そして僕らは… その30
家に着くとやはり家内は寝ていた。私はエルサ様をベッドに寝かして自分の部屋で休みました。
私は昼頃に目を覚ましました。二日酔いのようで吐気を催していました。リビングに行くとエルサ様は昼食を食べていました。
「エルサさん、おはよう。」
「おはようって、もう昼だぞ。」
昨日のゴブリン退治と夜中の宴会の疲れを感じさせない様子でした。
「エルサさん元気ですね。」
「寝れば大丈夫さ。」
「私は二日酔いですよ。」
「弱いな。あれぐらいで二日酔いになるなんて。」
そう言うとぱくりと昼食の魚の身を食べていました。
私とエルサ様が話しているとキッチンから家内が出てきました。
「あら、おはよう。」
「うん、おはよう。」
私と家内が挨拶するとエルサ様は交互に私と家内の顔を見てキョトンとした顔で、
「もうお昼なのに。」
と呟きました。
私は二日酔いで吐気が凄まじかったので昼食は食べずに再びベッドに倒れました。夜になると大分気分が持ち直し吐気も収まったので何か食べようと思いリビングに行きました。リビングではエルサ様と家内が食事をしていました。また、調度いいタイミングに起きてきたものだと思いました。家内に私にも何かくれと言うと家内はパンとスープを出してくれました。そして、私を交えた三人で夕食を楽しみました。
夕食の途中他愛ない会話をしているとエルサ様が思い出したように話しました。
「そうだグンゾウ。来週王国から私たちのパーティーが表彰されることになった。褒賞金も出るそうだ。」
「そうですかそれは良かった。エルサさんたちの頑張りで我々の村はまた安心して生活できますから素直に嬉しく思います。」
「ありがとう。ここまで足を伸ばしたかいがあったものだ。それにしても王国からの褒賞金か。いっぱいもらえるかな。」
「それは王国が出すというのですから多額の褒賞金が出るのではないですか。」
「そうか。また、飲みに行けるな。」
私は苦笑しました。昨日あれだけ飲んでまだ飲みたいのかと思ったのです。まぁ、冒険者ですから荒くれ者ということでしょうか。
その後、数日間エルサ様は我が家を根倉にしてモンスター狩りをしたり、宴会したりとのびのびと過ごしてました。少しくらいお行儀良くできないのかと思うくらいでした。
その日は来ました。王都から表彰するための一団が来ました。まぁ、所詮は田舎の村のこと。質素な表彰式になりました。それを終えるとエルサ様は王都に行くと言って王都からの一団と共にこの村を去っていきました。エルサ様たちがいなくなった後、村人は時折その時のことを思い出して怖かったけど退屈のしない日々だったと話したりしますよ。
「とまぁ私がエルサ様に初めて会ったときのことです。」
母の若き日を聞いたアルフィーは泣きそうになった。
「イメージと違います。」
「まぁ、無理もない。エルサ様は嫁いでから変わったみたいだからな。」
「そうですよね。執事のガリクソンの話と違いますもん。やっぱり王家に嫁ぐから変わったのでしょうか?」
「だろうな。」
「王家に入ってからのお母さんとは会ったことないですか?」
「ありますよ。」
グンゾウは少し悲しげな顔をした。その顔を見てアルフィーは察した。たぶん母が幽閉されることのなった時の頃のことだと。アルフィーは話を聞くべきかと逡巡した。夜はまだまだ長い。
「話を聞くかい?」
優しい声音で言ってくれた。アルフィーは悩ましくしていたが、母のことをもっと知りたいと思い、聞くことにした。
エルサ様が去ってから数年後、私は家内を失い、村から離れて一人今いる家を建てて住み始めていました。朝から晩まで森と共に生きるのは良いものです。たまに村に行って必要な物を揃えに行く以外森で過ごしてます。
のんびりと日々を過ごすある日のことでした。村の方の人間がやって来ました。彼は少し興奮気味な様子を呈してました。村で何かあったのかと思い私は尋ねました。
「村で何かあったのか?」
「それが王都から王室の人間が村の近くにある最果ての塔に入るそうだぞ。」
「それは大変だ。」
その時はまだエルサ様とは分かりませんでした。そもそもこの時はまだエルサ様が王室に入ったということは知りませんでした。
「グンゾウ、見に行こうぜ。」
「興味あるな。」
田舎の村のマルスク村はイベントなどは収穫祭とか年末年始くらいしかなかったので面白い見世物を見れるというくらいに考えていました。王都の政争とは縁遠い田舎の村ですから王制の混乱しているのかとかそちらに興味を向ける人はほぼいませんでした。
「いつ来るんだ?」
「明日の朝には到着するらしい。」
「俺も見に行こうかな。」
「その方がいい。王族なんてこの村に住んでいたら生で見ることなんてないぞ。
「そうだな貴重な機会だ。私も見に行こう。」
