四十四話 聞きたかった言葉
祈ると、私は青い魔力光に包まれました。
キャディキャディ様に願うことは、何も有りません。ただ、魔力を捧げるのみです。
気付いて下さいませ!
「おい、止めろ!」
ザハエル様が、此方に向かって怒鳴ります。
戦闘中である以上に、切迫した様子である理由は、直ぐに理解できました。
「うっ……」
それは、凄まじい拒絶でした。
何時も澄んで透明な水源と、そこから湧き出る小川のようだったキャディキャディ様、その霊との繋がりが、まるで嵐の中の濁流の様です。
押し流されて、此方から魔力の繋がりを持てません。
流れの中で何とか留まり、その先へと祈りを届けようと致しますが、溺れるような幻視を経て祈りが途切れてしまいました。
「うるさい、わたしにふれるな、水よ!!」
キャディキャディ様の悲痛な声が響きます。
目を開けますと、同じように目の前に水の壁が迫っていました。
「させるか!」
すかさず、ザハエル様が庇って下さいます。彼が盾で弾くと、途方もない水の塊が、嘘のように砕けて押し返されました。
そして、向きを変え津波のように周囲に広がって行きます。
「はっ……はぁはぁ……」
助かりましたが、二柱の神霊がこのまま戦い続ければ、王都が無くなってしまうかもしれません。
「無茶すんな」
キャディキャディ様は今まさに、この荒れ狂う川そのものでした。確かに、今は祈るのは無茶なのかもしれません。
ザハエル様はこれを危惧して、止めて下さって居たのですね。
「しかし、ただ叫んだだけでは、キャディキャディ様に届きませんわ」
「……そうだが」
ザハエル様は凄く不本意そうにされながらも、新たな神術の気配を感じて、キャディキャディ様へと向き直りました。ご心配下さり有り難うございます。しかし、私は止める気はございませんわ。
「いい加減、目を覚ませよ、お前の福者が呼んでいるだろうが」
「うあぁあああ”あ”!!」
祈りを続けます。
うるさいと言われるなら、むしろ届いている証です。キャディキャディ様が、泣いているように感じますわ。
「豊穣をもたらす河川の妖精キャディキャディよ、私の祈りをお聞き届け下さい……」
「うぅぅ……しずめ、しずめ、ぜんぶぜんぶ、せかいのぜんぶ」
「そんな力はお前にねぇだろ」
逆巻く水流を、ザハエル様は槍で捌いて撃ち払います。
「しずめわたしもぜんぶ」
「チッ……仕方が無い」
「ザハエル様!」
今まで防御に終始していた、ザハエル様が攻撃に転じたことが解りました。
戦闘がいっそう激しくなり、人々を打つ雨粒も大きく激しくなっていきます。ザハエル様は、もしもの時の覚悟もするようにと、仰っていましたが……。
どうか、どうか、キャディキャディ様、私の声を聞いて下さいませ。
お願い致します。
「マ、マリー・コールドウィン」
「お姉様、何時も何時も私の邪魔をして」
「アナベナ? 何をするんだ!」
「豊穣をもたらす河川の妖精キャディキャディ様……」
周囲の声は無視していたのですが、緊迫した悲鳴が聞こえて、振り返りますと拾ったであろう騎士の剣を振り上げる妹の姿が目に入りました。
その顔は怒りに染まっており、記憶していたものとは変っております。
「アナベナ!?」
「消えなさいよぉおう!!」
振り下ろされる剣、迫る刃。そんな、私は死ぬ訳にはいきませんのに、キャディキャディ様をお止めして、本当はもっとちゃんとお話を……。
「……キャディキャ……助けっ!」
「だめぇぇええ!!」
幼い子供の悲鳴が、雨音を押しのけて響き渡りました。
ああ、繋がったキャディキャディ様。キャディキャディ様の暖かな流水が、私を包んで凶刃から守って下さいました。
「ほんとは、たすけてっていってほしかった」
……本当は私も、助けてと言いたかったのですわ。
「キャディキャディ様、申し訳ありませんでした」
本当に酷い事を、私はしてしまいました。逆の立場に成って考えれば解ります、仲良くしていた人が、そのつもりで居た人が、助ける力の有る自分に頼ってくれない。
そんなに大事に思って貰えていたなんて、そう思う私自体が、キャディキャディ様を大事に思っていなかった。




