そして僕らは… その32
「エルサ様、また会えるとは思いませんでした。」
「私もだよ。この前の夜が最後の逢瀬だと思っていたさ。それが可愛らしくも自ら来てくれるなんて。」
そう言ってはにかむエルサ様は美しくもあり、可愛くもありました。その表情に私は照れて顔を反らしてしまいました。それに気付いたエルサ様は悪戯っぽい笑みを浮かべて手招きしました。心を奪われていた私はエルサ様の手招きのままに側に行きました。ソファに寝そべりながら手招きするエルサ様は妖艶さを感じさせました。側に行くとエルサ様は私に顔を近づけ、今にもキスをするのかという距離にしていました。私の心拍数が鰻登りになろうかとした時、エルサ様は私の額にデコピンをしました。私は慌てて離れました。少し痛かったです。
「何するんですか!?」
「ふふふ、冗談なのに可愛いなグンゾウは。」
「たく、エルサ様は変わったようで変わりませんね。」
「ありがとう。褒め言葉と思うわ。」
「別に褒めてはいないのですが。」
私の小言をエルサ様は無視して欠伸をしていました。
「で、何しに来たの?用もなく来ることはないでしょう。」
「うんまぁただエルサ様の昔話を聞きたくて。」
「ああまぁいいか教えてあげるわ。そこの椅子を使いなさい。」
そうしてエルサ様が指を指した方を見ると高そうな椅子がありました。村の有力者の家にもない豪勢な装飾の椅子でした。私はその椅子をエルサ様が寝そべるソファの近くに持ってきて座りました。そして、私は切り出しました。
「何故、最果ての塔に来たのですか?」
「うーん、そうねまぁお家騒動よ。」
エルサ様はそう言うと私から視線を外し、諦めきったような表情をしていました。私はそのお家騒動という言葉で大体理解しました。ようするに潰されたのでしょう。
「それは大変ですね。」
「私も大変だけど娘が心配よ。」
「エルサ様は娘がいるのですか?」
「まだちっちゃいけどね。今頃、乳母と何処かの地方都市にいるわよ。」
そう言うエルサ様の姿は寂しげでした。それもそのはず幼い娘と離れ離れなど辛くて悲しいことでしょう。子供のいない私でも分かることです。ところがエルサ様はすぐにニヤリとしました。
「どうしました?」
「私の娘さアルフィーて言うんだけどねもしかしたら成長して自分の判断で動けるようになったら私を探しに来るかなと思ってさ。」
「そうですね。エルサ様の娘ならやりかねませんね。」
「だろ。私はさずっと冒険者っていうならず者でさ、陛下と結婚したけどもうこうでしょ。あの娘にはほとんど何も残してあげられなかったけどただ自分の意思で動く機会はあげれたかな。」
そう言ってエルサ様は楽しげな顔をしました。その表情からはそれがエルサ様の娘であるアルフィーちゃんへの愛情が見て取れました。
「きっとエルサ様に似て遊び心を忘れない人になりそうですね。」
「だと良いけど。そろそろ戻った方が良いんじゃない?」
「そうですね。作業も終わってるでしょう。」
「じゃあねグンゾウ。」
「はい、エルサ様も。」
私はエルサ様に別れを告げて部屋を後にしました。階下では搬入作業は終わり皆帰り支度を始めてました。私は彼らに合流し、塔を去りました。これ以降、物資は外から運ばれ我々村人はその塔に近づくことも許されず、私は以後二度とエルサ様に会うことは出来ませんでした。
「とまぁ、これが私の知るエルサ様の話しです。」
アルフィーはグンゾウの話しに聞き入っていた。グンゾウの話が終わると思い出したようにグンゾウに聞いた。
「母は母は王族に嫁いだこと私を生んだことに後悔はしていませんでしたか?」
「私が話していた限りそういう印象は受けませんでした。むしろ、幸せを願っていたと思いますよ。」
「そうですか。」
アルフィーは泣きそうだった。母の過去を聞けたからである。王宮の者は誰も母のことを教えてくれなかった。禁忌だったのかもしれない。特にアルフィーが王位を継承する立場になったことで母親が社会的に蔑めれている冒険者だったということは王家の名誉と尊厳に関わることなのだ。だからなかったことにしようとして娘であるアルフィーには事実を話そうとはしないのだろう。
「さあ、アルフィーちゃん、もう夜が更けて来ました。お休みください。明日、エルサ様最後の地の最果ての塔に行くのでしょう。」
「そうですね。母のことを聞けて良かったです。」
アルフィーは自分が休む部屋へと行き寝ることにした。
「お休みなさいグンゾウさん。」
「お休み。」
「グンゾウさんはまだ寝ないのですか?」
「今日は少し酒でも飲もうかと思いましてね。」
「ほどほどにしてくださいね。」
「エルサ様とは逆のことを言いますな。エルサ様なら私も飲むとか言って朝まで宴会ですよ。」
「母は変わった人のようですからね。」
軽く会話をしたアルフィーは部屋へと行きベッドに入り眠りについた。眠りの中に入るまでアルフィーは母のことを想った。母が最後に見た最果ての塔の景色とはどんな世界だろうか。そこからの光景を明日自分も見たい。そして、母へ想いを馳せたい。そんなことを考えているうちにアルフィーは眠りについた。
