そして僕らは… その20
朝、朝食を済ましたドニーは家を出た。昔、遊んでいた公園に行くためである。空は曇天といった生憎の空模様といった感じで今にも雨が降って来そうであった。そんな中で遠くに農作業に精を出す人たちも見かけた。夏野菜でも収穫しているのだろうか。公園へは道順を思い出しながら歩いた。途中で見る景色は懐かしいのと建て替えられ新鮮という感情が交互にやって来た。ドニーたちが遊んでいた公園は中心街から少し逸れた路地裏にある。日当たりもよくなく何でこんなところに作ったのだろうかとこの町の謎の一つであった。そういうところだからだろうかドニーたちは他グループと喧嘩になることもなくこの公園を溜り場にしていた。公園でする事といえば鬼ごっこや雑談である。子供の時に通った道順を辿り、金具屋と花屋の間の小道に入り、しばらく行くとその公園はあった。
「懐かしいなぁ。」
つい口から漏れる。もう忘れてしまおうとも思っていたが、アルフィーとアークの話を久しぶりに聞いて来てみたくなったのだ。
子供の時には置かれていた木材はなくなり何もない空き地となっていた。また、空き地には誰もいなかった。まぁ、こんなところを溜り場にするグループはそうはいないかとドニーは思った。ここ最近誰にも利用されていないようで空き地内は雑草がたくさん生えていた。手入れもされず放置されているようである。懐かしく空き地を眺めていると道に小さな水路があった。その水路を流れる水の音が心地よく昔を頭の中で思い出し溢れ出す。目の前に過去の自分達の姿の幻影を見ているかのような気持ちになった。
雑草が密生しているので雑草の上に腰を下ろしてしばしの黙考。雑草の座布団はふかふかで意外と座り心地が良かった。ぼけっとしているとかつての光景が過る。アルフィーのワガママに付き合わされてアークも入れて三人で小さな冒険をしたことを思い出す。近所の森に行ききのこを採取したものだ。そして、モンスターに遭遇し、命からがら逃げて来たこともある。そういう日は家にやっとの思いで着くと誰から聞いたのか、両親は把握していて雷が落ちたものである。今度、アルフィーとアークは協力して冒険へと出掛ける。それは羨ましく切ない。もし加わればもう二度と戻れないあの日々に仮初とはいえ戻れる。にやりとした。面白そうだと思ってしまった自分がいる。観念をドニーはした。立ち上がると腕に虫が這っていた。その虫を雑草の上に逃がしてやると草むらの奥へと消えていった。
その後、数日実家で過ごしたドニーはまた王都へと戻った。王都に戻る前に一つドニーは母親に聞いていた。それはアークの住む場所である。同じ王都に住んでいるが、一切会ったことがなく、住所は知らなかった。聞いたところ、王都の中では比較的家賃が安く、それほど収入がない人々が居住している地域である。どうやらアークは貧乏学生をやっているようだ。ついでに彼女もいるという嫌な情報を得た。軍にいるとあまり出会いがなく、学生のアークが羨ましくも憎らしくも思えた。
父親は仕事で見送りには来なかったが母親は来た。王都へと戻る列車に乗り込もうとするドニーに二言ぐらい声をかけた。それにドニーは二度頷いた。それで母親とは別れてドニーは自由席の適当な席に座った。自由席は出発の直前になってもあまり埋まっていなかった。指定席も自由席のこの様子から察するに空いているだろう。列車は発車したものの窓から見える景色は来る時に十二分に見ていたので帰りは乗る前に駅の売店で買った小説を読んで過ごすことにした。内容は蒸気機関車に乗車して各地を巡り行き先々で愉快な目に遭うという滑稽本のような感じである。意外と面白く昼食を食べる時以外は基本的にぶっ通しでその小説を読んでいた。気づくともう列車は王都に到着しようとしていた。ドニーはわくわくしていた。幼き頃の冒険をまた出来ると思うと楽しみになる。一応、もう一度心に聞いてみる。本当に協力することになって良いのかと。そう問いかけたが、ドニーは明確に決断した。この冒険に加わるのが面白いからやろうと。それが僕にとってのマイペースである。
アークは悩ましげにしていた。アルフィーがドニーを引き込もうとしているからである。ドニーはもう昔のようなやつではない。協力してくれるとはとても思えなかった。どうやらガリクソンさんが交渉に行ったらしいが、たぶん失敗するだろう。時刻は昼過ぎ。今日は休日なので家にいた。アルフィーの脱走計画で自分に出来ることはやった。移動手段はもう自分にはお手上げである。ガリクソンさんらに任せるしかないだろう。ベッドに横となっている。外から夏特有の虫の鳴き声が聞こえる。こんな暑い日は彼女のリィズとデートしたいが、生憎リィズはアルバイトで遊べない。だから今日はのんびりとごろごろしていようと考えていた。そんな折りである。訪ねてきた人がいた。面倒だなと思いつつゆっくり体をベッドから起こしてドアを開けた。そこには図体のでかい男が立っていた。しばし誰だろうかと思った。でも、しばし顔を見ていると誰だかわかった。
