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婚約破棄された悪役令嬢は北の修道院に往く  作者: 鳥鼠 ゆき


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十六話 流れゆく日々

最初色々考えたのですが、ザハエル様ご本人に他言無用と言われ、加護の事も彼自身の事も秘密にする事になりました。


ですから北の神殿での毎日は、多少の神秘を隣り合わせに、概ね穏やかに過ぎて行っています。


朝早く起きて、皆様と笑顔で挨拶をし、掃除をしてから祈り。

仕事と休憩、私の場合は休息時間にも、働かせていただき、たまにザハエル様のお相手をさせて戴く。


そうです、それで先日は、初めてのお給金をいただきました。


「はい、頼まれていた物、買ってきたわよ」


「ありがとうございます」

二週に一度、二日間の休日、昨日買い物に出掛けていたフェリスさんが、買ってきて下さった品物を差し出しました。


自分で働いて稼いだお金で、自分の欲しいものを買う。実際にお店で買い物が出来た訳では無いのですが、これが自由だと、受け取った麻袋の重みが教えて下さいます。

私が、手に入れた物ですわ。


勿論、自分の力だけで、全て為した訳ではありません。

場所や、やり方、筋道を皆様に丁寧に立てていただいて、漸く手にできた物です。


「あの、フェリスさんこちら、お礼と言っては何ですが、受け取って戴けませんか?」


それは夕食後の談話時間に、最近みなさんが噂していたお菓子でした。

ご本人に買ってきて戴く事になり、何とも格好が付かないのですが、どうしても初めての買い物に彼女へのプレゼントが欲しかったのです。


「え、そんな、無駄遣いしないで、自分のために使えば良いのに」


「ええ、ですから私のために使いたいように使いました。勿論自分の分も買いましたのよ」


「そう、じゃあ、一緒に……お茶でもする? でも私貴族の作法とか知らないから……」


「是非!」

私は被せ気味で了承しました。親しい人とお茶なんて、どれくらいぶりでしょう。

お母様が生きていた時以来、しておりませんわ。

普通でしたら王太子の婚約者だったのですから、社交の為に参加や、主催をしていて然るべきだったのですが、何だかんだと阻止されていました。


「作法なんて気になさらないで、私なんて何時も講師の評価は、落第点でしたのよ」


お前など無作法で恥になる、一番言われてきた理由です。


「そんな風に見えないけど……ま、ならいいっか、今日の午後休憩時間にでも、一緒に食べましょ。用意しておくから」


「嬉しい、楽しみにしています」


「……休日なのに今日も仕事で、大変じゃ無い?」

フェリスさんが心配して下さいます。今日こそ手伝おうかと、また言われてしまいました。


「いえいえ、大丈夫です。最近体力も付いてきたのですよ」


本当ですわ、私は腕を曲げて見せます。

自力でも少しずつ雑巾が、絞れるようになりました。神術で回復しなくても、筋肉痛にならないのです。


それに彼女は、神官としての資格を得ようと、休日は勉強に励んでいるのを知っています。お買い物をして戴いて、更に邪魔をする事は出来ません。

「フェリスさんは、勉強がありますでしょう?」


「そうだけど」


「私はお給金のため、フェリスさんは試験のための勉強、お互い頑張りましょう!」


「……解ったわ、無理はしないようにね」


「ええ、フェリスさんも」

受け取った荷物を自室に仕舞い、沐浴場の掃除に向かいます。

お願いされる場所に水魔術で水を撒き、それから奥の神霊様用の浴場に取りかかります。すっかりここの専属担当になってしまいました。


一般の浴場は、たまに入浴に来た方が、清掃中も入って来てしまう事がありまして、気をつかっていただいた結果です。


「嘘つき令嬢のマリー、本当にみなさん知っているのですね」

何と言いますか、今となってはそれ程衝撃も受けません。それよりも、一緒に掃除をしていた、皆様の方がとても気遣って下さって。

有り難いやら、申し訳ないやら。


参拝に来た方と不要な揉め事を起こさないために、こちらで作業するのが良いのだとは、思っておりますが。

一般の浴場の方が汚れているので、汚れを落すために擦ったりするのが大変なのですよね。

こちらは本当に少人数でさっと、流せば綺麗になりますから。


ザハエル様がたまにいらっしゃる時だけ、緊張して大変なのですが。




「!!」


奥の扉を開いて、浴槽に近付いて私は衝撃を受けました。

浴槽の周りに赤い水溜まりと足跡、浴槽の中の水も薄らと濁っています。な、何があったのでしょう……。


ザハエル様が何かされたのかもしれません。取りあえず水の栓を抜き、赤い水跡も洗い流しました。

これは、お怪我をされたのでしょうか?


回復神術を授けて下さる、神霊様が……。


「さぁ、今日の捧げ物持ってきたよ、どうかした?」


「ん、何かあったかい?」

大きな箱を二人で、協力して運んで来て下さった修道女のお二人が、私の様子に不審な物を感じたのか質問されました。これは報告するべきでしょうか。

しかし、何と説明すれば宜しいのか……。

「いえ、いいえ、ちょっとその汚れが……」


「ああ、魔鳥でも紛れ込んだかね?」


「たまにあるのよね。でも小動物が入っても、そのままにして置いてね。お使いって事になってるから」


「捧げた物を食べられても、むしろ運が良いって事なのよ、あはは」


「は、はい……」


荷物を置くと、笑ってお二人は行ってしまいました。

忙しいですものね。早く掃除を終えて、参拝に来た人々に浴場を開放しなくてはいけません。



……取りあえずは様子を見て、このままザハエル様にお目にかかれないようでしたら、フェリスさんに相談してみましょうか。

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