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花の言葉が宿る世界で  作者: 湯本ヤマト
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3話 守るための戦い

 溢れ出た涙を流しきった後、なんだか不安が綺麗さっぱり流された気分だった。むしろ、こんな事件が起こる前よりすがすがしい気分だった。


 別に何か今、目の前にある問題を解決したわけではなかったが、ようやく前に進める気がした。


「ありがとな、えーと……」

「ティカはね、ティカ・ヒパ・ポーゲっていうの。お兄ちゃん!」

「そうか、ありがとなティカ。俺は、林道当薬だ。」


 ティカは先程の大人びた雰囲気とは打って変わり、見た目にあった無邪気な笑顔で自己紹介をしてくれた。


「そっか!じゃあ、当薬お兄ちゃん……とうにぃ……んー。じゃあ、お兄ちゃんだね!」

「い、良いのが思いつかなかったんだな。まぁ、それでいいぞ」

「うん!」


 そんな他愛のない会話をしていると、倉庫の入り口の方から大きな音が響き渡る。


「当薬!どこだァ!」

「「──ッ!?」」


完全に振り切ったと思ったが,そう簡単にはいかないらしい。……あれほど泣いたおかげか、かなり落ち着いた思考でそう考えることが出来ている。

 今は変に慌てるよりも、このままじっとしていた方がいいだろう。幸い此処にはコンテナが大量に積んである。静かにしていればそうすぐには見つからない、そう考えていたが、


「チッ意外と肝っ玉据わってるじゃねーかよ、すぐに逃げ出さないのは良い判断だなァ。まぁ、私にぁ関係ねぇけどなッ!」


 そう、古亜が言い放つと少し遅れて隠れていたコンテナが吹き飛ぶ。驚いてティカとボクは声を漏らす。が、まだ能力は発動しているらしく、ティカをコンテナから守ることに成功する。

 さっきまでコンテナのあった場所に視線を向けると、コンテナを吹き飛したのは古亜ではなく、一緒にいた男の方だった。


 ボクは、ティカを抱えて逃げ出す。また、どうにかしてこいつ等から逃げなきゃいけない。出来なければボク達を待っているのは確実に、死のみ。

 そう考えると全身から変な汗が止まらない。兎に角、走って走って走りまくる。

 だが、この倉庫唯一の出入り口には古亜と仲間の女がいる。どうしたものか。


「──死ね」


 男の声が聞こえた。同時に上から男が、いや拳が降ってきた。右足で地面を蹴り、左に急旋回することで、なんとか拳を避けるが、転んでしまいティカを放り投げてしまう。急いで顔を上げると先程拳が放たれたコンクリの地面にはクレーターが出来ていた。


「はぁぁぁ!?お前の拳は鉄か何かか!」

「いや、俺の拳は努力でできている」

「は?何言ってんだ!意味わかんねぇ!」


 そんな口を叩きつつも、それについて考える余裕はない。このまま逃げ続けても意味がない。能力に時間制限や限界があるかも分からない。それに、アイツは一瞬で俺の頭上まで飛んできた。このままでは何時かしら捕まる。だが、いい案も思いつかない。そんな事を悩んでいると……


 男は拳を握り右手を前に出し、左手を腰まで持ってくる。──正拳突きだ。だが、余りにもアイツはボクと離れすぎている。

 冷や汗が流れ出る。今のボクなら()()()()()()()程度、恐れるに足りないが、コイツの攻撃は別だ。明らかにヤバいオーラがするし、てか普通にコンクリにクレーター造ってたし、取り敢えず逃げるしかない。


「ティカ!」


 そう思い、ティカの名を呼び、逃げようとする。


 だが、アイツはそれを許してくれる程優しくはなかった。背中に大きな圧を感じ、そのまま吹き飛ばされる。だが、咄嗟にティカを抱えることで幸いティカに怪我は無かった。


「おっ、お兄ちゃん!」

「っ!がふッ」

「……」


 多分、今ボクが受けたのは風圧だ。あれを直でもらっていたら、今頃ボクは粉々だろう。本能的にそう理解した。

 だがなら何故、直接攻撃を当てなかったのだろう。構えた時から直接殴る気がなかった。まぁ、いい直撃だなんて想像したくもないからな。


パンッ パンッ


 古亜から弾丸が飛んでくる。慈悲がない、まぁ仲間なんだから共闘するのが普通だとは思うが、流石にこんな窮地に立っている奴に銃撃ってくるとは思わなかった。幸い弾は二つとも外れるが、じっとしている訳にもいかない。

