三十一話 王都からの使者
「解った、夜中に迎えに行くから、準備をして待っててくれ」
そうザハエル様とお約束致しました。
朝までに帰れるようにするが、寝れない事は覚悟して欲しいと。そのくらい何でも無いですわね。
勿論、今日の仕事も手を抜きません。
逗留されている方が多いので、シーツや寝間着、包帯の洗濯を朝から致します。
沢山の真っ白い布たちが、干されてはためくのを見るのは、気持ちがいいですね。さぁもう一山、洗いますか!
「大丈夫、疲れてない」
「大丈夫です、それより皆さんの方がお疲れなのですから、休んでいて下さいませ」
「そう言う訳には行かないわよ」
「ちょっと魔力切れなだけだからね」
「魔力切れは大変ですわよ、力が入らないでしょう。こっちの山は私がやりますから、やはり休んでいて下さい」
それでも、フェリスさんたちも、一緒に洗濯されています。
全部任せて下さってよろしいんですのに、私の所為でもありますのに。
私に皆さんの分も仕事が熟せる、能力があれば良かったのですが……。
兎に角、洗濯板にシーツを擦り、洗っていくしかありません。
「ふー終わったーー」
「はい!」
次はお昼ご飯のお手伝いに行きたいと思いますわ。
「あ、ここに居ましたね」
「神官様?」
「マリーさん、神官長様がお呼びですよ」
「はい」
何かありましたでしょうか?
まさか、今日抜け出そうとしている事が、知られてしまった……なんて事はありませんよね。
「……私も一緒に行っても良い?」
「大丈夫だと思いますけど」
フェリスさん?
どうしたのでしょう本当に……?
そうして、向かいました。レイギス神官長様の書斎です。
ノックを四回、中からお優しい声が入室の許可を下さいます。フェリスさんと二人で中に入りますと、奥の机に神官長様、その横にアマト様。そして、見た事の無い貴族らしきの男性と武装した兵士たちが居りました。
「此奴がマリーだな!」
私が驚いていると、兵士の一人が此方に手を伸ばし、フェリスさんがその手から遠ざけようと前に出ます。
しかし、それよりももっと早く、アマト様が突き出した槍が、私たちと兵士の間に割って入りそれを阻みました。
「修道女に触るな」
「貴様っ!」
「お、剣を抜くのか?」
な、何が起きているのでしょう。
全く解りませんが、一つだけ解る事は、フェリスさんが身を挺して私の盾になろうとして下さった事。
アマト様が、助けて下さった事。
「止めなさい!!」
レイギス神官長様が声を荒げるところを、初めて見ましたわ。
制止されると、やっと貴族の男性が兵士たちを止めました。相手が構えを解くと、アマト様も槍を退かれます。
「お前たち、控えなさい」
彼はルタンガー男爵の三男だそうです。男爵家の領地は、王都から見て南西に村を数個お持ちだったと記憶しております、名字を聞いて解りましたわ。
流石に嫡男でも無く、同世代でも無い、彼のお顔までは存じ上げませんでしたが。
「すみませんね、乱暴をしようと言うのでは無いのですよ。マリーさんに召喚命令が出ておりまして、私はその護衛を仰せつかって参りました」
「召喚命令、何方からでしょうか?」
私が問いますと、相手の方たちはにやりと笑って答えて下さいました。
「国王陛下からです。是非マリーさんのお話が聞きたいと」
「今更っ」
「フェリスさん!」
王命なら、口答えすると彼女の命が危ないです。一も二もなく応じねばなりません。
私が顔を横に振ると、フェリスさんは唇を噛みしめて堪えて下さいました。
「それで、何時向かえば宜しいでしょうか」
「今、直ぐにでも。勘違いしてはいけないな、君は既に貴族でも無く、犯罪者としてこの場所に幽閉されているのだから、なんの選択肢も無いのですよ」
「……解っておりますわ」
そう、あくまで私は犯罪者として裁かれた身、自由はありません。
あちらの意向で移動させるというなら、それに従うしか無いのです。しかし、ザハエル様からお話があったこの時にっというのが、気になります。
キャディキャディ様の件と何か関係があるのでしょう。
あの方に会いに行けるのでしたら、望むところなのですが……。
「あ、俺様も一緒に行くぞ、神殿側の護衛としてな」
アマト様がこちらに片目を閉じて、仰います。
心強いですが、宜しいのでしょうか?
「Sランクの……護衛は足りていますが」
「彼には私がお願いした、神殿としても、任せられた修道女だ。何かあっては沽券に関わりますからね」
男爵の子息と神官長様が笑顔で牽制しあっておりますね。
神殿側とはアマト様として話が付いているようで、良かったですわ。
しかしやはりSランクと言いますのは、正体が神霊様だと言う事で麻痺しておりますが、威力があるものなのでしょう。
明らかに、アマト様が付いてくるのを嫌がっていますから。
「でしたら、私も行きます、神官長様!」
え、フェリスさん!?




