そして僕らは… その27
「ファイヤーボール!」
飛びかかってきたモンスターに魔法を食らわせる。ドニーもモンスターに斬りかかった。アークは戦えないので木の陰に隠れた。最初の数頭は倒したが、残りのおおよそ五頭がアルフィーたちを囲んだ。アルフィーたちは木を背に円を描くように構えた。逃げ道はない。前に出て死ぬ気で戦うしかない。
「このモンスターたちはなに?」
アルフィーはいつでも魔法を撃てる構えでいた。
「こいつらはウッドウルフだ。森林地帯に広く分布するモンスターだ。集団での狩りが非常に上手い。森に迷った人はウッドウルフの餌になると言われていると子供たちが森に遊びに行かないように言い聞かせる為の戒めとして使われる。」
アークが流石は大学生といった知識を披露した。アルフィーとしては今、ピンチではなければもっと詳しく聞きたいところであった。今は如何にこの場を切り抜けるのかを考えなくてはいけない。
「何か弱点ないの?」
有益な情報がないかアルフィーはアークに聞いてみた。
「近づくことは勿論遠目から観察するのも危険だから世界中に生息している割りに研究者が少なくてよくわかってない。あっても伝承レベルだ。」
「非常にまずいね。魔法を使えると言っても手習いレベルだし、とても戦闘で活躍できるほどじゃない。ドニー、あんた軍人でしょ。何とかしてよ。」
ドニーは困った顔をした。ドニーは基本的にドラゴンに乗って戦う竜騎士だ。ドラゴンから降りて戦うのは不得意というより経験不足である。一、二頭ならなんとかなったが、残り五頭連携されたら殺られる。
ウッドウルフたちはじりじりと包囲網を縮める。アルフィーたちは追い込まれる。何か良い手はないかとドニーは思案した。しかし、思い付かない。ウッドウルフたちが飛びかかろうとしたときだった。五頭のうちの二頭の脳天を矢が射貫いた。ドニーは矢が飛んできた方を見た。アルフィーとアークは何が何やら理解できてなかった。その間にさらに二頭の脳天が射貫かれていた。そして、残りの一頭をドニーは切り伏せた。アルフィーたちは何とか危機を脱し地面にへたりこんだ。そこに一人の小柄な男が現れた。髭を蓄え軍隊の帽子っぽいのを被り少々横に太い。絵本から飛び出してきたかのような森の人という感じであった。
「おめえら大丈夫か?」
渋味のある森の理に精通していそうな声だった。
「ありがとうございます。」
ドニーが鞘に剣を納めながら男に近づき礼を言った。男は笑顔で応えた。
「俺にではなく俺たちを巡り合わせてくれたこの森に感謝だな。」
その言い方でアルフィーはこの森辺りで暮らす人であろうことがわかる。もしかして村が近いかもしれないとも思った。ただ、男は村人というよりは山篭もりしていそうな雰囲気を感じさせる。一人でこの森でひっそりと暮らしているのかもしれない。
「あなたはこの森の住人ですか?」
アークが木の影から出てきて男に聞いた。言い方が堂々としていた。ドニーはさっきまでびびっていたくせにと苦笑していた。男は満面の笑みで答えた。
「そうだな村から離れて暮らしてるな。君たちは何故こんなところに?人が歩くところじゃないぞ。」
「私たちこれから最果ての塔に行くんです。」
アルフィーがそう言うとこの男は目を見開きそして優しい顔をした。愛くるしいものを見る目だった。親愛がある。
「そうか。ふむ、なら今日は私の家に泊まりなさい。これからうんとドラゴンか、ドラゴンで飛んでいっても森のまっただ中で夜になるぞ。夜の森を彷徨くのは危険だ。」
とにかく丁寧に優しく男はアルフィーたちに言った。
「どうする?」
アルフィーはドニーとアークに聞いた。ドニーはしばし思案して自分の考えを話した。
「あの男のもとで一晩泊まらせてもらうのがいいと思う。アークはどう思う?」
「確かに野宿よりは安全だろう。ウッドウルフのことを考えると俺たちたけで夜の森にいるのは危険だ。朝一で出れば最果ての塔まで行けるんじゃないか。」
「じゃあ、泊まらせてもらうということで良いかしら。」
「異議なし。」
「異議なし。」
こうして、三人は男の家で一泊することとなった。
男の名前はグンゾウと言った。森で林業していると歩きながら聞いた。元々は最果ての塔があるマルスク村に住んでいたが、一人でのんびり暮らしたいと思い村を出てハルビスクの森で暮らし始めた。グンゾウの独り暮らしの話を聞いている時のアルフィーは羨ましそうであった。無理もない。王室で暮らしていたら自由のある生活には憧憬の眼差しをしてしまうものだろう。一日に何をするのか事細かに決まっているアルフィーに対してアークは同情のような感情を覚えていた。
「グンゾウさん。」
「何だえーと。」
「アルフィーです。」
「うんそうだアルフィーちゃんだ。」
どこか寂しげで温かい表情でグンゾウはアルフィーの名前を思い出していた。
「グンゾウさんの家からマルスク村までは近いですか?」
「ああ大丈夫だ。ドラゴンならすぐだぞ。」
