた守りの神術が、そのままだったのですわ。
力の元であるザハエル様には、確り把握されていたのですね。正常な判断が出来なかった、キャディキャディ様は慌てて助けに入ってしまったのだろうと、仰いました。
「キャディキャディ様……」
『まりーうわああぁん』
「それがなけりゃ助けに行ってる」
「ザハエル様、有り難うございます」
確かにそうです、お二人とも私を心から心配して下さいます。
優しい神霊様達なのですわ。
「別に、お前が怪我をすると五月蠅い奴がいるからな」
「なるほど、フェリスさんですね」
それで無くても、置いて行かれたフェリスさんがとても怒って居るのを、分霊体で見ているらしいです。
後で一緒に謝らなければいけませんね。
「……何で、お姉様ばっかり……。ええっと、私、私もそうだと思っていたのです、決して本当にお姉様を傷付ける気は無くって」
焦ったように妹は言い繕いました。
「それはお前に知り得ることでは無いと思うが……で、それで?」
「えっと、ですから……」
ザハエル様は素っ気なく返答します、神聖な神霊様ですから当たり前ですが、妹の秋波が効いていないようですわね。何と言いますか、珍しい光景です。
それに、妹は何を言いたいのでしょう。
「もういいか、この後始末をしなくちゃならん。マリー」
「はい」
声を掛けられ、手を引かれました。
直ぐに城を下りて、水流に取り残されている人々を保護致しましょう。全身全霊を持って、王都の人々を助けて見せますわ!
「待って、私も! 私もお手伝いするわ! だから、私も、私も聖女にして!!」
妹が、ザハエル様に縋り付きます。
なるほど、それが言いたかったのですね。
「いやっと言うか、こいつも別に聖女じゃないぞ」
「ええ、前から言っていますが、私は加護を戴いただけで聖女ではありません」
「ならそれを、私にもちょうだ……っ」
妹は発言の途中で、ザハエル様が抱いた少女に気が付いたようでした。妹の事ですから、恐がってしまうのでは無いかと心配したのですが、次に彼女の口から飛び出した言葉は、考えられないような事でした。
「その奴隷が気に入ったのですか、それは私が頼んだ物なんですよ。もしお望みでしたら、同じようなのをもっとご用意致しますよ」
「……お前が、この子供を神殿に捧げたのか」
「ええ、その通りです! だから」
「お断りだ。……神殿で生きた人間なんぞ捧げたから、キャディキャディが狂ったんじゃないのか?」
何てことを、妹はしたのでしょうか。
呆れ半分だったザハエル様も、これには冷たい、凍えるような怒を妹に向けられました。
「やはりあの儀式の所為で……」
周囲の兵士たちからも、そんな囁きが聞こえます。
「そ、そんな、どうして私だって、悪気は無かったわ。いえ、それに本当は捧げた訳じゃ無くて、妖精のフリをさせようとしただけで……」
「ばっアナベナ、喋りすぎだ」
「キャディキャディ様のフリを!?」
思わず驚きの声を上げてしまいました。
妹の発言を止めようとしたのは、ブレダン王太子です。
何があったのか解りませんが、キャディキャディ様のあの様子は私が居なくなった所為だけでは無かった、という事でしょうか。
「マリーの妹だからな、一度は見逃す。二度とその面見せるな、見せれば殺す」
ザハエル様はそれでも、そのまま立ち去ることを選んで下さった様です。それよりも、助けを求める人々の方を優先して下さったのでしょう。
私も、彼と一緒に城から出て行くことに致します。
背後から、妹の悔しげな嘆きだけが聞こえていました。
「なんでよぉ……お姉様ばっかり狡いのよ!!」




