そして僕らは… その2
「モーリスさん。こんにちは。」
俺は挨拶しながら監視小屋のドアを叩いた。中から物音がしない。留守かなと俺が思った時、中から盛大なげっぷが聞こえた。こりゃ酒を飲んで酔い潰れてるな。モーリスのじいさんはかなりの酒豪で昼間から飲んでいることも珍しくない。酒を飲んで一度寝ると早々起きない。
「どうする?」
俺はドニーとアルフィーに意見を求めた。まぁ、こうなったらやることは一つだ。無断で入ると後であーだこうだ言われる。なら。
「ファイヤーボール!」
アルフィーが魔法でドアを破壊した。こうするしかないのだ。許可なく勝手には入れない。じゃないと後で大目玉である。しかし、監視小屋の主人モーリスさんは起きない。ならこうするしかない。折衷案という奴だ。
「よし、ドアを壊せた!」
「私にかかればこの程度のドアなど楽勝よ。」
「あーあ。後でどうなっても知らないぞ。」
「何言ってるの?あなたも同罪よ。」
「なんでえ!」
アルフィーの同罪という言葉にドニーは激しく狼狽えた。後で怒られるのが嫌なのだろう。小屋の中を覗くとそれでもなおモーリスさんは寝ていた。こりゃ起きんな。
「どうするアルフィー?」
「アーク、もう無断で入っちゃいましょう。」
「そうするか。」
悪びれる様子もなく俺たちはセレスの森へと入ることにした。壊したドアはまあ、後でモーリスさんが自力で直すだろう。バレなきゃ良いのだ。
さて、セレスの森に入った俺たちはミニウサギが多くいるポイントへと向かった。以前にも何度か入ったことがあるので迷うことはなかった。鳥の囀りと微風に揺れる木々をBGMにして俺たちはミニウサギを探しつつ森の中を探検した。
「飽きたー。」
森を歩き1時間後、アルフィーは文句を垂れだした。いつものことだ。アルフィーはちょっとでも退屈なことが耐えられないのだ。以前にも街中でかくれんぼし、2時間ほど探し回っていると文句を言いながら怒ってきたことがあった。何故かその時鬼だった俺は謝った。釈然としなかったものだ。
「もう少しでミニウサギの出現ポイントだから我慢しろよ。」
「うー。お腹すいた。」
「はぁ、じゃあここら辺で昼食にするか。」
溜め息混じりに言ったが、お昼の時間はもうとっくに過ぎている。俺はドニーにも声をかけて昼食にすることとした。俺たち三人は適当な木陰に入ってそれぞれ持ってきたサンドイッチを食べ始めた。のどかな午後の昼下がり。のんびりと談笑しながら俺たちはサンドイッチを食べた。まぁ、話すことと言えばほとんどアルフィーの武勇伝だが。うざい近所のがき大将を泣かしたとかそんな話ばかりである。ドニーの話は専ら如何にのんびりと日々を過ごしているかという退屈の域を飛び越えて苦痛の水準に達している話である。アルフィーは退屈を嫌うのですぐに突っこみを入れる。俺はまあ、アルフィー曰く真面目なのら分かるが暑苦しいとのことである。自分としては普通の話をしているつもりなのだが。
昼食を食べ終えた俺たちは再び歩き出した。もう時期到着だ。小一時間ほどすると俺たちは小さな池に到着した。ここはこの森に生息する小型モンスターたちが集まる格好の狩り場なのだ。俺たちは池の水を飲んで水分補給し、草むらに隠れた。しばらくするとミニウサギがやって来た。
「お目当てのモンスターが来たわ。」
「よし、行くぞ。」
「まてまて。」
飛び出そうとする俺をドニーが制した。マイペースな奴だがその分落ち着いて思考を巡らし、助言ができる男だ。ドニーの言うことで間違えることはないと俺は信じている。だからここでもドニーのストップに耳を傾けることにした。
