そして僕らは… その28
「お茶を持って来たぞ。」
アルフィーらが雑談しているとグンゾウがお茶を持って来た。癖のある香りのする茶色のお茶であった。少し飲むのに勇気がいりそうである。しかし、飲んでみるとちょっと渋味のある味だが、美味しかった。アルフィーはおかわりしていた。
その日は夕食を食べ、アークとドニーは早々に寝てしまった。まだ、眠くのないアルフィーはグンゾウと話していた。意外と気が合うようであった。ところが意を決したように突然グンゾウは切り出した。
「なぁ、アルフィーちゃん。」
「君はこの国の姫様だろ?」
「いえ違います。」
アルフィーは慌てて否定した。それを言ってからこの言い方では誤魔化しているように思われるかなと思った。とにかく何とか切り抜けなくてはと考えた。それに対してグンゾウは優しく宥めるように言った。
「いや違うんだ。別に王都に連れ戻そうかとか思ってない。」
「では何ですか。」
「うん。あれだろう。姫様はお母さんのことで来たんだろ?大方最期を過ごした場所を見に来たんだろ?」
ここまで見抜かれては誤魔化しようがなくそれに騙そうとしているようにも思われなかった。それに母のことを何か知っているようだし、話を聞きたいとも思った。
「そうです。」
「やっぱりそうか。お母さんに顔がよく似ている。」
「そうなんですか?」
「ああ、その金色の髪と碧眼は姫様のお母さん、エルサ様によく似ている。」
それを聞くとアルフィー大喜びした。記憶が曖昧な時期までしか一緒におらず、王都に行ってからも周りは禁句のように何も教えてくれなかった。ところがここまで来て遂に母の影を見つけたのだ。それはアルフィーにとってはとても嬉しいことなのであった。
アルフィーは身を乗り出して問うた。
「お母さんのこと何か知っているのですか?」
「会ったことがあるくらいだが。」
息を巻くアルフィーにグンゾウは少し気圧された。それに気づいたアルフィーは落ち着くように自分に言い聞かせた。
「私、お母さんのことほとんど覚えていないのです。グンゾウさんに会ったときのお母さんの話を教えてください。」
勢い余ってアルフィーはグンゾウに頭を下げていた。それにグンゾウは苦笑いをしていた。椅子の背にもたれ掛かりグンゾウはにっこりしていた。
「では、話しましょう。エルサ様に会ったのは何年前だったかなあ。」
グンゾウはゆっくりと語りだした。夜はまだ長く外では夜行性だろうか鳥の鳴き声が響いていた。
私の住む村の周辺である時期からゴブリンが出没するようになった。村人は恐れ毎日夜遅くまで集会を開き相談した。その頃の村には戦えるものはいなかった。戦争が起きてもスルーされるほどの戦略的価値がなく、山賊に襲われるほど富のある村でなくて戦う必然性がなかった。そのため戦えるものはいなかったのだ。私もその頃はまだ戦いのいろはは知らなかった。それだけ平和な村だった。だが、そこに降って湧いたのがゴブリンの出没だ。ゴブリン自体は大して恐ろしいわけではないが、その頃の村人にはモンスターに対抗する術はなかったのだ。
そうした中で出た結論が王都に行って軍隊を派遣してもらうことだった。早速、使いを派遣した。村人たちはこれで一安心だと息をついた。しかし、王都から軍隊が来るのを村人たちは首を長くして待ったが、一向に来なかった。いよいよ村人たちは恐れた。もしかしたら途中でゴブリンに襲われたのではないかと噂が立ちある村人はゴブリンが集結しているのを目撃した言った。
そんな時にエルサ様は子分を引き連れてやって来たのです。アルフィーちゃんのように長い金色の糸のような繊細な髪と美しく目が合うと引き込まれるような碧眼。いやあ初めて見たときは息を飲んだものですよ。鎧を着ていましたが、何だかあまり似合ってなくてちょっと可笑しくもありました。村人が恐る恐る出てくるとエルサ様は大声で言いました。
「ここがマルスク村か。ゴブリンの集団に狙われているらしいな。おいそこのおっさん。」
「何でしょうか。」
私や他の村人に緊張が走りました。遂にこの村にまで山賊が襲撃しに来たのではないかと思ったのです。ところが彼女らの来訪は絶望の中の一筋の光でした。
「お前たちを助けに来てやったぞ。どうだ私たちを雇わないか?」
そこに村長が前に出ました。
「どこでその話を聞いたのですか?」
「うむ。タールスの町でお前らの村人から聞いた。」
「そうでしたか。」
「それでまぁ金儲けになりそうだと判断してな。軍隊よりも速やかに解決してやろうじゃないか。」
村人たちはざわつきました。一日でも早く不安の種の除きたい私たちは期待を持ったのです。取り合えず村としての態度を決めるまで待ってもらうことにしました。その間、エルサ様たちには分けてそれぞれの村人の家に泊まってもらうことにしました。エルサ様は私の家に泊まってもらうことになりました。その当時の私は家内と二人で暮らしていました。子供もいましたが、都会に出稼ぎに行ってました。エルサ様は家に入ると開口一番。
