そして僕らは… その24
「誰かいるの?」
「ルーシーちゃん下がって。」
ルフルドは完全に警戒している。ルーシーという子供はまだ状況把握ができてないようであった。どうしようかとアルフィーは考えここは出ていくしかないと判断した。
看板の裏からアルフィーは出てきた。出てきたのが女だったからかルフルドは少し警戒を緩めた。
「ルーシーちゃん、この人この町の人?」
「いえ、見たことないです。」
「君は誰だい?」
「私はアルフィーと言います。旅をしている者です。」
「旅?」
「はい。この町にはお祭りの見物に来ました。」
ルフルドは淀みなくしゃべるアルフィーが本当に旅をしていると信じることにした。
「わかった。でも、何故この時間にこんなところにいる。祭りはとっくに終ってる。」
「いや、実は非公開でやる儀式というのがあると聞きまして是非見たいと思いまして、うろうろしていたらあなたたちを見つけ儀式を見に行くようなので付いていけば見れるかなと思って尾行しました。すみません。」
ルフルドとルーシーは顔を見合わせた。
「私も付いていって良いですか?」
申し訳なさそうに上目遣いで二人を見た。王室に入ってから執事や侍女を懐柔するために会得した技である。ルフルドは眉間に指を当て悩ましげに少しイライラしているように見えた。ルーシーは溜め息した。
「どうします?連れていきます?」
「うーん。アルフィーさん、ここで断ったら?」
「こっそり付いていきます。」
「ふう、まぁ、私もこっそり見に行くから無下には出来ない。付いてきていいよ。」
「やったー!」
アルフィーは喜びのあまり跳び跳ねて喜んだ。
「しー、静かに!」
ルフルドに怒られた。
「すいません。つい。」
口を手で押さえたアルフィーは少し笑っていた。儀式を見れるのが楽しみなのである。
「そうだ、自己紹介しますね。私はアルフィーです。訳あって各地を旅して回っています。宿屋に仲間がいるのですが、今日は内緒で出てきました。」
「私はルフルド。大学の非常勤講師だ。専門は古代の祭りだ。この町の祭りは王国ができる前から行われていたらしく調査に来た。」
「私はルーシー。まぁ、この町の住人です。今日は案内役をします。」
ルーシーが淡々とした自己紹介するとアルフィーがほっぺたをつついた。
「何をするんですか!」
飛び退いた。それを見てアルフィーはゲラゲラ笑った。
「まだ、子供なのに可愛げないなと思ってね。」
「怒りますよ。」
「ははは!可愛い!」
「このやろう。」
「二人とももう行くぞ。」
ルフルドに促されて三人は北門の隅に開いた穴から城を抜け出した。ここからなら門番には見つからない。最も今日の門番はルーシー曰くサボってるから大丈夫なのだそうだ。難なく外側に出た三人は儀式をやっている場所へと徒歩で向かった。道中、アルフィーがどうやって中に入ったのかの話しとなった。
「いや、門番が交代のために一旦奥に入った隙に忍び込んだ。」
「この町の防犯意識は薄弱だな。」
「緩いんですよ。犯罪が少なくてその辺の警戒意識が低いんです。商業でここまで大きくなりましたが、感覚は田舎のままなんですよ。田舎臭くて嫌です。」
汚物を嫌がるようにルーシーは言った。年頃の娘には不快な町なのだろう。特に内情は。
三人は儀式が行われている山に到着した。山道に人がいる気配がなかった。たぶん皆儀式しているところにいるのだろうとアルフィーは思った。
夜の闇はどこに行っても自分たちを包む。このまま包まれていたいそんな気持ちにもなった。
山を登りはじめてしばらくすると音が聞こえてきた。こんな夜中に山で音を出すとすればそれは儀式だろうとアルフィーにもわかった。先頭を歩くアルフィーは後ろを振り向いた。アルフィーはわくわくしてきていた。だが、後ろを歩くルフルドとルーシーは少し顔を強ばらせていた。掟破りをするからだろう。少しでも緊張を紛らわしてやろうと考えたアルフィーはこの先のことを聞いた。気も使えるようになったのだ。
「ルーシー、ここからどうするの?まさか堂々と正面から見に行く訳ではないでしょ?」
「儀式はこの山の窪んだ場所で行われます。なので迂回して森に隠れて遠巻きに見ます。」
「バレない?」
「大丈夫だと思います。儀式中はみなさん儀式に集中してますから。よっぽどへましなければですが。」
「だとさルフルド。」
「私は大丈夫だ。こういうのには慣れている。むしろお前アルフィーこそ心配だ。」
「ふふふ、忍び足には自信のdon't worryさ」
「その自信に満ちた顔を見ると余計に心配になるな。」
ルフルドは不安げであった。わかるのだろう。これまでの言動からアルフィーはトラブルメーカーだということに。会って少ししかしてない人にもそう思われるアルフィーの人柄はすごいのかもしれない。
それに対してアルフィーは唇を尖らした。抗議のつもりらしい。
「今回は大丈夫よ。」
「今回はだと。」
「今回はですか。」
