二十七話 交流不全
「私はザハエル様に向かって、冷たいなどと申しましたのに」
「そんな事言ってたか? 聞いてなかったな」
青い小鳥はふわふわした小さな頭を傾げて、終いにはカッカッカッカッと足で首を掻きました。
「一々俺様は人の子になんぞに耳を傾けて、注目してる訳じゃないからなー、いやーちゃんと言って貰わないと解らんな、全然解らん」
ザハエル様……。
そうですわよね、きちんと言わなければ、神霊様への祈りだとて伝わらないのです。
言葉が鈍いと言われました。
余計な事は言ってはいけない。
家族の不利益になる事を言ってはいけない。
王家の不利益になる事を言ってはいけない。
本当の事は言ってはいけない。
私は、聖女マリー・コールドウィンだった。
でも今の私は、ただのマリーです。
私は、重い口を開いて、話し始めました。
なかなか思っている事は纏まらず。何とも聞きづらいお話になってしまったと思います。
しかし、ザハエル様は気にする事無く、のんびり聞いて下さいました。
「俺様はお前より色々解ってるってだけだ、お前は心配だから患者の事や仲間の事を考えて、一番得意な者がやった方がいいと思っただけだろ」
「誰がお前にそんな事を言ったのだ? 妹? 喧嘩の言い合いでか? それでも酷いが、あまり気に止めない方が良いと思うぞ」
「ふーん聖女と名乗っていたのか? また人は混同して……いや、別に咎めたりしないが?」
そして、一つ一つに返答して下さいました。
「何だそれは!? お前ここに修行に来たのではなかったのか!!」
「はい、ここには罰として来ました」
ザハエル様は、キラキラと光る空色の瞳をまん丸に見開いて、驚いていらっしゃいました。そう言えば私、自分の経歴を話しては居りませんでしたね。
加護を受けている事を言い当てられましたので、必要だと思っておりませんでした。
「っと言う事は、ここに閉じこめられているって事か?」
「はい、そうです」
「何だそりゃ、先にそれを言えよ! 解った神官長に話を付けてやる」
「そ、それはおやめ下さい! 神官長様は行くところのない私を、修道女として受け入れて下さったのです」
それだけは困ります。
今となれば解りますわ。ここに受け入れて貰えなければ、もっと酷い事になっていたでしょう。
それに、もっと最低限の扱いだって出来たのです。牢にずっと閉じこめて置くなど出来たはずです。
私は罪人として幽閉されているのですよ。他の修道女と同じ扱いを受け、温かい食事にお風呂、快適な個室。
施設内だけですが何処に行っても、怒られるような事はございません。
「む、そうなのか?」
怒りででしょうか、単純に興奮ででしょうか、ぶわっと膨らんでいた羽毛が一気に萎みます。
何と言いますか、怒って下さったのがそれでも嬉しく思えました。
「そうなのでございます。私は一人では生きていけませんから」
「そんな事はないと思うが」
「いえ、無理ですわ、掃除一つまともに出来なかったのですから」
「そうか、まあお前がそう言うなら……」
もふりとザハエル様は机に腰を下ろして下さいました。良かったですわ。
慌ててしまいました。
「じゃあ……あれか、冤罪をふっかけた貴族と王族をぶっ殺せば良いのかな」
「!?」
可愛く小首を傾げながら言わないで下さいまし!
「調べなきゃならないが、と言うか先に調べれば良かったな。人数が多そうだから、普通にやると俺が悪い神霊認定されそうだが、結果的にそうなる様に上手くやっとくか?」
「いいいぃい、いいえ。そんな事をなさる必要は、ありませんわ」
すんなり止める言葉が出て、私自身も驚きました。しかし、卒業式の日にも悲しみがあっただけで、復讐してやろうなどとは……。
それに今となりましては、実家も王都も遠く。むしろ遠くにあって欲しいのです。
この、平和な場所のどんな事でも、あの場所に近付けたくありません。
「心配しなくてもやる事でそうするのではなく、やらない事でも可能だぞ? 時間は掛かるけどな」
「いいえ、いいえ! この件に関しては、何もされないで下さい」
「そうなのか? しかし、その方が民のためにもなるかもしれないぞ」
「いえ、これは私の個人的な問題です、それにもう解決済みですわ!」
「ふーむ、冤罪を平気で着せるような為政者は、害にしかならないと思うが」
そ、そう言われますと、そうなのかもしれません。
ザハエル様は、もっと深い考えがあってこの話をされたのですね。
しかし、やっぱり私は、それはして欲しくありませんでした。
「……こう言っては酷いと思われるかもしれませんが」
くいっと、嘴を此方に上げて、先を促されます。
とても、言いにくい事なのですが。
「あの人たちの血で、ザハエル様が汚れるのが、嫌なのですわ」
「……ぷっあはっはっはっはーーーお前、フフッくっくっ俺様は守護天使だぞ、海が血潮で出来ているように、その本質は血に塗れている」
私の発言にザハエル様は、本当に愉快そうに笑われました。
それでも、それが悲しそうにも聞こえました。私は、彼の触れられたくない部分に、触ってしまったのかもしれません。
それでも、浴場で血の跡を見付けた時の事を、どうしても思い出してしまい。
「そうだとしても、嫌なのですわ」
「そうか、解った本人がそう言うのなら、この件に関しては俺様は何もしない」
「有り難うございます」
「礼を言う事でも無いがな」




