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そして僕らは…  作者: マジコ
33/33

そして僕らは… その33

「エルサ様の娘の姫様でしょう。」

「まぁそうです。よくわかりますね。」

「顔がエルサ様に良く似てますから。」


 懐かしそうに村長は言った。そして、どことなく寂しげでもあった。村長の心を読み取ったアルフィーは村長は事情を知っているのだろうかと思った。だから聞いてみた。


「母のこと知っているのですか?」

「まぁ事情は多少ね。」

「そうですか。」

「話は歩きながらでも。ちょっと我が家寄っていいですかな?塔の鍵を取りに行かなくては。」

「はい!」


 鍵の話を聞いたアルフィーはいよいよここまで来たんだと感じた。村長の前を行きこっちかなとあっちこっち指差して歩いていった。それを見ていたアーク、ドニー、村長は微笑ましげにしていた。

 村長宅に到着するとリビングで寛いで待っていてくれと村長に言われアルフィーらは椅子に座って待った。しばらくすると村長の娘と思われる女性がお茶を運んできた。湯飲みをテーブルに置きながら彼女は話しかけてきた。


「王都からいらしたそうで。」

「はい、そうです!」


 慌ててアルフィーは答えた。怪しまれただろうかと不安になる。しかし、彼女は疑いを感じさせず、微笑んでいた。


「何か研究で来たと父が仰っていましたよ。」

「父?」

「ああ村長ですよ。建築関係の研究かしら。」


 村長の娘は人差し指を頬に当てて疑問を口にしていた。童顔なのだろうか。ちょっと可愛らしくアークなどは感じた。恋人には見せられない表情をしているとアークは思った。しばらく、村長の娘さんと雑談していると村長が戻って来た。


「待たせました。行きましょうか。」

「はい。」


 アルフィーらは立ち上がり村長の娘に挨拶して村長と共に出発した。

 最果ての塔は村から然程離れていないようですぐに着いた。途中は小鳥の囀りと風の流れる音だけが聴こえる穏やかな移動だった。長閑な外界とまるで遮断されているかのような雰囲気の村であった。

 歩いている時はもっぱらグンゾウの話をしていた。


「グンゾウさんって母が冒険者として村に来た時の世話役だったみたいですね。」

「そうだよ。最初はビビってたけど最終的には村人の中で一番エルサ様と親しくなっていたな。」

「母はかなりヤンチャな人だったみたいですね。」

「そうだね、冒険者らしくって姉御肌な人だった。」


 そう言うと村長は懐かしげに目を細めた。その様子を見ていたアルフィーは微笑み胸がきゅっとした。母の話が聞けて幸せに思う半面切なくもあったからである。良い話を聞くのは幸せな半面侘しさもあるものである。


「グンゾウさんは母の話をいっぱいしてくれました。知らない母の過去を知れて嬉しかったです。」

「それは良かった。グンゾウも妻を亡くしてからは一人村を離れて森で暮らしている。懐かしい話が出来てあいつも嬉しかっただろうな。」


 塔の前に着いた。塔の周辺は簡素に整備された道はあるが名も無き雑草たちが伸び放題であった。こんなところに一国の妃が幽閉されていたとはとアルフィーらは心臓が掴まれる気分になった。不条理さを感じずにはいられなかったのである。村長は鍵をアルフィーに渡した。鍵自体は厳かなデザインで重量感のある大きめの鍵であった。


「中は自由に見ても構わんよ。欲しい物があれば持って帰ってもいい。」

「大丈夫なんですか?」

「中央からは捨置かれているだけだから物が無くなってもお咎めないから大丈夫さ。」


 そう言って村長は微笑んだ。

 アルフィーは鍵を受け取りアークとドニーと中に入って行った。晴天の青空が穏やかに包むようだった。

 中に入ると塔だからだろうか無機質な雰囲気が醸し出している。一階には物がなく階段があるだけであった。階段を登ると使用人の部屋と思われる場所もあり、最上階の一つ下の階まで行くと他の階の部屋とは少し趣が違った。扉が大きいのだ。固く錠がかかっており、来るものを拒んでいるようであった。


「多分、この部屋よね。」

「だろうな。」


 アークは肯いた。

 アルフィーは村長から借りた鍵を使い錠を開けた。やはりこの部屋のようであった。

 部屋の中に入ると家具がいくつかあった。しかし、埃が溜まり長い間この部屋が捨置かれていたことを物語っていた。主はもういない静かに時を刻んできた物寂しい部屋であった。

 アルフィーは母の最後の地に来れて感激したのか悲しいのか瞳にうっすらと涙を流していた。アークとドニーはなんと声をかけたらいいか分からずただ静かにアルフィーの次の動きを待った。窓際に椅子があった。その椅子にアルフィーは近寄り埃を払い座った。何か噛み締めているように見えた。

 ドニーがアークの肘を肘で突いた。出ようということだとアークは判断した。


「そうだな。」


 アークたはアルフィーをちらりと見てからドニーと部屋を出た。両親が健在で自由に学問をしている自分には出来ることはないなと思えた。たぶんそうだろう。ドニーはアルフィーの背中を見ると戦死したらこういう思いを親にさせるのかなと思った。何にせよ二人にはアルフィーにかける言葉、気の利いた言葉をかけることは出来なかった。