その後も私はこの男としばし王室に関する雑談しました。まぁ、事情などまったくわからない二人なのでつまらない与太話になりましたが。明日、王室の人間が村に来ることを告げに来た男が帰ると私は一種の興奮状態になりました。代わり映えのしないのんびりした日々に降ってきたイベントでしたから落ち着きませんでした。
次の日、日が天に上る前に私は家を出ました。朝と呼べる頃には村に到着しているだろうという時間です。まだ、暗い森の中を歩きました。夜行性の危険なモンスターが出てくるかもしれませんでしたが、その日は静かでした。明けの明星が輝く時、私はマルスク村に到着しました。まだ、王都からの一行は来てないようでした。手持無沙汰な私は西側の村の出入り口にある岩に座って待つことにしました。この岩は村が出来たときには既にそこにあったそうです。マルスク村の過去を見つめ、これから先の村の未来を見つめ続けるのでしょうと感慨深げに思いました。虫の音が聞こえました。でも、もうあの暑苦しい蝉の鳴き声は聞こえませんでした。聞こえるのは秋の虫の歌でした。夏から秋に季節は移ろいでいるんだなと感じました。それが嬉しくも寂しくもありました。暑いのは辛いですが、何か心を高揚させてくれる気分にしてくれます。それが無くなると何かが終わったと思えるのでした。
もののあはれな気分に浸っていると村人がポツポツと集まって来ました。朝の時間になっていたからでしょう。暇なのか王室の者を人目見ようと集まって来たのだ。時間が朝から昼前の時間になるとどんどん見物人が増えて軽食販売の商売を始めるものもいました。皆が今か今かと待っていましたが、中々来ません。来るのが中止になったのかと皆が噂し始めた頃、露払いでしょうか、馬に乗った騎士が一人馬を飛ばして来ました。
「お前ら邪魔だ邪魔だ。道を開けろ。」
村人は慌て道を開けました。高圧的な騎士の態度に私はムッとしましたが、我慢して他の人と同じように最果ての塔への道を開けました。お上と争って良いことなどないですから。そこからさらに一時間ほど経つと騎馬隊を先頭にした一団が村に入って来ました。村人たちは遂に来たかと首を長くして王族の顔を拝もうとしました。そこで私はふと違和感を感じました。王族の人間がいる一団にしてはなんとも簡素なのですよ。騎士たちの装飾は控え目でちょっと遠出します程度の恰好でした。何か訳ありなのだろうと思いました。騎士たちの列が過ぎると馬車が来ました。村人たちも私も目を凝らして馬車の中の王族を見ました。僅かでしたが、顔を見れました。私は驚きました。化粧をしているとはいえ紛れもなく馬車に乗っているのはエルサ様だったのです。馬車には他に誰も乗ってなかったのでエルサ様が王族として最果ての塔に入るということで理解しました。村人たちもエルサ様ではないかと噂しあっていました。そこに騎士が一人やって来ました。
「マルスク村の諸君。これは見世物ではない。諸君は各々の仕事に向かいなさい。それと今日のことは話題にしないことだ。」
「なんでだ?」
村人たちは戸惑いました。何せ王族が村を通ったといったことも話してはならないとは何か重大な理由があるのだろうかと思ったからです。村人たちの疑問に騎士は傲慢に言いました。
「今のは私からの忠告だ。さ、解散だ。」
お上である騎士に言われて村人たちは散り散りになりました。お上に逆らって良いことはないですから。
私は家に戻って作業でもしようかと考えていました。そこに村長が来ました。
「おい、グンゾウ。」
「あっ、村長こんにちは。」
「ああ、こんにちは。」
久しぶりに会う村長に私は挨拶の定型句を言いました。
「どうしました?」
「いやなにたまには話したいと思ってな。」
私はたぶんエルサ様のことだと思いました。私も誰かと今日のことを話したいと思っていましたから了承しようと思いました。
「大丈夫ですよ。今日は然程の仕事はないですから。」
「そうか。」
村長は神妙な面持ちをしていました。村長も何があったのか気になるのでしょう。エルサ様のこと結構気にいっていたようでしたから。
私と村長は一緒に村長宅に行きました。歩いていると村人たちは噂をしていました。お上から黙っているように言われていましたが、村人たちは早速今日の話で持ち切りでした。人の口にはチャックできないということでしょうか。もしかするとこのマルスク村の住人の性格も関係しているかもしれません。うちの村はこの王国の中であまり重要な位置になく、戦略的にも経済的にも王国の外れにあり、重視されることはありませんでした。そのせいか戦争があってもこの辺りは平和でした。だから、この村の住人は危機意識が薄いのです。そのため他地域のようにお上を崇めても畏れることはないのです。お上と争っても良いことはないことは理解しているので表だって反抗的なことはしませんが、噂話は裏のこと、村人は黙りません。静かなこの村ですが、ある意味王国で最もお上の言うことを聞かない地域とも言えるかもしれません。そんなこの村を私は好きで誇りに思いますよ。




