そして僕らは… その25
中心の二人の男はロックの町の店名を言い終わったようで棒を宙に持ち上げまたよくわからない独特の舞を踊る。それが終ると皆膝まずき祈り始めた。
「これで儀式は終わりです。後は宴会です。」
ルフルドはそれを聞いてノート閉じ目を閉じた。感慨深げであった。
アルフィーがちらりとルーシーの方を見るとルーシーは退屈そうであった。ふと、思ったことをアルフィーは聞いた。
「ルーシーちゃんは大きくなったらこの町を出たい?」
突然そんなことを聞かれたルーシーは驚いて目を見張った。いきなりなにを話始めたのかと思ったのだろう。風に髪がなびく。それがどことなく大人っぽさを醸し出していた。きっと、仲間内でも冷めた大人キャラなのだろうなとアルフィーは思った。ルーシーは少し思案するような顔をすると息を吐き話した。
「出て行きたいです。王都に行きたいです。」
「なんで?」
「この町って経済が発展していて一見町を見渡すと都会的ですけどその実は村社会の延長なんですよ。何かあるとあっという間に町中にうわさが広まるんですよ。不快でしょう。」
「まぁ、面倒よね。」
「アルフィーさんはずっと王都ですか?」
「いや、小さい頃は地方の都市に住んでた。まぁ、その町も田舎に毛が生えた程度だからここよりも田舎よ。ルーシーちゃんが嫌がっているようなこともあるし、その点を考えれば王都に移り住んで良かったと思うけど。」
「いいなあ、私も王都に住みたい。」
そこで初めてアルフィーはルーシーの幼さを感じた。なんと言うか純粋に大きくて色々な刺激のある場所大都会に憧れる一人の少女をアルフィーは見た。
「憧れるのもいいけど王都暮らしは大変よ。」
「頑張って働くよ。」
「一芸に秀でてないとまともな働き口もないよ。」
「そこは何とかします。」
元気は良いが考えが足りない。思春期の少女だなぁとアルフィーはルーシーぐらいの頃の自分を思い出しながら苦笑した。アルフィーの場合は城から脱出してどこか田舎町で自由に生きるんだと寝る前に何度も考えていた。結局、城下で遊び回る程度にしか脱走していなかったが。
「飲み会が始まったな。もう儀式は完了したみたいだ。アルフィー、ルーシーちゃんもう引き揚げるか。」
「ルフルドさんがもういいなら。」
「私も賛成。お腹空いてきちゃった。ルーシーちゃんどっかで飯食べよ。」
「祭りの日は居酒屋も早くに閉めるんですよ。まぁ、私もお腹空いてきちゃったので家で何か食べます?」
ルーシーの提案にアルフィーはガッツポーズをしていた。ルフルドはやれやれといった様子だ。
「親御さんとかいないのかい。」
「ルフルドさん、そこは大丈夫です。両親は今、祭りの関係者と夜通し宴会ですから。」
「ならいいが、近所の人に見られたら。」
「それも大丈夫です。」
さも当たり前のようにルーシーは言った。
「この時間は皆騒ぎ疲れて寝ているか宴会に行ってますよ。なので、大騒ぎしなければ大丈夫です。」
「ルフルドさん。心配なのもわかりますが、お腹空いてきちゃったので早く行きましょう。」
「アルフィーは陽気だな。」
「これが性分でして。」
「ルフルドさん、アルフィーさん行きましょう。」
三人はもと来た道を歩き始めた。町までの道に街灯はもちろんなく真っ暗であった。とはいえ道は真っ直ぐに曲がらずに歩けば良いので道に迷う心配はなかった。途中、モンスターの鳴き声が聴こえたが、胆が据わった人達なのか怯えることもなく、談笑しながら山を降りた。アルフィーにいたっては鼻歌を鳴らしご機嫌であった。
町中に入ると西側のエリアへとアルフィーたちは向かった。そこにルーシーの家があるのだ。ロックはエリアで大まかな職種の区分けをしている。北は飲食店街、南は商店、東は宿屋、西は職人、中央は大聖堂をはじめとした宗教施設と土産屋である。ルーシーの家は西にあるので職人の家柄であった。
静まり返った町を三人は歩いていった。
「この町って色々な料理が食べれるのね。」
「方々から人が集まるのでどんどん様々な地域の料理屋が出来たんですよ。そこは都会的なんですけどね。」
「ああ、外から移住してきた人はさっきの儀式に参加できないとか排他的なところがあるのか。」
「その通りですよルフルドさん。先祖代々居住している人たちはどこか移住者を下に見てるところがあるんです。おかしくないですか?私たちだって伝承が本当ならよそ者なのに。」
「ふふふ、ルーシーちゃんは真面目ね。」
「まったくだな。アルフィーの言う通りルーシーちゃんは真面目だ。純粋だ。」
「馬鹿にしてません。」
ルーシーは眉をひそめた。それを見て更にアルフィーは忍び笑いしながら言った。
「いや、可愛いなってね。王都にはルーシーちゃんみたいな子いないわ。」
「それを馬鹿にしていると言うんじゃないですか。」
口を尖らせながらルーシーは言った。
ルフルドはそのやり取り見て微笑ましげにしていた。誰もが寝静まり、どこかで宴会している時に自分たちはこんな小さな冒険をしていること、そして、この愉快な仲間に巡り会えたことを幸せに感じ、噛み締めていた。