「ドニーか!」
「ああそうだ久しぶりだな。」
旧友に会うというのは嬉しいものだとアークは思った。過去に捨てられたわけではないと思えるからである。
「どうした急に?」
「アルフィーのことでな。」
「そうか。」
アークはドニーが協力してくれるのではないかと予感した。断りにここまで来ることは考えにくかった。断るならもうガリクソンさんに言ってもうアークの元には来ないだろう。
「まぁ、ここではなんだし中に入れ。」
「おうよ。」
ドニーが中に入ると狭い部屋が一つだけであった。広さは相部屋とはいえドニーの寮の方が広かった。勉強机と思われるのが部屋の隅にあった。机の上には書類が大量に積み重なっていた。空いている空間は一部だけである。たぶん、論文か研究資料だとドニーは理解した。熱心に研究しているのだろうとも思った。それにしても部屋の中を見渡すと女っ気がない。本当に彼女がいるのだろうかと疑った。
「まぁ、その椅子に座れ。」
部屋の中央にあるテーブルの椅子に二人は向かい合うように座った。椅子は全部で二つだった。座る時にふと台所を見ると可愛らしいデザインの鍋があった。ドニーはあれは彼女からの贈り物かなと思った。アークは少なくとも小さい頃はかっこいいのが好きだった。趣味が変わったのかもしれないが、たぶん彼女が持って来たのだろう。
ドニーが椅子に座るとアークも座り数年ぶりの会話が始まった。内容は近況報告がほとんどだった。アークは大学での研究や友人、同僚に関する世間話をした。ドニーは少し前に実家に帰省したことや軍での話をした。他愛のない会話だが久しぶりの雑談はとっても有意義に二人とも感じていた。二人の友情の火はまだ消えてなかったのである。そして、アルフィーとも。
アルフィーの脱走計画について話始めたのはドニーの方からであった。今日の目的がその話だから当然であった。
「ところでアルフィーのことなんだが。」
「ああそうだな。今日はその話で来たんだっけな。」
ドニーは背筋を伸ばしはっきりとした口調で言った。その姿にアークは軍人らしさを垣間見たような気がした。世間話をしている時は若者らしさがあったが、今は鍛え抜かれた一人の戦士がいた。
「単刀直入に言おう。協力しようと思う。」
「そうか。」
アークは感動した。かつて、ばらばらになった三人が揃ったのだ。この三人ならどんなことでも乗り越えられると思えたのである。感激したが、落ち着きは払って反応した。
「アルフィーを最果ての塔へと行くための移動手段だが、俺の実家のドラゴンを使おう。」
「助かるよ。これで最後の問題もクリアだ。」
「ガリクソンさんがドラゴンで行きたいと言っていたが、そんなに遠くなのか?」
「遠い。」
「ドラゴンだとどのくらいかかりそうなんだ?」
「片道で二泊三日かな。」
「それはまた遠いな。」
やっぱりアルフィーが関わることだ。大変面倒な話である。
「ドラゴンで行ってぎりぎりなんだよ。」
「なるほどだからアルフィーの友人でドラゴンを飼っている俺のところに話が来たのか。」
そう言うドニーにアークはにっこりとした。ドニーがアルフィーを友人と言ったのだ。アークは子供時代に戻れた気がした。
「たぶんそうだろな。竜騎士隊の一員なんだから腕前も折り紙付きだしな。」
「何か友人だから誘われたんじゃなくて使えるからというのは何だか複雑な気分。」
「まぁ、付き合いもなくなっていたしな。俺もアルフィーの母親が最期に住んでいた場所を探すのに使えるから仲間に加わったようなものだしな。でも、こういうことに誘われるということは信頼感があるんじゃないか。」
「そういうものか。」
「そういうものさ。」
まだ、納得とまではいかないドニーを見てアークは苦笑した。
「何を急に笑い出すんだ?」
「いやまぁ昔と変わらずマイペースかなぁと思ったけどやっぱり人って変わって行くものだなと思ってな。」
「馬鹿にしているだろう?」
「そんなことはない。」
どうやら幼い頃に比べてドニーは堅物になったようだとアークは思った。昔は何か言われても俺は俺という感じだった。もしかすると同僚に不真面目なのがいてそいつを批判していたらこうなったのかもしれない。
「ところで脱走計画の決行する日は決まっているのか?」
「ああ。決行は王位継承儀式の時にアルフィーの魔法で侍女のフレイさんをアルフィーの姿に変えて儀式中一人で教会に籠るから儀式の間の一週間中に最果ての塔に行って戻って来るんだ。」
「露見したらやばそうな計画だな。」
ドニーは驚きと露見した時の恐怖というよりも呆れた。相変わらず無茶をする。
「この時しかチャンスはないから仕方があるまい。」
「決行の日時はわかった。それに合わせて休みをとって実家からドラゴンを連れてこよう。それとアルフィーたちへの連絡は任せる。」
「わかった。」
「じゃあ、俺は行くわ。」
そう言ってドニーはアークの部屋を後にした。その足取りは軽かった。




