そして僕らは… その31
村長の家には久しぶりでした。森の中に住み始めてからは初めてでした。テーブルを挟んで向かい合って座りました。壁にはフクロウ型の時計が時を刻んでいた。
まず、村長が口を開いた。
「グンゾウ。やっぱりあれはエルサだよな。」
「間違いないと思います。化粧して豪華なドレスで着飾っていましたが、あれはエルサさんですよ。」
「どうしてまたエルサがあんな恰好で。」
「話通りだとしたら王族の誰かと結婚したということではないでしょうか。私たちの村を危機から救って表彰されるために王都に行ってから何かあったのでしょう。」
「王族の人間に惚れられたと?」
「まぁ、そうなりますね。エルサさんって、綺麗な顔が化粧してなくてもわかりますからあり得ない話ではないでしょう。」
「それがなんでまた最果ての塔に来るんだ?」
村長は首を捻り理解に苦しむといった様子でした。私もその時はまだ事情をよくわかりませんでしたので村長と一緒になって首を捻りました。
「事情はわかりませんが、王都で何か政変があったのかもしれません。」
「うちの村も巻き込まれるかな。」
王国の隅にある村ですから王国の政治的事情には疎いのです。入って来てもおそらく全国で最後に入って来るのではないでしょうか。ほんとかどうかは実際はわかりませんが、まぁそれだけ外の情報が入って来づらいのですよ。
私は村長の不安を取り除いてあげようと楽観論を話しました。
「大丈夫ですよ村長。箝口令を言うということは市民を巻き込ませないためでしょうから独裁国家の虐殺のようなことはないでしょう。」
「楽観過ぎやしないか?」
「そうでもないでしょう。我が王国は民を巻き込んだ政変はしたことなかったと思いますよ。」
「そういうものかぁ。」
「そういうものです。」
私自身ちょっと無理のある話だと思いましたが、ここは村長の不安を取り除くことを優先しました。
その後もエルサ様のことについて話しました。しかし、確たる情報がないので推測の域を出ることはありませんでした。
村長の家で夕方になる少し前まで過ごしました。帰り際の私に村長は何事も無ければ良いがとしきりに不安そうにしていました。私はさっきの話を繰り返して不安を取り除いてあげようとしましたが、中々上手くはいかなかったようでした。
帰りながら私はエルサ様と会った頃のことを思い出し、なんでだろうという疑問が湧いてきました。それは馬車に乗るエルサ様はチラリとしか見れませんでしたが、冒険者時代とは違い重苦しい顔をしていたように思えたのです。あのなんにでもお調子良く楽しげなあのエルサ様ではなかったように見えました。きっと王都で色々あったのだろうと思うことにしました。そうとしか思えないのです。
村の人間としては外の厄介事を持ち込まれるのは嫌だなあと純粋に思いますし、何かエルサ様の力になれないものかとただ漠然と思っていました。太陽が西に沈み出すと、エルサ様のことは頭の隅に追いやり明日のことを考え始めました。明日という夢を見始めるのですよ。ちょっと臭いこと言いましたが、日常に戻るということです。
その日の夜のことです。私がベッドで横になっていた時でした。その夜はエルサ様のことを考えていて眠れなかったのです。情報がないのでわからないということしか頭には浮かびませんでした。そんな時です。寝室の窓を叩く音が聞こえました。モンスターかなと思い緊張しつつ窓のカーテンを左によけるとそこにはエルサ様がひょっこり顔を出していました。私は慌て窓を開けました。
「エルサさんどうしたんです?」
「ちょっとね。」
数年前に見たエルサ様の面影を少し感じました。そこにホッとする私がいました。とりあえず家の中に入れてリビングで昔話をしました。エルサ様は庶民のような素朴な服を着ていました。その恰好から昼間に見た時と印象が違いそこにはエルサ様の本来の魅力を感じずにはいられませんでした。そこそこ話た後、私は何故エルサ様が王族になったのか聞きました。
「王族の方と結婚したのですか?」
「まあね。」
「それはどなたですか?」
「陛下。」
「また、ご冗談を。」
私は笑いました。そんなことあるはず無いと思いましたから。
「それがね嘘じゃないのよ。」
「へ?」
「ほらゴブリン退治の後王都で表彰されたじゃない。その時に。」
数年前会った時には見せなかったしおらしさを見せていました。そこには数年前にはなかった大人の色気がありました。年月の進みを感じました。
「その時に一目惚れされたということですか。」
「まあ、そんなところ。」
そう言うとエルサ様ははにかみました。ああ、恋する乙女というやつだなと思いましたよ。
そこで私は一つの疑問を持ちました。何故王様の妃がこんなところに来たのだろうかとということです。その点について聞くとエルサ様は苦笑いしながら言えないよと言っていました。何とか聞き出したかったのですが、エルサ様はもう戻ると言って帰って行きました。エルサ様が帰った後、私は椅子にもたれかかり、黙考しました。王国の深部では庶民の伺い知れない複雑な事情があるのだろうと静かに考えを巡らしていました。
