そして僕らは… その22
その一団はこちらに来ると止まった。これまずいとアークは思った。他の二人も不安そうな顔をしていた。たぶん気持ちはアークと同じだろう。
「こんなところに若い男女が三人とドラゴンが一頭。何をしている?」
鋭い眼光をし、甲冑を身に纏い、白馬に乗る女性がきつめの口調で聞いてきた。疑いの眼差しといったところである。その目は完全に不審者を見る目である。それもそのはずドラゴンを連れて旅するものなどほとんどいない。町によっては入れさせてもらえなかったりするし、今は鉄道がある。連れて行くコストを考えるとドラゴンで旅するなど怪しいのである。
アークが代表して返答する。
「自分たちはこれからこの先の大都市ロックに行くんですよ。」
「祭りにでも行くのか?」
「はいそんなところです。」
「それにしてもドラゴンを連れてくるなど仰々しいな。」
半分は本当で半分は嘘をついた。正直に言うわけにもいかず。まるっきり嘘だと尻尾を出してしまう。事実を織り混ぜて誤魔化すことにしたのだ。幸い騎士たちはアルフィーが姫であることに気づいていないようだった。
ドニーはこりゃ完全に警戒されていると思った。
「何でまたドラゴンを連れていこうと?」
アークは大学の教授に話すつもりでへりくだって説明し始めた。
「このドラゴンはこちらのドニーのペットでして王都から来るさいの足として使ったんです。汽車で来るのも考えたのですが、空の旅というのも乙と思いまして。」
アークの説明に女騎士は不機嫌そうな顔をしていた。何がそんなに不機嫌になるのかとアークは思った。
「そうか。」
「では、我々は道を急ぐので。」
「ふん、行ってよい。」
その傲慢なもの言いにアルフィーは腹をたてた。騎士たちがロック方面へと去っていくのを見届けると地団駄を踏みながら悪態をついた。
「くそうこちらが下手に出れば威張りおって。」
「騎士なんてあんなものさ。」
ドニーは染々と言った。何か嫌な思い出でもあるのだろうかとアークは思った。まぁ、軍隊というのは民間社会とはまた違うせかいがあるのだろう。
「それにしても市民に対してあの口調はないじゃない。誰のお陰で食べれていると思うのよ。時代錯誤の騎馬隊め。」
少なくともアルフィーではないだろうとアークとドニーは思ったが、ここでそれを言うとアルフィーがもっと怒り出すだろうから言わないことにした。
再び出発したアルフィーらはドラゴンに乗ってロックを目指した。日が傾きだした頃に森を抜けると遠くに大都市ロックが見えてきた。高い城壁に囲まれ鉄道の線路が伸びている。空にはドラゴンが飛んでいる。これならドラゴンを連れて中に入れそうである。城門にはたくさんの人が並んでいる。今日は祭りらしいから観光客とかが長蛇の列を作っているのだろう。
「これは祭りが楽しみね。」
「あんましはめを外しすぎるなよ。」
ドニーの注意にアルフィーは口を尖らせて抗議した。こういう時の文句はジョークのことが多い。
城門に到着した三人と一頭は果てしなく渋滞している列に並んだ。
「時間かかりそうね。」
「まぁ、大きい町の大きい祭りだから観光客が多いのだろう。」
「市中のお祭りに来るなんて王都に行って以来だわ。」
さっきまで騎士たちの態度に怒っていたのにもう機嫌が直っていた。このまま機嫌がよい状態でトラブルなく過ごせればとドニーとアークは思ったが、同時に絶対に何か問題を起こすだろうなと想定していた。二人でアルフィーから目を離さないようにしなくてはとアークとドニーは言葉を交わすことなく気持ちを共有していた。
町の中には割りとあっさり入れた。検問では観光で来たと言うとこれといって怪しまれなかった。そのためアルフィーの機嫌を損なうことはなかった。問題なく入れて一同はホッとした。
町中はお祭り気分一色だった。出店がたくさん出ており、様々なお祭りグルメが売られていた。氷水に浸したジュースもあった。道は観光客でごった返していた。その賑やかさは王都にも負けないだろう。北方地域の大都市ロックはお祭りでも大都市なのであった。楽しげな祭りにアルフィーたちもいやが上にもテンションが上がっていた。成人しているとはいえまだまだ子供っぽいところがある。
建物はレンガで出来ており、縦に大きいので巨大な壁に囲まれている気分になる。そして、さほど広くない道路により、中々の圧迫感である。空は宵の口になったので壁にかけられているランタンに火が灯され町の雰囲気を良くしている。火を灯す人の様子を見るとこれもまた味わい深い。四角い透明の箱のようなランタンに火を灯すのは子供であった。何か謂れがあるのかもしれないが、アルフィーたちにそれを知ることはなかった。その様子を見る観光客は興味深げである。観光客でごった返す町を眺めながら歩くとアルフィーたちはアルフィーたちの故郷とも王都とも違う空気感であると感じていた。観光客もこの雰囲気にうっとりしているようである。
「あ、あれ美味しそう。」
