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6章7 『信じているから』

 3分が過ぎ、部屋に入るとソアラとエンジュはは互いの顔を黙りこくって見合っていた。

 二人がどんな会話をしていたのかはわからない。そもそも言葉が交わされたのだろうか。空気がどことなくひんやりしているように感じるぐらい、室内には音やその名残なごりがなかった。

 いずれにせよ、約束の3分は過ぎた。これ以上の猶予ゆうよは与えることができない。


「ソアラ、エンジュ。今日の面会はこれまで。それでいい?」

 エンジュはすぐにうなずいた。ソアラはしばし机の盤面を見つめていたが、やがてこちらを向いて小さく首肯しゅこうした。

「何か言い残したことは?」

「いや、ない。エンジュは?」

「アタシも特にないよ」

「そう。じゃあ、そちらはお願い」

 看守に言うと彼はうなずき、エンジュをともなって面会室を出ていった。

 わたし達もソアラを連れて面会室を出る。


 退室してからすぐ、ボルトが言った。

「すみません、王。少し二人でお話させていただきたいことがあるのですが、お時間を戴けないでしょうか?」

「別に、いいけど……」

 わたしはソアラを見やった。


 ボルトがわたしの考えを察したのか、言ってくる。

「彼はもう囚人ではなく、ワシ等の仲間なのでしょう?」

「ええ、そう」

「ならば一人にしても、特に問題はないでしょう。……ああでも、王の部屋までの道がわからず迷子になるやもしれぬ……か」

 あごに手をやり考え込み始めたボルトに、ソアラがひらひらと手を振って言った。

「いや、大丈夫だ。こう見えて俺は道を覚えるのは自身があるんだ」

「しかしアジトは結構広く道が入り組んでおりますぞ」

「問題ないさ。わからなかったら、仲間・・に訊くからさ」

「……と申していますが。どうなさいますか、王?」


 迷いが胸中に生じた。

 確かにソアラはもうメイオウのメンバーの一人で、本当ならアジトを一人で歩かせても問題ないはずだ。

 けれども彼の場合は事情が少し特殊だし、今囚人になっている大切な人に会ったばかりだ。特に二人きりにさせてしまったことがどうも引っかかる。ないとは思うが、万が一脱出のための計画を立てていたとしたら……。


 浮かんだ考えをわたしは慌てて掻き消した。

 わたしはソアラを信じると決めたから、二人きりで面会することを許したのではないか。

 ならばアジトを一人で歩かせるぐらいは許可すべきだ。

 セキュリティは万全だし、エンジュに会うのは独力どくりょくでは困難だ。

 何より……。


 わたしは昨日のウォータースライダーから幾度となく行われた身体の触れ合いを思い返し――ゾクゾクと背筋が震えた――、自身に言い聞かせた。

 すでにソアラはわたしのとりこ。もう離れられるわけがない。

 きっと彼は、またわたしに愛してほしいという欲求に支配されている。そうに違いない。


 不安がみるみる解消され、心中が鳥肌立つような興奮に包まれる。

 わたしはソアラに顔を近づけ、ボルトに聞こえないように小声で言った。

「部屋に戻ったら、楽しいことしよう」

 すると彼はたちまち顔を赤くした。わかりやすくて可愛い。


 やっとソアラに対しての好意を取り戻せたような気がしたのと、部屋に戻った後の楽しみができたことで、身体が喜びにうずいてきた。

 こうなったら一刻も早く、部屋に戻れるようにしなければ。

顔を離したわたしは、ボルトにも聞こえるような声量でソアラに言った。

「今の約束を守ってくれるなら、部屋に戻ってもいい」

「あ、ああ……。わかった」

 ソアラはおどおどしながらもうなずき、部屋へ戻っていく。


 ボルトは不思議そうな顔でソアラの背を見送り、思い出したようにわたしを見やって訊いてきた。

「……一体、どのような約束をされたのですかな?」

「秘密。それより、話っていうのは?」

「ああ、そうでしたな。では第十三会議室に向かいましょうか」


 ボルトに促されてわたしは歩き始める。彼はその後を――故事みたく影を踏まぬように距離を取りながら――ついてくる。

 幸い第十三会議室はここから近い。すぐに辿り着けるからありがたいと言えば、ありがたいのだが……。

 疑念が心中に付きまとう。

 わざわざ会議室で二人きりで話したいことというのは、なんだろうか?

 めぐるも似たようなメッセージを送ってきたし、今日はやたらと内緒話が多い気がする。


 そんなことを考えて歩いていると、くだんのめぐるとばったり鉢合はちあった。

「おっ、おお、リーダーやないか」

「めぐる」

 作業着姿の彼女は手にスポーツドリンクのペットボトルを持っていた。


 タイミングのよさに少し驚いていたが、それは向こうも同じだったようで目を丸くしてわたしとボルトとを見比べていた。

「……ワシには挨拶はなしですかな」

 白い目を向けて言うボルトに、めぐるは「ああ、アンタおったんか」と目を細めて冗談交じりの口調で言った。

「影が薄くて気付かんかったわ。髭は濃ゆいくせにな」

「めぐる嬢のように、いつもやかましくしているわけではございませんからなあ。今は休憩中ですかな?」

「せや。無理のしすぎは体に毒やからな」

 ちゃぽんと音を立てて容器を振っためぐるはふとこっちを見やり、声を真剣なものへと変えて言った。

「……なあ、リーダー。今、ちょっと時間あるか?」

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