そして僕らは… その21
決行の日は来た。
アルフィーはフレイに魔法をかけて自分の姿に化けさせ替え玉に仕立てあげた。そして、ガリクソンには彼女のフォローをさせる。アークは夏の長期休暇なので問題なく参加する。ドニーは休みを取得し、実家からガウディを連れてきた。両親には同僚に見せるためとか適当な理由付けをした。
三人は王都から少し離れた原っぱに集合した。木々はなくどこまでも背の低い草が生い茂る草原であった。地名はカラクレ草原と言う。旅の出発なので気持ちよく行きたいが空は生憎の雨模様。だが、そのお陰で人目に気付かれにくくなった。アルフィーは雨空を眺めて何か実をつけるきっかけになる。そんな冒険になるのではないかと思った。
「最悪な天気だな。」
ドニーがぼやく。それを聞いたアークが溜め息した。
「出鼻くじくようなこと言うなよ。何かポジティブなことを言えよ。」
「でもよう。こんな雨の中飛ぶなんて訓練でも嫌だよ。」
何か嫌な思い出でもあるかのようなドニーの口振りであった。
そこにアルフィーが入ってきた。
「雨具持って来てるから大丈夫よ。雨の空を飛ぶのも乙じゃない。」
「アルフィー、お前雨の中飛んだことないだろ。」
「うんないよ。そもそもドラゴンに乗るのも初めて。」
天真爛漫な口調は相変わらずだなぁとドニーは思った。ちょっとは王族っぽい淑やかさ何かが身に付いたかなと思っていたが違った。その口調は今の町人風の格好によくあっているような気もする。やっぱり、アルフィーには女王は向いてないのではないだろうかとドニーは考えずにはいられなかった。町で自由に暮らしている方が合っているのではないかと思う。しかし、この運命である女王になるというのは覆しがたいものである。女王には向いてないから町人の方がよいというのは言ったところでよい方向に行くことはないと思われるのでドニーはそのことは言わないことにした。
ドニーがそんなことを考えているとアルフィーはアークと話始めた。
「アークはドラゴンに乗ったことあるの?」
「ないなぁ。普通に生きてたら乗ることないし。」
「ふーん。大学生なら乗る経験位していると思ってたけど。」
「いや、大学生も一般人だぞ。それに俺の専門は魔法とかの方だからな。ドラゴンのことはまったくわからん。」
「そういうものなの?」
「そういうものです。」
「二人ともそろそろ行こう。」
ドニーに声をかけられてアークとアルフィーは会話をやめた。
今回、ドラゴンに乗るのはドニー、アルフィー、アークである。一番前に乗るのはドラゴンを操るドニー。二番目は安全を考慮してアルフィー。一番後方に乗るのはアークである。
ガウディは重そうに飛び立った。雨具を着て自分の席と取っ手を握り三人は最果ての塔に向けて出発した。
ドラゴンの背中からアルフィーはきょろきょろとあっちこっち眺めていた。空から見るというのは未知の体験である。お城の最上階よりも眺めがよい。カラクレ草原の光景をアルフィーは胸に刻んだ。目指す方向には山脈が聳え立っている。あの山を越えたことはアルフィーは一度もない。どんな世界が広がっているのかわくわくする。
「ねえ、まずはどこに行くの?」
前でドラゴンを操るドニーにアルフィーは聞いた。
「北の大都市ロックに行く。」
「へえ、どんなとこかしら。」
「北方の中核都市で物流の重要拠点さ。」
「早く見たいわ。」
「楽しそうだな。」
「うん。見たことない町を見るのってわくわくしない?」
「気持ちはわかるが。」
「アークも思わない?」
アルフィーが後ろに座るアークに聞いた。アークは満面の恐怖心を顔に出していた。
「そ、そうだなあ、わくわくするなあ。」
心ここにあらずといった感じで空を飛んでいることへの恐怖心と戦っていた。
「アーク、怖いの?」
「強がってもしょうがないから言うが怖い。」
「こんなに見晴らしがいいのに。下を見てみなよ。ほら、モンスターが走っているわ。すごーい。」
「下なんかを見たら落ちるよ。」
アークは身震いして下を見ないようにした。滅茶苦茶怖いのである。時たま横を鳥が飛んでいく。それにまた恐怖心が煽られる。この浮遊は初めての感覚で落ちないか不安で仕方がない。アークは前に座るアルフィーが楽しげにきょろきょろしているのはこいつ頭おかしいんじゃないかと思えた。
「お前よく平気だな。」
「怖くないよ。むしろ楽しい。」
「馬鹿は高いところがみたいな。」
「そんなこと言・わ・な・い・で」
アルフィーはアークの目に指でつつき目潰ししてきた。
「いたたた目が目が!おっと、落ちる落ちる!」
アークは慌てた。ドラゴンから落ちそうになったのである。なんとか体制を立て直したアークはアルフィーを睨んだ。アルフィーはそれが可笑しかったのか笑っていた。その笑顔を見るとアークは溜め息と共に怒りが落ち着いてきた。むしろちょっと照れた。その顔を見せるのはずるいと思う。屈託のないただ明るさだけを感じさせるその笑顔をされると怒る気が失せてしまう。昔からそうだった。アルフィーのワガママに一旦は怒ってもその顔をされると仕方がないと思えてしまうのである。そんな不思議な感じをアークは受けていた。
