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婚約破棄された悪役令嬢は北の修道院に往く  作者: 鳥鼠 ゆき


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十八話 魔物のような神霊のような

「そ、それは……」

さらりと恐ろしい事を聞かされて、私は固まってしまいました。

神霊様が神霊様を……。


それぞれの神霊様には、信仰している方々が勿論いらっしゃいます。

この事実は恐ろしい、泥沼の戦争になる可能性も、あるでしょう。それも、ザハエル様の庇護を戴いているこの修道院や、周辺地域、国をも巻き込んで。


「ど、どのような神霊様を……」

最後まできちんと発言する事が出来ませんでした。


ああ、若しくは、加護を受けている私が、争いの火種になってしまう可能性もあり得ます。

フェリスさんや神官長様、修道院の皆様の顔が私の頭を過ぎりました。素朴で実直に生きている、優しい人たち、この場所は、どんな事をしても守らねばなりません。


「ああ、そんな怖がるなって、お前らにとっては魔物の分類だって言ったろう」


そうでしたわ。

確かにザハエル様は狂った神霊、人にとっては魔物っと仰いました。

それに私たちには、魔物と妖精の区別も付いていないのだとも。


「人種にはそう知られてない、産まれたばかりの存在だしな」


「産まれたばかり、ですか」


「あぁ……嫌なもんだ、ハイブリッドなんぞ作るなら、巨人となった瞬間に、母体ごと自分で処理する覚悟を持ってやって欲しいもんだ」


殆ど何を言われているのか、私には解りませんが、声音から愚痴の類いなのだと解ります。

少なくとも、快くは思われて無いのでしょう。


ザハエル様は、お身体よりもお気持ちが疲弊しているようにも思えました。


産まれたばかり……赤子を殺してきた、と言う事なのでしょうか。

どういう事情なのか解りませんが、やむを得ずっといった印象を受けます。これ以上踏み込まない方が宜しいのでしょう。


どうも話が色々な方向に行かれると思いましたら、言い辛い事だったのですね。


「大変、だったのですね。でしたら、今日はこちらにいらっしゃらなくても良かったのでは?」


「まあそうだが、あー……半分とは言え、神霊の血をほったらかしにしちまったと思い返してな」


「血ですか! ハッ申し訳ありません。それなら水で流してしまいましたが……」


良くないモノだと思い、慌てて排水溝に流してしまいました。

どうしましょう、水に混ざってもう取り戻しようがありません。もしかして私、大変な事をしでかしてしまったかも……。


「流したか、それなら大丈夫だ、ここら辺の水には俺様の神力が混ざってるからな、稀釈しちまえば問題ねぇ。ただ、まぁ直接お前が触ったら不味いと思って、な」

良かった、問題なかったようです。これで水や下流の土地が汚染されたと言われたら、私はどう償えば宜しいのか解らないところでしたわ。


しかしそれでは、ただ私の心配をして、ザハエル様は来て下さったと言う事ですわね。


「それは、お気遣い戴きありがとうございます」


やはりこの神霊様は、見掛けや表面上の振る舞いから受ける印象よりも、優しい方なのでしょうか?

キャディキャディ様よりも、いろいろ話して下さいますし、察して下さる気がいたしますね。


「いや、こっちがうっかりしていたんだ。それに福者の健康とか幸福とか、な、守護しねぇと一応、加護与えてる神霊だし」


「福者の幸福を守護する……?」


思わず、険のある声音になってしまいました。私の反応に、ザハエル様は不思議そうに此方を見て、僅かに小鳥の首を傾げられます。


「そうだが、何かあるのか?」


「いえ、別に何も……」


「それは何かある態度だぞー」

何もありません。ただ、アナベナの無茶苦茶ないい訳と、それを信じる周囲に、神霊様も含まれていた事を思い出してしまっただけです。


何でお姉様が何時も怪我をしているですか? それはお姉様を思ってですわ妖精さん、愛しているから鞭で打つのですわ。

そう、明るく言う声。

それをどうして信じてしまうのか、いいえ、解っていて私が苦しむ姿を楽しんで居るのだと……。


「……川の妖精と何かあったのか、まぁキャディキャディも産まれたばかりの神霊だからな、本性が河川だし子供が意思疎通するのは難しいか?」


「……!?」


キャディキャディ様が産まれたばかり、思いもよらない発言に私は驚いてしまいました。

我が国は、そこに流れる数多くの河川は、長い歴史を持っています。

それを司る神霊様が、産まれたばかりなんて事があり得るのでしょうか?


「そんなはずは」


「何がだ?」


「いえ、その……本当に、キャディキャディ様は産まれたばかりなのですか?」


「……そうだが?」

実際には二十年程生きていらっしゃるそうですが、悠久の時を生きる神霊様の感覚からすると、産まれたばかりなのだと教えて下さいました。

人に換算するならば、本当に赤子のようなものだそうです。


確かにキャディキャディ様は小さな女の子の姿でした。神聖なる存在だから、見かけの年をとらないものだと私は思い込んでおりましたが。


では、本当にただ純粋に、妹や私の言わされた事を、信じてしまっただけだったのですか。


……何という事でしょうね、私は勝手に察して欲しいと期待していたのです。


私は無知でしたし、キャディキャディ様は幼かった。


私が独り考え込んでいると、ザハエル様は立ち上がり窓の方に視線を向けられました。そうでした、お疲れの所を無理をして来て下さっていたのですわね。


「あの、もうお戻りになられますか?」


「んああ、確認も出来たし、二度寝るわ」


「そうですか。す、少しお待ち下さい!」

私は慌てて、捧げ物を小さなバスケットに纏めます。

折角皆様が神霊様のために贈られたものですし、疲れたご様子にこの後もお食事など摂られるか、心配になりました。

杞憂でしたら良いのですが。


「あの宜しければ、これだけでもお持ち帰り下さいませ」


「んー、そうだな持って行くか」


「有り難うございます」

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