次の日の朝、アルフィーは昨晩は遅くに寝たのに早くに起きた。窓の外を見ると鬱蒼と茂る森が静かに朝の目覚めをしていた。リビングに行くとグンゾウが既に朝食の準備をしていた。アークとドニーはまだ起きてきてないようだ。
「グンゾウさん起きるの早いですね。」
グンゾウはコップにお茶を淹れながら答えた。
「習慣というやつですよ。」
アルフィーとグンゾウが会話しているとアークとドニーが起きてきた。まだ、眠そうだ。
「おはようアーク、ドニー。」
アルフィーに声をかけられ二人はおはようと返した。三人は昨日の夕食の時の席についた。グンゾウがお茶を運んできた。それぞれの前にお茶を置くとグンゾウは座り四人は食べ始めた。
朝食は賑やかなものとなった。しかし、そこはもう大人、子供のような騒ぎ方ではない上品なものであった。朝食が済むと三人はグンゾウに別れを告げてドラゴンに乗って出発した。別れ際アルフィーは
「母の話聞かせてくれてありがとう。」
と言った。それに対してグンゾウはにこやかな自分も久しぶりにエルサの話が出来て楽しかったとの旨伝えた。そして、アルフィーたちは最果ての塔に向けて飛びだったのであった。
今日は朝から晴れており絶好の旅日和であった。幸い空にはオオハヤブサはいなかった。昨日のうちに諦めてくれたようである。
アルフィーは目を瞑り体を伸ばして気持ち良さげにしていた。アークはまだ欠伸をしていた。しばらく飛んでいるとドニーが叫んだ。
「おい、マルスク村が見えてきたぞ。」
「本当だ。いよいよ最果ての塔に行けるのね。」
「もう着いたのか?」
「アーク、寝ぼけてると落ちるぞ。」
眠たげなアークを尻目にアルフィーとドニーはマルスク村を眺めた。マルスク村は上空から見ると家々があまり密集していないこじんまりとした村であった。正直、金がなさそうであった。畑が広がり、たぶんトウモロコシを栽培しているのではないかと思われる。村の広場らしき場所を見つけたドニーらはそこに降り立った。広場は何もなく雑草が生えているくらいである。
「さぁ、最果ての塔に行くわよ。」
「まぁ待てアルフィー。」
勇み足のアルフィーをアークは制した。それにアルフィーは怪訝な顔をした。何を言ってるのよという顔であった。
「早く行かないと。」
「最果ての塔はこの村の住人が管理しているんだ。勝手に入ったらトラブルになる。」
「じゃあどうするの?」
「村長に許可もらおう。」
アークがアルフィーに話していると村人が集まってきた。その顔は警戒感が出ていた。まぁ、無理もないだろう。見知らぬ人間たちがドラゴンに乗って現れたのだから。
アルフィーは早く行きたいので村人に話しかけた。
「あの誰か村長さんの家を教えてください。」
村人は訝しげな顔をして各々こそこそ小声で話していた。完全に不審者扱いである。その光景を見ていたドニーはアルフィーが時期女王だと知ったら驚くだろうなと思っていた。
「誰か!村長の家を教えてください!」
はっきりと大声でアルフィーが言うと流石に一人の男性村人が進み出て来た。
「お前さんらは何者だ。どこから来た?何しに来た?」
「私たちはえーとが、学生です。」
「そんな風には見えんな。何しに来た!」
「えーと。」
アルフィーは泣きそうな顔で後ろに控えるアークとドニーを見た。助けてということだろう。何か気の利いたことを言えということだった。しかし、アークとドニーも思いつかないようで広場には気まずい沈黙が流れた。
「不審者め、役所につきだしてやる。おい、こいつらを取り押さえるぞ。」
「おう。」
「おう。」
何人かの屈強というより健康的な肉体の男たちが前に出て来た。ドニーは困った。この人数相手では数で捕まってしまう。というより抵抗したら最早容疑者になってしまう。ここは何とかこの場を離れる方策を考えようとした時である。一人の老人が現れた。
「昼間っから何を騒いでいる。」
「村長。」
顔を出したのは村長であった。アルフィーの顔がパッと明るくなった。これなら話が早いと思ったのである。
「村長ですか?」
「ああそうだが君らは?ん?」
村長はアルフィーの顔をじっと見たそして頷いた。悟ったようであった。アルフィーが姫であることにである。そして、村長は微笑んで言った。
「まぁ、最果ての塔の中を見たいなら私が連れて行こう。」
「良いのですか?村長。」
「良いのだよ。君らは仕事に戻りなさい。」
村長がそう言うと村人は解散した。みんな農作業などの作業に戻った。村人は心配そうな顔をしていたが、村長に言われれば従うしかないといった感じであった。村人たちが散り散りになるのを見送った村長は穏やかな笑顔をして言った。
「さぁ、行きましょうか。」
「あの私のこと誰だか分かるのですか?」
アルフィーが聞くと村長は優しく肯いた。




