二十話 それも終わり
結局私は、周囲に言われるまま、聖女として王太子の婚約者をしていたのは事実です。
一応は違うと否定していましたけれど。
何としてでも誤解を解いて、自分は聖女ではないのだと、理解いただくように努力しては居なかったように思います。
家族も、周囲も怖かったのはありますが、これで自分も望まれる存在になれると、喜んでいたのは確かでした。
義妹の数分の一で良いから、大切にしてもらえるかもしれない。
もしかしたら、愛していただけるのかもしれないと、望んでいたのです。
「そんな事、普通じゃない。8歳の女の子が周囲に聖女と言われて、持ち上げられて、嬉しく思わないなんて無理よ」
そうなのでしょうか?
そうだとしても――
「でも私は……私にも、暗い喜びがあったのは、事実なのです」
そして、もうそれらから距離を置きたいと、思っているのです。
結局、私が得られたのは愛や感心では無く、悪意だけでした。やはり無理があったのでしょう。
神霊様に加護を戴いても、私自身が変る訳ではありません。
「マリー様は」
「様付けは止めて下さいませ」
お願いしますと、念を押すと彼女は、困惑しながら受け入れて下さいました。
それが、今私が望むことなのねと。
「……マリーは、純粋というか、何というか真面目ね。心の中までなんて、誰にも解るはずないのに。仕事を見てても良く解るわ、多少は手を抜いても良いのよ」
「そんな事ありませんわ。最近は……楽する方法も、覚えましたのよ」
「はぁ……マリーなんて、マリーなんてまだまだよ。仕事を楽に熟す方法は、いっぱいあるんですから」
フェリスさんは、一瞬複雑そうな表情をされましたが、一息吐くと今まで通りの様子になり仰いました。私の気持ちを、汲み取って下さったのでしょう。
フェリスさんの方が、よっぽど真面目で、気持ちの良い方だと思います。
学園では色々と冤罪を掛けられましたけれど、例えそれを覆す事が出来ましても、私に謝って下さった方は一人も居りませんでした。
そう、ただの1人も……。
「確かにそうですわね。でしたら、もっといっぱい教えて戴かなくては」
「言うようになったわね、なら更に厳しくビシバシ行くから覚悟してなさい」
わざと意地悪そうな表情をして、フェリスさんが仰います。何故か無性に可笑しくなってしまって、私が笑ってしまいますと、同じように彼女が表情を崩されました。
それから、ひとしきり笑い合って、お茶会もお開きに致します。
とても楽しかったと私が言いますと、フェリスさんがまたしましょうと約束して下さいました。
「お仕事を頑張らなくてはいけませんわね」
「ほどほどにね、身体を壊したらお茶会も出来ないんだから」
「解っておりますわ!」