「何か小さい頃を思い出すなあ。」
と言ってました。エルサ様は自分の過去については話しませんでした。その時くらいです。一言過去について話したのは。
「お前名前はなんて言うんだ?」
「グンゾウと申します。こちらは家内のシャルです。」
その時の私はびくびくしてましたよ。ならず者と言って差し支えのない人ですからね。おっと申し訳ありません。アルフィーちゃんにとっては大事な母親にそう言うのはよくないですね。
さて、私が名乗るとエルサ様も名乗りました。
「しかし、この村は寂しげな村だな。」
「まぁ、これといって産業がないですからね。村にいるのは子供と老人ばかりです。」
「こういった外れにある村はそういうところが多いからな。この村も街道から離れた所にあるからな。何か特産がなければこんなものだろう。」
「村でもいくつか試したのですが、中々上手く行きませんで。」
機嫌を損ねてトラブルになったら大変だと考えた私はへりくだって話しました。ところがそれが逆効果だったようでして不満げな顔をエルサ様は急になされました。最初理解できなかった私は何かそそうをしたかと思い慌てました。でも、すぐに察しました。
「いやあ、すみません。もう少し気楽に話しますよ。」
「私はあなたにへりくだられるような人ではない。ただのならず者さ。私のことはエルサと呼んでくれ。」
「はい、わかりましたエルサ。」
「うむ。グンゾウ。」
その日の夜は深夜まで話し込みました。
数日後、我々マルスク村はエルサたちにゴブリン退治を任せることになりました。
エルサたちは総勢8人でした。エルサ様は女性らしい小柄な体つきで一見ならず者には見てませんでしたが、他の男どもは屈強で髪型もアウトローな感じの人たちでした。その男たちはエルサ様に忠誠を誓っているようで配下の者のように振る舞っていました。早速、3人の男たちがエルサ様に命じられ探索に出掛けました。残ったエルサ様らはすることがないからと言って酒盛りを始めました。エルサ様は私を呼びつけてまぁ、所謂絡み酒になっていました。家に泊めている時もそういう調子だったので私は慣れていました。私の家でのことなど知らない他の村人はその様子を見て一部の村人は本当に大丈夫かと不安がりましたが、私はその時にはエルサ様たちには全幅の信頼を寄せてもいいと考えていました。それを不審がる村人に話すと少し納得出来なそうな顔をしつつ理解を示していました。
さて、周辺を探索しに行った男たちは夕方に戻ってきました。その報告によれば村から北東に向かって進み森に入って少し行ったところに、ゴブリンの集落が出来ていたそうです。ただ、まだそれほど大きな集団になっていなかったので叩くなら今だと言ってました。村長は早速退治してほしいとエルサ様らに頼みました。エルサ様は分かったと言いましたが、酔っ払ったので行くのは明日にすると言いました。そのもの言いは傲慢さを感じさせる正直言って良い態度ではないです。それに腹を立てる人もいました。文句を言おうとする人もいましたが、私などが宥めてその場を収めました。
次の日の朝、エルサ様らは準備を整えると私に声をかけてきました。これから退治するところを見て証人になってほしいとのことでした。私がそんな必要はないのではと言いますと、エルサ様の配下の一人が私に言いました。
「このような頼みをするのは後々したしないで揉めるのを避けるためだ。以前、それで殴り合いになったことがある。まぁ、その時は我々の方が勝ち、慰謝料を上乗せしましたけどね。」
その言葉に幾らかの親愛という気持ちを持ち始めていた私は戦慄したこと覚えています。やっぱりこの人たちはならず者であるのだと痛感したのです。今は利害が一致しているからこうして平和的なやり取りをしているが、もしも彼女らが約束を反故にしても構わないと思われたらどんな暴力を振るわれるか恐怖しました。少し考えるとこうも思えました。これまでの振舞いやこの男が言うことを勘案して推察すると彼女らはこちらが何か欺こうとしなければ約束は必ず履行するのではないかと思う。さらに言えばむしろこの申し出は後々トラブルになるのを避けるためであろうと考えられたのです。私は同行しようと決め、とにかく村長に許可を得に行きました。エルサ様たちにはしばし待っていただくことにしました。エルサ様はおうよと美しくもある幼さも感じさせる笑顔でいました。
村長の家に行くと義理の娘さんが家に迎え入れてくれました。娘さんの話によると今日はちょっと具合が悪いそうで自室で休んでいました。村長の家には久しぶりに入りました。しかし、代々の村長を継ぐこの家はやはり立派だなと感じさせます。アルフィーちゃんも最果ての塔に行く時にマルスク村に寄るでしょうから見て行くといいですよ。この地域独特のデザインと都会的なデザインが融合した癖のある家で面白いですよ。話を戻しましょう私は娘さんに案内されて村長の部屋へと入りました。