ルーシーの家の前に着いた。
「家の入り口はこっちです。」
そう言ってルーシーが案内したのは家の脇の細い路地裏であった。要するに家の入り口は家の横にあるのだ。
「ルーシーの両親って何を作ってるの?」
「金物です。」
すごく嫌そうな顔をルーシーはした。親の仕事をダサいと思っているのだろう。まぁ、この年頃ならありがちだ。
三人はルーシーの家に上がり、リビングで椅子に座りしばしの休憩をした。掟破りから解放されホッと一安心といった感じであった。
「何か適当に摘まめる物を持って来ますね。」
「持って来い持って来い。」
「はいはい。」
ルーシーは台所の方へと行った。ルーシーがいなくなるとルフルドは口を開いた。
「今日はとてもいい日になった。ルーシーちゃんには感謝だな。」
「そうですね。こんな体験はもう出来ません。面白いものをルーシーちゃんには見せてもらえましたね。」
「そうだな。ところでアルフィーはいつまでこの町にいるんだ?良ければ明日。」
「ああ、すいません。私、日が上ったらこの町を出発するんです。」
「そうか。君といるともっと面白いことに出会えそうなのだがな。」
「何かトラブルメーカーと思われている気がする。」
「そうとも言えるな。」
「ひどい言い草です。」
アルフィーとルフルドが楽しげに歓談をしていた。暑いのかルフルドはさっきの儀式で盗み見た光景をメモしたノートを使って煽っていた。大事なものではないのかとアルフィーは思った。しばらくするとルーシーが食べ物を持って来た。
「待ってました!」
「アルフィーさんは遠慮というのがないですね。」
「図々しく生きるのが私の生きざまよ。」
三人は食事を始めた。
「これなに?」
アルフィーが指を指した料理を見てルーシーは解説してくれた。
「それ昼間に買ってきたキャベツでカンムリドリの肉をくるんだ物だよ。」
「カンムリドリって食べれるんだ。」
「まぁ、この辺では昔から生息数が多くて料理によく使うんですよ。煮物とか照焼きとかでも食べますよ。」
三人は談笑しながら食事した。専らルフルドの古代の祭事の話であった。勉強嫌いなアルフィーもルフルドの話が面白く楽しげに聞いていた。ルーシーは最初は話を聞いていたが、次第にうとうとし始めていた。俯くと顔をまた上げ髪を整える。それを繰り返していた。それを見ていたアルフィーとルフルドは可愛いなと顔を見合って笑みをこぼした。
「そろそろお開きにしようか。」
ルフルドが提案した。
「そうですね。ルーシーちゃん、私たちもう帰るね。」
「まだ、話しましょうよ。」
口ではまだ話したいとするが、顔はもう眠りにつきたいという様子である。まだまだ子供なんだなとアルフィーとルフルドは思った。そろそろ日が登り始める時刻なのでルフルドはルーシーをベッドに連れていき、アルフィーと共に家を出た。
日はまだ登り始めてなかったが、ちらほら電気の点いている家が出始めた。ロックの町の朝が始まろうとしているようであった。
「ルフルドさんの宿屋はどこですか?」
「東の宿屋街だ。アルフィーは?」
「私は町の外にある村です。」
「そうか。南の村か?」
「違うよ。東の方です。」
「なら、途中まで一緒に行こう。もう少し話したいし。」
「いいですよ。」
二人は連れ立って歩いた。他愛もない話をした。まるで長くの友人であったかのように。
「ルフルドさんと話すの楽しいです。」
「私たち気が合うのかな。」
「アルフィーは話上手だからな。何か年上と話すのに慣れてないか?」
「そういう環境で育ってますから。」
お姫様ということは内緒なので取り合えず愛想笑いをしておいた。
「そういえばルフルドさんの大学ってどこなの?」
「王都の王立大学だよ。」
やばいと今更ながらアルフィーは思った。王立大学には式典とかで何度か行ったことがある。確か教職員勢揃いの時もあった。ここまでばれなかったからたぶん大丈夫だけどあまり下手なことを言って墓穴を掘らないようにしなくてはいけないと思った。話を逸らすことにした。
「ああそうだ、ルーシーちゃんよく協力してくらましたね。」
ルフルドは少し笑った。そして、遠くを見るような目をし、閉じた。
「何とか見せて貰えないか直接頼みに行ったのだが長老たちは許してくれなかったんだ。仕方なく諦めて宿屋に戻るときにルーシーちゃんが協力してあげるって申し出てくれたんだ。何か断られているところ見て可哀想だと思ったらしい。」
「ルーシーちゃんはいい子ね。」
「ああだからこの町から出たいんだろうな。」
「村社会の閉鎖性ってはまり込まなければ不快なだけですからね。」
「そうだな。個人というのは押し潰されがちだからな。ん、私の宿屋はここだ。」
「では、さよなら。」
「君もな。さよなら。」
アルフィーはルフルドと別れて門へと向かった。それを見送りながらルフルドは呟いた。
「姫様、お気を付けて。」




