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作者: とがの丸夫

 冬の朝、家から学校までの通学路で立ち止まっている私は、自分の吐いた白い息をぼんやりと見つめながらその行き先を追っていた。

 ヒュウと小さく風が吹いて白い息を吹き飛ばしていく、それに合わせて学校の制服で唯一肌の見える脚から体温も奪い去っていく。

 少しでも熱を逃がさないように体を小さくまとめてみる、けどそんな行為に意味はなかった、どうあがいても寒いものは寒い。

 制服の上に着こんでいるコートも、12月真っ只中の寒さに万全とは言いづらく、下半身ほどではないにしろ十分に私の体温を外に逃がしてしまっている。


 そうやって少しの間立ち止まっていた私は、はじかれるように足を前に出す。

 急になぜと言われれば、こんなにも寒い中、わざわざ立ち止まらなくてはならない原因が解消されたからにほかならない。


 学校までの通学路にいくつかある曲がり角で、同じ学校の制服を着た男子生徒を見つけたのだ。

 さっきまで寒さが嘘のように私の体温は上がっていく、それ合わせてジンジンしていた顔は寒さとは別の理由に置き換わった。

 ぼんやりしていた意識が180度向きを変えてハッキリとしてくる。それと同時に私の空っぽだった頭は高速に情報を詰め込み始めた。


 そしてサッと手鏡を取り出す、そうして今日でなんで目になるかわからない身だしなみチェックを行う。

 昨日少し切った前髪は変ではないか

 新しくしたヘアピンは似合っているか

 変に跳ねているところはないか

 スカートやコートに家猫の毛が付いてないか


 と脳内チェック項目を網羅していく。彼に会うときは毎回欠かさず行っている行事なため、全てのチェックに2分とかかることはなく、自己評価でも及第点は出すことができた。

 ここで自己評価でダメなところがあれば彼に会うことはまずできない、やはり見てもらなら万全の状態がいい、むしろそうでなくてはいけない。


 そうしてやっと私は彼に向って歩き始める。

 最初はゆっくりと歩き始める、歩く速さはゆっくりから普通へ、普通から早歩き、最後には小走り気味になっていた。

 近づいてくる私に気が付いた彼は軽く手を上げてくれる。少し嬉しくなり私も軽く手を挙げる。


 彼の元に着くころには先ほど整えたはずの前髪が少し乱れてしまう、お互いに挨拶をしながら軽く手で前髪を整えなおす。

 最近やっと朝の通学で会話ができるようになってきたこともあり、今日は少し挑戦。

 朝のチェック項目に追加された前髪とヘアピン、これは昨日までの私と違うところ。自分で言うのも変だけど結構な変化だと私は思っている。

 ちょっと恥ずかしい、だけど彼は普段より少し短い前髪と、普段していなかったヘアピンに気が付いて欲しい、それとできれば褒めてほしい。

 可愛いとまでの高望みはしないけど。せめて似合っているぐらいは言ってほしいかな。


 残念だけど挨拶のタイミングでは気が付いて貰えなかった、でもそれは仕方のないことだと思う。

 小走りしてしまったせいで整えた前髪が少し崩れてしまったから、これでは違い以前の話になってしまう。

 だけどその前髪は整えなおした、これなら気が付いて貰えるはず。


 それから少しお話をして、一緒に学校までの道を歩き始めるけど、彼が前髪とヘアピンに全然触れてくれない。

 おかしい、挨拶の時はともかく、歩く前に真正面でお話をしているし、一緒に歩いている時だって彼にヘアピンが見えるようにしている。


 普通なら気が付いて当然だと思う、私なら今日の彼が来ている制服の皺の付き方から昨日帰った後、ハンガーなどを使わず、適当に扱っているだろうと予想が付くほどなのに。

 なんで気が付いてくれないのだろう、そう思えば思うほど私は不機嫌になっていたらしい。

 彼が心配そうに話しかけてくれる、私の態度に気が付いてくれたことがうれしい反面、そこに気が付けるならヘアピンにも気が付いてほしいと傲慢にも思ってしまう。


 だけどここでそれを言ってしまうのはなんか負けて気がするから言いたくない。

 でも気が付いてほしいからわざと彼の真正面に立ったり、髪の話をしたりしたけど効果はなかった。


 そうして、学校に着いた時の私は不機嫌オーラを纏っていたのかもしれない、彼が気まずそうにしている。

 こうゆうところが男子のよくないところだと思い、半ば諦めていた私は不機嫌ですよと顔に出しながら、教室が違う彼から離れていく。

 多分、今の私は相当にかわいくないと思う。


 やってしまったと、彼に背を向けたところで大きな溜息をつこうとしたとき、彼が後ろから走ってきて私の真正面に立った。

 なんだろうと彼を見上げる。

 彼は少し気まずそう「間違っていたらごめん」と言って、そのまま二言続けた。


 飼い主の反応を伺う犬のような表情をしている彼が、少しおかしく思えてしまう。

 そんなワンちゃんに向かって私は笑顔で答える。

「感想は?」

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