 二人は部屋の扉の前でアルフィーを何時までも待つことにした。最初は立っていたが、どちらともなく疲れたのか壁に寄りかかり静かに待った。外は暗くなり何時になったか分からなくなった頃アークがぽつりと言った。


「もうこんなことできるのは今日までだなぁ。」

「そうだな。」


 ドニーは微笑してそう応えた。もう彼らには気兼ねなく正直に一緒にいたい人と一緒にいることは出来ない。それぞれの立場で然るべき人と付き合わなくてはならない。生きれる世界は確実に狭まるのである。特にアルフィーは女王になる。そうなったら本来ならもう既にだが、会うことすら難しくなるだろう。アークとドニーがアルフィーと会えるといえば何かの表彰の時に少しの当たり障りのない会話くらいだろう。まともな付き合いなどもう出来なくなるのだ。

 一方、部屋の中は静まりかえっていた。アークとドニーは心ゆくまで母のことを想ってほしいと考えアルフィーが出て来るまで待つことにした。どちらかが提案することなくそういう空気になっていた。こうして夜は更けていった。


「アーク、ドニー!」


 懐かしいような呼び声がアークとドニーを起こした。アークは目を擦った。あの頃のような少女が目の前にいた気がしたからである。そこには意地悪で男勝り、自由謳歌していた頃の笑顔があった。


「もう良いのか?」


 寝ぼけながらもアークは言った。


「うん!」

「そうか。ドニーに帰ろう。」

「そうだな。」


 三人は塔を出て村に一旦戻った。外は涼しくまだ朝のようだ。小鳥の唄をエンディングにして三人は村長宅に寄り、鍵を返却し、感謝の意を伝えた。


「その顔を見ると鍵を貸して良かったと思いますよ。」


 村長は優しい笑みで言った。村長は朝食を食べてないだろうと言って娘に朝食を出すように言った。三人は朝食を食べながら今までのことを語り合った。子供の頃、アルフィーが王都に引っ越して以降、そして今回の旅。同窓会のような様子を呈していた。朝食を終えると三人は村長に別れを告げてドラゴンに乗り、帰路に着いた。

 帰路はこれといって話すことがないほど穏やかに過ぎていった。王都に到着するとアルフィーは王宮に戻った。ガリクソンとフレイはホッとしているだろう。アークとドニーもそれぞれの生活に戻った。

 数年後、アルフィーは女王となっていた。毎日王座に座り公務に励んでいた。そこに一人の学者がやって来た。


「女王陛下お久しぶりです。」


 恭しく拝礼するのは御用学者となっていたアークであった。アークは旅から帰ると研究に邁進していた。その研究が認められ大学の推薦により、王立の研究所で王国のための研究をしている。今ではたまに女王に拝謁して魔法に関する研究の説明や意見を言ったりしている。王室や政府の評判は良く期待の新星といった感じである。目上の学者にも物怖じしない所も王国からの信頼獲得に一役買っている。最近は軍隊による魔法利用に関しての意見を求められている。アークは現在それに関連する研究の取りまとめをしている。学者同士の意見の隔たりによる応酬に頭を悩ませているが、充実感を感じて生きている。彼女のリィズとはもう時期結婚しようかと話している。


「今日の会議での意見を楽しみにしている。」

「はっ、王立研究所の叡智を結集したのでご期待下さい。」

「軍事における魔法の利用は倫理的に問題があるとする意見もある。それに対しての君ら研究部門の意見傾聴しよう。」

「はっ、では私は準備に。」

「うん。」


 アークは礼をすると部屋から出て行った。アルフィーはそれを優しく清い笑顔で見送った。そして、また公務を続けた。公務の中でアルフィーは竜騎士隊の再編について担当官と会談した。竜騎士隊の新たな隊長として担当官はドニーを推挙した。理由は戦場での活躍の他に人望があることである。以前は堅苦しい面倒な奴とされていたが、ここ数年くだけて話すようになり、上官からも後輩からも同期からも好かれている。強者をまとめあげることに期待を持てる。アルフィーとしても異論はなかった。

 アルフィーは女王としての勤めが終わると自室で読書して過ごすことを日課としていた。王国を率いるものとして教養がなくてはという考えからである。読む本は多様で古典や学術書、小説などである。著名な研究者の著書は出版されるとすぐに入手して読む。興味深ければ謁見して詳細を尋ねたりすることもあった。そうした甲斐甲斐しくしている様子を見てガリクソンとフレイはホッとした気持ちになっていた。

 三人はそれぞれの道を歩んでいた。一人は女王、一人は学者、一人は軍人と三者三様である。それぞれの立場上プライベートでも会うことはほぼないだろう。しかし、彼らは繋がっている。互いに各々の役割をこなすことで旧友を助けて支えているのだ。側にはいられないが、遠くから幸あれと祈っていることだろう。

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