ルフルドとルーシーはこりゃ問題児を拾ってしまったなあと仲間に加えたことをひどく後悔し始めていた。
儀式は窪地になっている草木の生えてない場所で行われていた。その外側は森で覆われそれがこの窪地に神秘性というもの醸し出させていた。しかし、その窪地にはこれといって御神体のようなものはなかった。ただ、土があるだけであった。そこに現地の人々は異質さを感じ神と結びつけたのだろう。
森の中に身を潜めて見物を始めた三人はその儀式に釘付けになった。特にルフルドは熱心にノートにメモをしている。きっとそれだけ見たいと思っていたのだろうとアルフィーは思った。
アルフィーらが見始めた時はもう儀式は始まっていた。幸いルーシー曰くまだ始めの方ということでルフルドは一安心という感じだった。
儀式は二人に男を他の男が取り囲んでいた。男たちは傘のような帽子を被り、派手な動物の刺繍がされている民族衣装と思われる格好をしていた。女の姿はない。そして、中心の二人は大きな声で順番に歌を歌っていた。それは詩の朗読のようであった。アルフィーの知ってる詩と違うのは恋の詩ではなく、神を讃え町に栄華を招きたいという詩であるという点であった。歌い手は相当鍛練したのだろうか宮廷音楽に慣れしたんでいるアルフィーにも心地よく感動する歌声であった。詩の文も時折、作者が代わっているのか文の雰囲気が変わることもあるが、総じてよく練られた文章である。この地域の文化レベルの高さを思わせる。王都にもこのレベルの詩を書く人はそうはいないだろう。
「この詩はどのくらい前から歌われていたんだ?」
ルフルドは興奮した口調でルーシーに聞いた。ルーシーは冷めた顔をしている。
「戦争で追われて来てこの地にたどり着いたときには既にあったと祖母から聞いてます。まぁ、それがどこまで信憑性のある話かはわかりませんが。」
「伝承ていうのは必ずしも出鱈目、胡散臭いとは限らない。ある程度の歴史性を持ち合わせている場合も多い。だから百パーセントその通りでなくてもある程度は史実かもしれない。」
「成る程、勉強になります。私、どうせ大袈裟に言っているだけだろうと思ってました。ルフルドさんは見識がありますね。」
「いやこれは見識というより、長年の研究の結果そういう風に思えるってだけだよ。」
「それはそれですごいですよ。私は大して考えもせずに決めつけてたのにルフルドさんは経験したことをしっかり受け止めているってことです。優秀である証ですよ。」
「なんか照れるよ。」
そう言ってルフルドは頭をかいた。横から話を聞いていたアルフィーは本当に照れてるなあと思っていた。 ルフルドは真面目なのであった。屈折することなく真っ直ぐに成長した幸せな人なのだろうと思われた。
そんなことを思いながらアルフィーは儀式を見た。儀式は進み輪の外から男が棒を二本持って輪の中に入った。この男は輪の男たちと服装が違い、どことなく幼さを感じるピエロのような感じもする格好であった。もしかすると子供という設定なのかもしれない。そして、中心の二人の男に渡してまた舞を踊る男たちの輪からすり抜けるように出た。棒を渡された二人の男は調子を合わせて何か言いながらテンポよく中央点を叩いた。
「ああして町の店名を順番に言いながら地面を叩くんです。」
「おもしろいね。こういう儀式は他に見たことないな。」
「経済面は他地域の真似しましたけど、文化面は絶対に譲らなかったそうですよ。」
「他にない独特の文化ということ?」
「うむ、アルフィーの言う通りだ。大学で地方の神事に詳しい先生がいたが、こういう話は聞いたことがない。ロックの町の儀式は学術的にとても重要だ。」
そう言ってルフルドは熱心にノートにメモをした。目は輝き呼吸は荒くなっていた。
「学術的にどうかはわかりませんが、その先生でも儀式を見せてもらえなかったのでしょう。部外者には絶対に見せませんから。」
「うんそうだったんだろうね。ロックの町については観光客向けの町での祭りが詳細に記録されているけど、夜の儀式についてはあるとだけしか語られないんだ。先生も含めて学者でこの儀式を見ているのは私が初めてかもしれない。」
「ルフルドさん、それはすごいですね。歴史的ですよ。」
「そうかもしれないねアルフィー。でも、これは公には出来ないから発表は出来ないけどね。」
「それは残念です。それでいいんですか?ルフルドさん。」
「構わない。ただ、こうして文化に触れることができるのが幸せなんだ。」
そうしてルフルドはにっこりと笑った。その顔はとても魅力的で可愛らしく優しかった。屈託のないその笑顔にアルフィーはほっこりした気持ちになった。
「そうやって好きなものに夢中になれるのって羨ましいです。私なんて毎日王都でのんびりしてるだけの退屈な日々ですよ。」
「人それぞれだよアルフィー。」
「お二人とも静かに次の段階に入りますよ。」
「ああそうだな。」
ルフルドはまた熱心にノートにメモをし始めた。