「それは良かったです。」
アルフィーはホッとした。それならゆっくり母の住んでいた場所を見れるし、感じれる。オオハヤブサに襲われた時は辿り着けるだろうかと思ったものである。でも、それがあって初めてグンゾウという最果ての塔があるマルスク村に住んでいた人に巡り会えたのだから。グンゾウの言う通り森に感謝だなと思った。
しかしふとアークは思った。グンゾウは何故か最果ての塔に何の用があると聞いてこないのだ。最果ての塔なんて王都から旅してくるなんてまずあり得ない話だろう。騙されているのだろうかと疑わずにはいられないのであった。しかし、アルフィーは何もかも気にしてないというか疑問を浮かべてない然とした様子である。そういうところはがき大将ではなくお姫様なのだろうと思った。
「明日が楽しみです。」
アルフィーは興奮を口から思う存分吐き出していた。一応、お姫様であることは伏せているが、ドニーとアークはヒヤヒヤだった。
グンゾウとアルフィーの後ろをアークとドニーは歩きながらこそこそ話した。
「なあ、アーク。親切だから付いてきちゃったけど大丈夫かな。騙されてないか?」
「人身売買でもされるかって?」
「うん。アークも思うだろ?」
そう言われたアークは難しい顔をした。アークも何かを怪しんでいるようであった。アルフィーは信用しているようだが、アークとドニーは少々疑っている。
「まぁ、人身売買かはわからんが、王都からドラゴンに乗って最果ての塔に旅してくるなんて普通は不審がるよな。そこには何の疑問も持ってないかのようではあるな。何か狙いがあるのかな。」
ドニーは頷いた。裏を感じさせるのだ。この森で独り暮らしというのはグンゾウの格好を見るに本当のようである。出来すぎていて怪しいのである。
「それとアルフィーがへましないか心配だ。」
「確かに。むしろそっちの方が心配だ。ばれて王都に連絡でもされた日にゃあ大変だ。」
「そうだよなそうしたら俺たち王都から追い出されるよ。」
「それぐらいなら良いが。」
「俺たちで気を付けねえと。」
「ああそうだな。」
アークとドニーはこそこそとばれないようにしようと決意したのであった。
鬱蒼とした森の中を歩いていると鳥の声が奏でられていた。そこに趣を感じさせる。威嚇しているのか求愛しているのか、ただ鳴いているだけなのか分からないが、情緒的な感じを受ける。王都では夏になると蝉の大合唱が響き渡るが、この森はしない。蝉が鳴くと夏が本番だとアルフィーなんかは宮廷の中で季節を思うのである。この森には生息していないのだろうとアルフィーには思われた。
「なんかグンゾウさんがこの森に独りでも暮らしているのかわかる気がします。」
アルフィーがふとそんなことを言った。グンゾウはにっこりして聞いた。
「何故だねアルフィーちゃん。」
明るい元気良い笑顔でアルフィーは答えた。
「この森の雰囲気ってのんびりした時間が流れていて落ち着きます。」
「ああそうだ。それにここの生き物は他では見ない固有種も多くてね歩いているだけで楽しい。」
「確かに見たことのない花とかあって面白いです。」
それを後ろで聞いていたアークはそんな淑やかな趣味をお持ちなのかいと思っていた。花を愛でるなど小さい頃には考えられなかった。人は変わるものかなとしみじみとアークは感じた。ちょっとした変化だが、成長というものなのかもしれない。
「おうここだ。」
開けた場所に出たと思ったらそこに家が建っていた。中々立派で独り暮らしには少し大きいような気もする。
「自分で建てたんですか?」
ドニーが聞くとグンゾウは笑顔で答えた。
「ああそうだ。大変だったよ。でも、楽しかったなあ。自分の城を建築しているような気分で。こんな風にここはこうしようあそこはそうしようと工夫するのが楽しかった。」
「なんか、秘密基地作るような感じですね。」
「そうだよアルフィーちゃん。わくわくするものだ。」
それを聞いてアークとドニーは子供の頃に森に秘密基地を作ろうとアルフィーが言い出し、完成するまで毎日朝から晩まで働かされたことを思い出していた。もう二度と秘密基地は作らないと誓った頃のことであった。その事をアルフィーは良い思い出のように言うが、アークらからしてみればアルフィーは監督していただけで実働は自分たちだと不満を抱いたりしていた。
「まぁ、入りなさい。」
グンゾウに案内されてアルフィーらはグンゾウの家に入った。家の内装自体は町で見るよくある感じである。だが、ここが森の中であることを考えると不思議な気分になる。森で独り暮らしの家にしては豪勢のような印象を受けるのだ。
リビングに案内されたアルフィーらは椅子を勧められ座った。調度四人分あった。
「飲み物取ってくるから寛いでいてくれ。」
「ありがとうございます。」
ドニーが礼を言うとアルフィーとアークも続いた。グンゾウが台所に消えて行くとアルフィーはどっと疲れたのか気が抜けたのか溜め息をした。そして、雑談を始めた。




