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三章6 『今日は無礼講in女子更衣室』

 更衣室というのは――特に学校のものは――汗臭いと頭ごなしに決めつけていた。

 なんせ、体育の後に着替えるような場所だ。

 そんなところが臭くないわけがない。


 しかしその考えはあっさりと打ち砕かれることになる。




「はーい、二名様ご招待~」

 俺とアイスは背中を押されて無理矢理更衣室へ入れられた。


 途端、香ってきたのはなんか甘い匂いだった。思わずすんすんと鼻を鳴らしてしまう。

 が、その行為はあっさり女子達に看破されてしまう。


「あ、今天神くん部屋の匂いいでたー」

「うわ、いやらしい~」

 ケラケラと笑われ、俺は顔面がたちどころに熱くなってくるのを感じた。


「あっ、いやっ、ちっ、ちがっ!」

 慌てて手を振るって否定するも、時すでに遅し。

 幸い彼女達は面白がるようにニヤついていた。ドMじゃないから、軽蔑の眼差しとか向けられてたら今頃墓穴を探して飛び込んでいただろう。


「ほらほら、みんな着替えよう」

 委員長がパンパンと手を鳴らすと、「あ、そうだねー」「時間なくなっちゃうし」とみんな散り散りになっている。

 しかし俺達が逃げられないよう包囲を崩すことはやめない。この学校では授業でそういったことも教えており、割に優秀なうちのクラスは鼠一匹逃げ出す隙間もないフォーメーションをバッチリ組んでいた。


 超人的な身体能力を持つアイスならと一縷いちるの望みを託して見やるが、彼女は俺の視線に気付いてぶんぶんと被りを振った。さすがに多勢に無勢ということらしい

 万事休すである。

 このまま俺は、あられもない姿をみんなの前にさらすことになってしまうのか……!?


「はい、ここがアイスちゃんの場所。で、ここが天神くんね」

 女子更衣室がどんな理由で場所が決まってるのか知らないが、俺達は隣り合った場所のロッカーの前に立たされる。

 もう如何いかんともしがたい状況である。


 これは腹をくくるしかないと諦めの境地でロッカーを開いた。

 中からは甘酸っぱい匂いが漂ってくる。

 多分汗の臭いも混じってると思うのだが、不思議とイヤな感じはしなかった。まるで旬の果実の匂いみたいだ。

 ただまたそれにひたっていたら、周囲の女子からからかわれるだろう。

 俺は着替えの入ったスポーツバッグを開き、中から男の時より一回り小さい体操服を取り出す。新品特有の清潔でよれてない生地が眩しい。


 俺はおもむろにトップスに手をかけ、上に引っ張り上げて抜いた。

 途端、方々(ほうぼう)から黄色い悲鳴が上がった。

 な、なんだなんだ!?

 周囲を見やると、プールの授業で使うようなテルテル坊主みたいな恰好になるタオル――後で知ったがラップタオルというらしい――を見に纏った女子達が一人残らずこちらを向いて興奮や羞恥の表情で一様に顔を赤くしていた。


「……え、あの。俺、何か変だった……?」

「天神くんと……アイスちゃんもなんだけど」

 根路は俺とアイスとを交互に見やる。

 アイスは周囲の反応に構わず黙々と着替えをしている。精神が鋼鉄でできているのやも知れない。

 周囲のヤツ等と、俺とアイスの違いに気付いた。

 前者はラップタオルをしていて素肌を隠し、後者は恥ずかしげもなく見せつけているということである。

 赤面した俺の顔から理解したと察したのだろう。

 根路は「……きょ、今日が初めてなんだし仕方ないよ」とフォローを入れてくれた。ただそのせいでかえって羞恥心が掻き立てられる。


「な、なあ。みんな中学校の修学旅行とかで、風呂に行くときに裸なんて見てるんだろう? なんでそんな体育の着替えの時は完全防備で隠そうとするんだよ?」

 無駄に早口で訊くと、彼女達は顔を見合わせて。

「だって、ねえ」

「そんな空気になっちゃうし」

「そんな空気ってどんな空気!?」

 思わず鋭く突っ込んでしまった。


 女子の一人が、だしぬけにラップタオルに手をかけ。

「じゃー、今日は無礼講ってことで!」

 ばっと宙にタオルを投げ捨て、ブラとパンツのほぼ生まれたままスタイルになり。

「てーんじーんくんっ!」

 と言いながら、こちらへ跳びかかってきた。

「ひゃっ、ひゃぁッ!?」

 悲鳴を上げて身を竦ませてしまう。実践だったら完全にアウトだが、白い肌80%超の女子が迫ってきたのだ――とっさに正しい判断などできるはずもなく。

 俺は伸ばされた腕に捕らえられ、ぎゅーっと抱きしめられてしまった。

「うわぁ、チョー小さい! アタシより小さいとかビックリー!!」

「ひっ、ひっつくなよ! 暑苦しい!!」

「えへへー。ね、アタシっておっぱい大きいんだけど、わかる? わかっちゃう!?」

 しつこく聞かれなくても、さっきから俺の胸にぎゅうぎゅう押し付けられているんだからいやでも気付いている。


「可愛いー。もうすっごく天神くん可愛いっ! 好きになっちゃう、ね、ね、アタシ達恋人になっちゃわない?」

「なぜにそうなる!?」

「いいじゃん。減るもんじゃないんだし」

「いや減るだろ!? 純情さとか、そういうの!」

「アハハ、やっぱり可愛いー。もっと好きになっちゃうー」

「ううっ……。た、助けてくれアイス……」

 と見やると、彼女もまた捕縛されていた。せっかく来た体操服も脱がされてる。

「うわあ、アイスちゃんってさらししてるんだぁ。大和撫子―」

「でもパンツは普通のなんだね。ミスマッチー」

「……く、屈辱」

 自分の体をいいようにされていることに唇を噛んでいる。


 ……ああ、俺達はこれからどうなってしまうのだろう。

 俺は不安に満ちた未来から視線を逸らすように、天井を仰いだ。

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