それから数日何事もなく過ぎていきました。ある日のことです。私は村の方に用事があり、村内に来ていました。用事を済ました私はたまには村長に挨拶でもと思い村長宅へと向かいました。空は晴れ渡り気持ちの良い昼下りでした。
村長宅に到着した私は村長の娘の案内により村長の部屋へと案内されました。
「村長、お久しぶりです。」
「よく来たね。」
私は村長にエルサ様のことで何かないか聞こうと思いました。
「何か動きはありましたか?」
「エルサのことか?」
「はい。」
「うむ、実は幾らかの物資を献上してほしいという依頼があったのだ。」
「そうですか。」
私はあの日の夜からまたエルサ様と話したいと事情を聞きたいと思っていました。それを察したのか村長は提案してくれました。
「物資の搬入に参加するか?」
「エルサさんが閉じ込められている最果ての塔に入るのですか?」
私は耳を疑いました。そんな易易と入れるとは思ってもみなかったのですから。
「ああそうだ。長くは話せないかもしれんが、接触は出来るんじゃないのか。」
また、会いたいと思っていましたのでこの提案に飛びつきました。まぁ、エルサ様なら話したくなったらまた抜け出して来るだろうと思いましたが。
物資の献上は明日でした。私はまとめ役ということで最果ての塔に行くことになりました。計らってもらいありがたいと思いました。
次の日の朝、私は村に来ました。集合場所にはもう幾らかの物資が届いていました。私はそれをチェックしました。まとめ役に選ばたのだから当然きちっと働きますよ。物資は続々と届いて来ました。それを一つ一つチェックするのは骨が折れました。早い人はもう昼食を食べているだろう時間になる頃、物資は全て届きました。それらをまとめて私と荷運びの男どもは最果ての塔へと出発しました。最果ての塔は村の東にあり、それほど村からは離れていません。モンスターに襲われる心配もないので、護衛無しで行きます。もしかしたらエルサ様が最果ての塔に幽閉されることになったのはこの地域が他地域に比べて安全だからかもしれませんね。その方が警備費がかからないですから。さて、私たちは最果ての塔に到着しますと塔の前で責任者らしき甲冑を装備している騎士が何人かの兵士を連れて現れました。
「よく来た。」
険しい顔から我々を見下しいるなぁとの印象を受けました。王都から来たのだからたぶんエリートでしょうから仕方がないのかもしれません。不本意な仕事だったのかもしれませんしね。その不愉快さが態度に出ていたのかもしれません。
私は進み出て報告をしました。
「頼まれた品、献上しに参りました。こちらが目録です。」
私は伝統的な目上の人への礼を尽くしつつ、今日持ってきた献上品の目録を騎士に差し出しました。騎士は目録を開き部下に献上品を確認させながらチェックしていきました。一通りチェックが終わると騎士は目録を閉じて指示を出しました。
「荷物を搬入しろ。」
「わかりました。」
私は男どもに指示を出しました。そして、自分はこっそりと荷運びから離れました。後は荷物を運び込むだけなので私は不要でしょうから気づかれないようにエルサ様の元へと向かったのです。エルサ様の居場所は村長に最果ての塔の内側を聞いていたので大体の見取り図は頭に想像でき、どの辺りにいるかは当ては出来ていました。その場所は塔の階段を登って最上階近くの階の一室でした。そこまで登るのはそれほど苦労はしませんでした。毎日森の中で作業してましたので体力には自信がありました。登り始めるとひたすら螺旋階段を登って行きました。階段には窓がなく埃っぽかったです。空気は籠もっており今すぐにでも換気がしたいそんな階段でした。エルサ様がいるだろうと目星を付けた階に着くと見張りが一人いたので予想通りと思いました。さて、ここからどうするか私は考えました。ここからどうするか全く考えてなかったので、どうしたものか頭を悩ましました。早くしないと物資の搬入が終わってしまう、どうしようと混乱に近い思考になっていると見張りの兵士が倒れました。私は何事かと思い、兵士に側に行き上半身を起こし、様子を見るとなんとその兵士はすやすやと眠っていました。そこで私は全てを察しました。
「エルサさん、いや、エルサ様、この扉をお開けください。」
私がそう言うと千夜一夜物語の物語の一節のように扉は開きました。
「いやあ久しぶりだねえグンゾウ。」
そこには質素ながら高貴さを兼ね備えたかつて村に来た時と違った雰囲気を醸し出しているエルサ様がいました。何というか綺麗になったなと思いました。数年前はまだ幼さを感じさせ無邪気な子供という印象がありましたが、今は洗練された大人になっていました。私は緊張しながら口を開けました。




