十話 一周回って
私がこの神殿に来まして、二週間程時が流れました。
少しずつここでの生活に慣れ、何となく仕事も一回りしたように思います。
しかし、その程度の時間では筋力が付く事は無く、私は未だに雑巾が絞れません。全力で力一杯捻っているのですが、フェリスさんにお渡しすると、水がジャバジャバと流れ出るのです。
魔術で水を操り、良い感じに布から引き離す方が上手くなってしまいました。
「時間が無いから、今はそれでも良いけど、練習はしておきなさいよね」
そう言われて居ますので、空き時間に鍛えてはおります。
実際、手でやるフェリスさんの方が、早いのですわ。
「それでね、その自称怪我人のお貴族様、神官様が手を翳しただけでひっくり返っちゃったのよ」
「凄く横柄にしていたのに、おかしいったら無いわね」
「回復神術は痛くないのに」
今は夕食後の団欒の時間。私もお喋りの輪の端っこに、加わらせて貰っております。
どうやら、遠くから怪我の治療にやって来た貴族の方が、いらっしゃるようですね。今はあまりそういう身分の方とは関わり合いになりたくないので、聴けて良かったですわ。
知らずにうっかり鉢合わせなど、したくはありません。
「マリー!」
「は、はい、フェリスさん何かありましたでしょうか?」
急に呼びかけられて、驚いてしまいました。
私、何かしてしまいましたでしょうか、もしかして道具の仕舞い忘れをまたしてしまいましたか?
「明日と明後日はお休みだから、言ったと思うけど」
「そうでしたわね」
そうでした、明日から二週に一度の二日間のお休みです。フェリスさんと私は組んでいるので、一緒の日がお休みなのでした。
「貴女は外に出られないと思うけど、私は買い出しに行くから」
「はい、いってらっしゃいませ」
「いえ、そうじゃなくて! ……何か必要な物があったら一緒に買ってきて上げるけど?」
「!?」
フェリスさん、なんて親切なのでしょう。
貴重なお休みの時間を、好いても居ない私のために割いて下さるなんて。
ついでだから、大して手間じゃ無いと仰いますが、そんな事はありませんよね。
「大変有り難いお申し出感謝いたします。ですが、私、その、持ち合わせがありませんの」
「へ? 貴族だったんだから、貴女お金持ちでしょう?」
「いいえ、その、家からは絶縁されておりますし。ここには、着の身着のまま来てしまいましたので」
一度、屋敷に寄れたとしても、奪われるばかりでしたので価値のある物など持っては居ませんが、そこまで言う必要は無いですわね。
「そんな……」
フェリスさんは難しい顔をされています。普通は実家からの仕送りなどがあるのでしょう。聞くべきではない事を聞いてしまった、そんな風に思われているのが解ります。
周りの方々も、凄く心配して下さいます。が、大丈夫なのですわ。
「お気になさらないで下さいまし」
「いいえ、だめよ。普通に考えて、支給される物だけじゃ暮らせないわ。換えの下着とか足りないでしょう、それに、日用品は自分で用意しなくてはならないのよ?」
「そうなのですね」
っと言われましても、どういたしましょう。
下着は夕方に洗って、雑巾絞りと同じ要領で、魔術で乾かして居りますが確かに換えがあると助かりますわね。
お休みの日に、私は何かお仕事を見付けるべきなのかもしれません。しかし、神殿から出る事を許されておりませんし。
「ちょっと来て、神官長様にご相談しましょう」
「でも……」
「行ってきた方がいいよ」
「うん、うん」
「神官長様は鬼じゃ無いから、考慮してくださるはずだよ」
「わ、解りましたわ。フェリスさんよろしくお願いいたします」




