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三話 修道院到着

二週間の馬車での旅。

私は領地に向かう時も、家族での旅行でも留守番を言い付けられていましたので、王都の屋敷を離れるのは初めての事でした。

檻の中に閉じ込められ、晒し者にされた状態ではあるのですが、逆に言えば外の様子は常に見る事が出来ます。

美しい山河、一面緑の絨毯が広がる農耕地、村や道を行く人々、とても興味深い光景です。

天候が悪くなれば雨ざらしですが、雨の雫が私を避けて落ちるように神術を掛ける事は出来ますし、食事も質素な物でしたが、三食きちんと頂けましたのでむしろ何時もよりもましでしたね。


「……下りろ」


そうして到着いたしましたのが、天空女神教(テンクウノメガミキョウ)の修道院。

大きな門の前には、神官様など数人の方が出迎えて下さいました。


しかし、檻から出てきた私に向ける視線は一様に厳しい物です。それは仕方がありません、先方からすれば犯罪を犯した元貴族の令嬢を、預かる事になるのですから。


神殿の運営には貴族や王族の支援、献金が必要になりますから、断る事が出来ずに受け入れたのでしょう。

私は問題を起こすつもりはございませんが、普通の修行者ではありませんから、どうしてもご迷惑をおかけしてしまう事にはなります。


「マリー・コールドウィ……マリーです、宜しくお願い致します」

卒業式から着たままの、ドレスの裾をそっと持ち上げて、ご挨拶致しました。

名を名乗った事で勘当され、これからはただのマリーになるのだと、改めて実感いたします。


「ああ、宜しく」

私が言いようのない寂しさに包まれていると、初老にさしかかった神官長様が優しく微笑まれ、応えて下さいました。

本心は解りませんが、修道院のトップであるこの方は、私を受け入れる姿勢を示して下さる様です。


引き渡しが終わると馬車と、護送の兵士たちは素っ気なく去って行きました。当然ですが、もう二度と私が戻らぬ場所にと帰って行くのでしょう。


「付いて来なさい」


「はい」


門を潜り、聖堂を横目に裏へと進んで行くと、何棟か建物が建っていました。

修行のための場所と、この場に務めている人たちが生活している場所なのでしょう。その三棟在る内の一つに案内されます。


「フェリスさんは居るかな」


そして神官長様は、作業をしている修道女の中から、一人を呼び出しました。

呼び出された修道女は、茶色い髪をきっちりと纏めた真面目そうな女の子です。私と変らないか少し年上なのかもしれません。

彼女は手に布を持ち、窓の拭き掃除をしていた様でした。


「何でしょうか、神官長様?」

手を止め、こちらに来ると彼女は質問致します。


「この前話した新しく見習いになる娘だよ、今し方到着したところでね」


「そうですか」


「マリーと申します宜しくお願い致します」


紹介に合せて、私がドレスを裾を持ち上げて挨拶すると、彼女やその回りで掃除中の修道女たちからも冷たい視線を向けられました。

当たり前ですが、彼女たちにもあまりいい感情を持たれてはいないようですね。

「フェリスさん、先輩として面倒を見て上げなさい、マリーさん、しばらくはフェリスさんの下について色々と教えて貰いなさい」


「解りました神官長様、……フェリスよ、よろしく」


「宜しくお願い致します」

それでも彼女は仕方なくでしょうか、了解してくれ、私の面倒を引き受けて下さいました。

「必要な物は後から持って行かせるから、先ずは彼女を部屋に案内して上げて下さい」


「はい、お任せ下さい。貴女、マリーさんでいいかしら? 付いて来て」


「は、はい」


そう言うと彼女は、ずんずんと早い歩調で歩き出しました。私は、慌ててその後を追い掛けます。

裸足ですと、早歩きするだけで足の裏が痛み、遅れてしまいそうになりますけれど、声を掛ける事が出来ず。


どうにか彼女に付いて行くしかありませんね。


そして、そのまま階段を二階分上がり、廊下の途中で彼女は急に振り返ると、キッと眉をつり上げて睨み付けてきました。


「貴女の事は知ってるわよ、嘘つき令嬢のマリーでしょう?」


「……」


「こんな山奥の田舎にも悪名ってね、轟いているものよ。聖女を騙って悪い事ばかりしていたんですってね、ここではそんな事は絶対させませんから、私がしっかり見張って清く正しく神霊様にご奉仕出来るように更生させてみせます、覚悟して置いて下さいね」


「……解りましたわ」


悪い事をした覚えは無いのですが、悪い事をした事になっているのでしょう。初対面の彼女と言い合いをする気も起きず、私が了解すると、彼女は満足そうに鼻を鳴らしました。


「この部屋よ、貴女が来るって言うから綺麗にしておいたのよ。もちろん貴族様の豪邸の部屋とは全然違いますけどね! 今日はお勤めも無いけど明日からビシバシ厳しくするから、今は精々身体を休めておくといいわ」


「私のために綺麗にしてくれたのですか?」


確かに彼女が開いて見せて下さった部屋は小さく、何の装飾も無く、ともすれば貴族の部屋に付くクローゼットよりも小さいかもしれません。

しかし、掃除も整理もされていない屋根裏に住んでいた身としましては、十分すぎる様に感じました。

ベットや棚や、カーテン、敷き布など新品では無い様ですが清潔な物が用意されています。

何よりホコリもネズミも虫も居りません。


「こ、これからは自分で掃除するのよ!」


「解りましたわ、あっでも、掃除の方法が解りません、出来ればお教え願えますでしょうか?」

私がそう乗り出して答えますと、彼女は困った顔をして首を捻りました。

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