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二章10 『秘密は明らかに』

「えっと、ヒロインって……。俺が?」

「そうさ。キュートな外見で、民の平和を守る。ニチアサの魔法少女と肩を並べる存在だ」

「……ニチアサって、美味しいもの?」

 いまだに誤解中のアイス。


 きょとんとした顔して彼女を見やったラムは、一瞬の内ににやりと笑って言った。

「そうそう、そうさ。とってもデリシャスなものさ」

「おい、何言って……」

 と反論しかけた俺の口を人差し指で心理的に縫い合わせ、ラムは続ける。


「時にフレッシュだったり、時にスイーツだったり。とにかくバラエティーに富んだ味がするんだよ」

「フレッシュで、スイーツ……」

 ごくりと喉を上下させるアイス。

「そんな美味しいものだから、女の子には人気なんだ。やがてそれは大ヒットして、大人の男性をもとりこにした」

「美味しいもの、みんな好き。納得」


「……俺、アイツだけは絶対に信用しないようにする」

「そうした方がいい。プログに心を許すといつか痛い目見るよ」

 俺とエンジュはこそこそと言葉をわした。


 純真無垢な少女をたぶらかした大罪人がこちらを向く。

「ところでソアラくん。一つ、訊いてもいいかい?」

「なんだ?」

 彼女はこちらに歩み寄ってきて、俺に目線を合わせるように身をかがめて訊いてきた。

「君はどうして、お父さんに会いに来ないんだい?」

「……え?」

 ピシッ、と音を立てて頭が凍り付いた。


「おいっ、それは……」

「ん、どうしたんだい?」


 俺は震える手でラムの肩をつかんで訊いた。

「なあ、父さんって……ルートのことだよな?」

「え? うんまあ、そりゃそうだろうさ。だって君の実父はもう死んでるんだし」

 俺は苦しくなった呼吸を整えて、さらに問いかける。


「なあ、今どこにいるんだよ?」

「どこって……、もしかして君知らな――」

 プチンと、俺の中で何かが切れた。

「いいから答えろよッ! ルートは……っ、ルートは今ッ、どこにいるんだよッッッ!?」


 怒鳴りつけられたラムは面食らった顔で俺とエンジュへと視線を往復させていた。

「もしかして、もしかすると、……秘密だったりした?」

「あたしはあんたの迂闊うかつさを恨むよ」

 俺はため息を吐いているエンジュを睨みやり、問い詰めた。

「なんでっ……、なんで今まで黙ってたんだよ? ルートは行方不明じゃなかったのか!?」


 エンジュはまったく動じず、落ち着き払った様子で答える。

「ああ。表向きにはそうなってるよ」

「表向きには、って……」

「実際は違うってことだ」

「んなの、言われなくたってわかって――」

「――いいや」

 俺の言葉を断ち切るような、鋭い一声をエンジュは放った。

「あんたは、何もわかっちゃいない」


 彼女から向けられた視線は、熱された鉄が一瞬にして冷え切って砕けるようなものだった。

「そのまま、きたる時まで無知であるべきだったんだよ」

「……っざけんなよ」

 凍り付きかけた喉を気合で溶かして、俺は問うた。

「ルートは俺の育て親だぞっ!? 俺にはアイツが今どうしてるのか、知る権利があるだろうがッ!!」

「……普通ならそうだろう。だが……兄ちゃんに関しては事情が違う」

「事情……?」

 エンジュは苛立たし気に頭を掻き、ため息を吐いて言った。


「だがまあ……。知られてしまった以上は、このままだんまりというわけにもいかないだろうさ」

 恨めし気に睨みやるエンジュに、ラムはぺろっと舌を出した。

「……口は禍の元だと、その身体からだに教えてやろうか?」

「はっ、ハハッ、イヤだなあ、イヤだよ。エンジュくん、目が笑ってないよ?」

「愉快な気分じゃないんでな」

 フンと鼻を鳴らして、エンジュはこちらに視線を戻した。


「あんたが望むなら、ルートのことを話してやる。会わせてやってもいい」

「そりゃ当然、望むに決まってんだろ」

「わかった」


 エンジュはチラッと腕時計を見やり言った。

「今日は予定がある。日を改めさせてもらってもいいか?」

「ああ、構わない」

「そうか、悪いな」

「それは何に対しての謝罪だ?」


 エンジュは目を逸らし、泣いているような、あるいは苦笑しているかのような表情を浮かべて、肩をすくめた。


「……今日は手厳しいな」

「心当たりは十二分にあるんだろ? 大体――」

 追求しようとした時、ふいに服の裾を引っ張られた。

 アイスだった。彼女はとがめるような視線を送ってきていた。

「言いすぎ」

「いや、だが……」

「そういうの、よくない」


 熱くなりかけていた頭が、彼女の目と言葉でめていく。

「……すまない」

「謝るのはわたしに対してじゃない」

「そうだな……」


 俺はエンジュの方を見やり、頭を下げた。

「すまない、言いすぎた」

「……いや、謝るのはあたしの方だ」


 どこか疲れ切ったエンジュの声が、頭の上から降ってくる。

「事情はどうあれ、黙っていたのは事実だ。どんだけ詫びても許されるもんじゃない」


「大丈夫だ」

 俺は頭を上げ、怪訝な顔を見やって言った。

「お前にはもっと反省すべきことがあるからな」

 エンジュは表情を崩し、力なくも笑った。

「……迷惑ってのも、かけておくもんだね」

「頼むから、それに関しては猛省もうせいしてくれ」

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