アルフィーは祭りに興奮しているようで遊びたそうにしている。ほっとくとどこかへふらふら行ってしまいそうなのでアークがアルフィーの腕を掴み引っ張って行く。まずは宿屋を探さねばならない。あっちにこっちに行こうとするアルフィーを放さないようにしていくつか回ったが、満室かドラゴンがいるので断られた。祭りという書き入れ時に来てしまったことに不幸を感じつつ、三人と一頭は困り果てていた。
「もう、どうするのよ。」
「野宿かな。はぁ。」
アークは溜め息しながら言った。
「あたしは別に構わないわよ。ガウディに寄っ掛かって寝てみたかったのよね。ねぇいいでしょうドニー。」
「ガウディの寝相で潰されたいなら構わないけど。」
「う、恐いからやめとく。」
「アークどうする?」
「そうだなぁ、城壁の外側の宿屋に行ってみないか?」
「それはいいかも。なあアルフィー。ドラゴンも宿泊できるかも。」
「それはいいね。城壁の内側よりかは見つけやすいかもしれないわね。」
ということで三人と一頭は一旦城壁の外側に出て近くの村に泊まれそうな所がないか探すことにした。ガウディに乗った一行は空から良さげな宿屋を探した。日はほぼ沈み周囲は闇に覆われた。しかし、ロックは明るく賑やかさが聞こえてくる。周囲の村の家々も明かりを灯しているようであった。今日は夜通し騒ぐのだろうか。
空から見下ろしているとロックの東方に村を見つけた。住民を驚かせないように村から少し離れた丘に降りたった。ガウディはドニーに任せてアークとアルフィーの二人で宿屋がないか聞きに行った。急にドラゴンが来ると村人が怯えるかもしれなかったからである。村に入ると賑やかな音楽が聞こえてきた。レコードというやつだろうか。城壁の内側程ではないが、出店もいくつか出店していた。観光客らしき人が散見された。村人らしき人たちは民族衣装と思われる格好をしている。アークらの故郷の民族衣装よりも派手な柄と色合いだが、何故か落ち着きのある気持ちになる。不思議な良くできた服である。
それぽど混んでない道を進むと宿屋が見えてきた。木造の比較的新しそうな外観をしていた。ここ数年で開業した宿屋なのだろうか。サイズは少し大きめの家といった感じであった。中に入るとそこは普通の宿屋と変わらない内装であった。
「いらっしゃい。」
アークらの入ってくる音で気づいたのか奥から女将らしき老婆が出てきた。今日のお祭りに合わせてか民族衣装を着ていた。
「あの部屋三人分空いてますか?」
「空いとるよ。」
「それはよかった。それとドラゴン一頭置いておける場所はありますか?」
「ほう、ドラゴンとは珍しい。大丈夫だよ。広めの物置でよければ。」
「よし、じゃあ今日から明日の朝までということで。」
「それで夕食はどうすんだい。」
「はいはい!」
アルフィーが元気よく手を上げた。
「はい、どうぞ。」
「せっかくお祭りやってるんだから食べに行こう。」
「そうだなせっかくだしそうするか。」
「わーい!」
嬉しそうなアルフィーはまるで犬のようであった。
アルフィーとアークはドニーとガウディを呼びに行き、ガウディを宿屋の物置に連れていき、三人は各々部屋に荷物を運んだ。そして、宿屋の入り口に集合した。
辺りはすっかり暗くなっているが、まだまだ祭りは終わってない。むしろ、さらに村人たちのテンションが上がっているように思う。ロックの町の方を見ると非常に明るい。村人によると祭りは夜遅くまでやるらしい。祭りが終わると最後に一部の町人だけである儀式を行い締めるという。アルフィーが興味深そうにしていたが、その儀式は部外者には絶対に見せないらしくアルフィーは村人に言われると残念そうだった。それを見たドニーは一言言った。
「絶対に見に行くなよ。」
「ちっ、わかってますわ。」
「今、ちっ、と言ったろ。」
ドニーが突っ込むとアルフィーは珍しくお嬢様風の佇まいをして誤魔化していた。アークはこりゃ抜け出すなと思った。
三人はロックの中に入り夕食をどこで食べるか探しながら祭りの見物をした。人混みがすごく三人は何度もはぐれそうになった。観光客には外国人も多く国際的な祭りであることを感じさせた。ふと、アークがアルフィーの顔を見ると真顔だった。
「どうしたアルフィー。」
アークに声をかけられるとアルフィーはハッとしたようで照れ笑いをしていた。
「いやなに、あたしはこれからこういのを守っていかなくてはいけないんだなあと思って。」
「そうか。」
アークは何をいったらわからずただ一言そうかと言うしかなかった。また、つるむようになってからアルフィーのことをお姫様ではなく昔の親友と思って接していた。こうして旅をすることにならなければこういう接し方はもう出来なかっただろう。庶民と王族。日常では絶対に接点はない。こうして三人で祭りを回るのはもうこれで最後だろう。少しでも今を楽しもうと屈託を感じさせない祭りを楽しむ人々を見てアークは思うのであった。