 ティカを抱えてコンテナに向かって走り出す。ボクだって考えなしに同じことを繰り返すわけじゃない。


 ──ボクは策とも呼べないお粗末な計画に運命を預ける。


「……無駄だ」


 男はそう言い、ボクが後ろに逃げ込んだコンテナを吹き飛ばす。──だが、そこに当薬たちの姿はなかった。


「──!」

「ッ!?アイツは!──まさか!?」


 古亜は焦ったように、そう叫び()()()()()()()()()()()に視線を向ける。


 ──そこには、大きく拳を振り上げながら男に向かって走り出す当薬がいた。


「うおォォォ!」

「クソッ!」


 まだ、慣れない雄叫びを上げ体を奮い立たせるが、


パンッ パンッ


 ボクめがけて古亜から弾丸が飛んでくる。その弾丸をボクは両腕で一つずつ()()()()()。もちろん、熱いし痛いが、なりふり構っていられない。男に向かって跳躍する。もう一度、拳を固く握りしめ大きく振りかぶる。


 ──握られた拳を全力で放つ。だが、男も二度目の正拳突きを繰り出す。


「ぬおォォォォォ!」

「破ァァァァァ!」


 拳と拳ぶつかる寸前、全身の力が抜け、拳がピタリと止まる。


「そこまでッ!」


 聞き覚えのある声が力強く響く。どうやら、アイツとボクの拳は彼の片手よって止められたらしい。


「ッ!?ボスっ」

「ok、これで十分だ。林道くんの【ルドベキア】加入を認めよう」


 彼は、どうやらボクにティカを殺せと命じた男だった。それは良いが、これは一体どうなっている?


「おい!なにをいっt」

「此処で暴れられても困るからね、少し我慢してくれ」


 そういうと、ボスを名乗る男は恐ろしく速い手刀でボクを気絶させる。ボクじゃなきゃ、見逃しちゃうね!


「お兄ちゃん!」


 当薬が逃げ込んではずのコンテナとは別のコンテナの後ろからティカが、ボクを心配して駆け寄ってくる。


「やめてっ!お兄ちゃんに触らないで!」

「すまないね、だが安心しろ。君たちにこれ以上、危害を加える気はない」

「本当?」

「あぁ、勿論だ。だから大人しく着いてきてくれないか?そしたら、当薬くんの手当てもこちらでしよう」

「お兄ちゃんの?……それなら、分かった」


 ティカはとても容姿からは想像できないくらい、冷静に事態を理解している。


「……君も、もしかしたら……」


 男は眉間にしわを寄せボソッと呟く。


「……?」

「いや、何でもないそこに居る男の人に付いて行ってくれ」

「……うん」

「よし、出雲。この嬢ちゃんを拠点に送ってくれ」

「了解致しました」


 戦っていた男──出雲黒(いずも くろ)はティカを車に乗せ【ルドベキア】本部へと向かう。


「三葉。()()()を頼む」

「りょーかい」


 戦闘に参加しなかった女──三葉箒(みつは ほうき)()()()が能力を発動させる。すると、凹んだコンテナが元に戻り、もとあった場所に独りでに戻っていく、出雲が造ったクレーターも綺麗なコンクリの地面に戻っていく、弾丸の後さえ綺麗さっぱり消え去った。


「覆地。お前は当薬くんを連れて来なさい」

「げぇー。また運ぶのかよ、仕方ねぇなァ」


 そういうと、ボス、三葉、古亜、当薬はもう一台の車に乗り込み、もうずいぶん暗くなった夜道を走り去る。

 もちろん古亜ちゃんはツンデレ要員!

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