アルフィーとアークがああだこうだと会話しているうちに一行は山脈に入っていった。山脈の山々は山肌が露出していた。昔、何をしていた山かは不明であるが、アークは何か資源の採掘をしていたのではないかと推測したりしていた。
気づくと雨は止み、東の方を見ると雲の合間から太陽の光が射していた。その光景を見たアルフィーはその美しさに感嘆していた。太陽の光が射し込むというのはどことなく神秘性を感じたりする。この王国では雲の合間から太陽の光が射し込むのは神の目覚めと言われている。
「ドニー、東の方の光景が美しいわ。」
「ああそうだな。飛行訓練していると雲の合間から太陽の光が射し込む光景を見ることがあるが、あの下に行ってみたくなるんだよな。」
「実際に下に行ってみたことあるの?」
「いやないな。飛行訓練中にコースから外れたら大目玉だからな。」
「ふーん。」
雑談をしながらのんびりとロックに向けて順調に進んでいた一行は山脈を抜けて再び森林地帯に入っていった。そこからしばらく進むとドニーが気づいた。
「何か大集団がこちらに来るな。」
「あ、本当だ。」
アルフィーも目を凝らして言った。
「ちょっと降りて様子を見よう。」
そう言ってドニーは森に降りた。一行はドラゴンから降りて隠れた。ドラゴンのガウディは巨木の裏に身を丸めて隠れさせた。しばし息を潜めているとその集団は来た。その集団は鎧を着込み旗を掲げていた。それを見てアルフィーらは気づいた。ドニーがまず口を開く。
「あのドラゴンの旗標はラビヌンス騎士団だ。」
「あああの勇猛さで有名な。儀式で見かけたことがあるわ。」
「実物見るのは初めてだ。ドニーは見たことあるのか?」
「うん、軍事演習で一緒に行動したことがある。」
「それはまずいな。」
アークは渋面した。ドニーのことを知っている人がいたらなぜこんなところにドラゴンとお姫さまにそっくりな人といるのかとなる。疑われたら面倒である。
「そうね。顔は知られてる?」
「うーんどうだろ。あまり親しく話すことはなかったからなあ。向こうは覚えてないかもな。」
「なら大丈夫かしら。」
「とりあえずこのまま身を隠してやり過ごそう。」
アークの提案にドニーとアルフィーは頷いた。なるべくトラブルは避けたいのであった。三人は森に身を潜めた。そして、ラビヌンス騎士団の一団が三人の前を通りすぎていく。小声でアルフィーはアークに言った。
「北方での戦争からの帰り道かしら。」
「かもね。兵士たちは疲れきった顔をしているし、きっと激戦の後なのさ。戦争についての話とか耳に入らないの?」
「あんまし戦争についての話とかは聞かないわね。やっぱり軍事機密もあるし。」
「後継者なのにな。」
「まぁ、父上は自分の代で周辺国との関係を安定させたかったみたいだから私にあまり戦争させたくないんじゃない。」
「親の情けというやつか。」
「違うわよ。私のこと信任しきれないだけよ。」
そう言ってアルフィーは自嘲気味に笑った。自分が王国にとってどういう存在か理解している顔であった。ほとんど自分はお飾りになるだろうとわかっている。アルフィーはそれを割り切って生きているのである。
アークとアルフィーが小声で話しているとラビヌンス騎士団の長い行軍は過ぎ去った。一同は一安心した。冒険最初のトラブルは問題にならずに済んだようである。ホッとしたのかドニーが安心しきった口調で話始めた。
「大丈夫そうだ。念のためにラビヌンス騎士団が見えなくなるまでは隠れていよう。」
しかし、アルフィーが異論を唱える。
「そんなに待ってて町に着かなかったらどうするの?早く行きましょうよ。」
そのアルフィーの異論にアークは諭すように話した。
「見つかってなにか疑いをかけられたら面倒だからここは慎重に行こう。」
「でも。」
食い下がろうとするアルフィーにアークは手で制した。
「俺たちの目的は速くゴールするんじゃないだろう。時間はあるんだからここは慎重にな。」
「わかったわよ。」
しばし、隠れていたアルフィーらはラビヌンス騎士団が見えなくなったので出発することにした。空を飛ぶと見つかる恐れがあるのでしばらく徒歩で進むことにした。歩くことになったときのアルフィーの嫌そうな顔はアークは一生忘れないと思うのだった。だが、歩き始めるとアルフィーの機嫌は良くなった。王室に入ってからはこういう田舎の森を歩くことなどないので久しぶりの外の自然を楽しんでいた。それを見てアークとドニーは単純な奴だと思った。変わらない人だと感じていた。
そこに馬を飛ばして走ってくる兵士がアルフィーらの横を通りすぎて行った。
「何かあったのかしら。」
アルフィーらは顔を見合わせた。嫌な予感がした。しばらくすると先程のラビヌンス騎士団の騎士と思われる一団が馬に乗ってやって来た。