「ミニウサギはまだ少し警戒している。水を飲み始めて警戒を解くのを待つんだ。」
「ああわかった。アルフィー飛び出すなよ。」
「わかってるわよ。」
アルフィーは当たり前のことを言うなといった感じで口を尖らせた。俺からしてみればアルフィーはきちんと言っておかないと暴走しかねないのだ。少なくとも俺はそう思っている。
しばらく様子を見ているとミニウサギは周囲を気にしながら池の水を飲み始めた。
「よしよし。」
「まだ、飛び出すなよアルフィー。」
「わ、わかってるわよ。」
少し慌てた様子を見ると飛び出そうとしていたな。目の前の獲物にすぐに目が眩む。困った奴だよ。本当に。
捕まえるのを我慢しているとミニウサギはだんだんと水を飲むのに夢中になってきた。
「今じやないか?ドニー。」
俺がドニーに聞いてみるとドニーはニコッとした。今だということだろう。
「行くぞ!アルフィー!」
「うん!」
「がんばれー。」
応援の言葉を述べるドニーを置いて俺とアルフィーは飛び出して水を飲んでいたミニウサギに飛び掛かった。ミニウサギは抵抗してじたばたと手足ばたつかせるが、人間の力には敵わない。あえなくミニウサギは俺に捕らえられた。
「やったー!」
アルフィーは大喜びのようだ。俺も嬉しい。今日は美味い肉料理を食べれる。跳び跳ねて喜ぶアルフィーは早速夕飯が楽しみだとの話を始めた。照り焼きにして食いたいと言っていた。俺は唐揚げだ。
ミニウサギへの止めはアルフィーの魔法でやってもらった。ライトブレードという魔法だ。光の剣といった魔法である。人の首を簡単に切り落とせる。中々物騒な魔法だ。その魔法でアルフィーはミニウサギの首を切り落とし、ミニウサギは絶命した。グロテスクな処理をしたが、母が買ってきたミニウサギをおろすのをよく見ていたのでこれといって気持ち悪さ怖さは感じなかった。アルフィーなんかも慣れっこのようだ。ドニーは座って欠伸しているので彼もあまりモンスターを解体するのに抵抗はないようだ。
ミニウサギの肉を三人で山分けした俺たちは帰ることにした。来た道を帰る俺たちの頭上で鳥の鳴き声が聞こえた。それは小鳥というレベルではなく、中型以上のサイズと思われた。俺が空を見上げると空にセレスホークが飛んでいた。この森の食物連鎖の頂点に立つ中型の鳥タイプのモンスターである。
「絶対にあたしたちのミニウサギの肉を狙ってるよね。」
アルフィーの言う通りだと思う。セレスホークは人間を食べ物として襲うことはないが、隙あらば人間の荷物を奪おうとする。そういう鳥なのである。
「ピー!」
俺たちの頭上を旋回し始めたセレスホークは完全に俺たちをロックオンしている。隙を伺っているのだろう。こちらを見ている。
「ドニー、どうする?」
ここはドニーの意見を聞いた方が良いだろうと思い聞いてみた。
「まっ、走る?」
「そうなるわよね。」
「じゃあ、いっちょ誰が一番速く逃げれるか競争するか。モーリスさんの小屋まで。」
俺は屈伸して走る姿勢をとる。アルフィーとドニーもニヤリとして走る姿勢をとる。
「よーし。位置について!」
アルフィーがスタートのタイミングをとる。
「よーい。」
俺たちは肉を担ぎいつでもスタートできるようにした。
「どん!」
俺たちはほぼ同時にスタートを切った。空をちらりと見るとセレスホークは俺たちの後ろを飛んでついてきた。競争は良い勝負だった。アルフィーと俺が横並びになり、少し後ろをバテバテになりながらドニーが必死に食らいついていく。森のモンスターたちは何事かと思ったのか顔を見せていたモンスターも隠れて逃げていく。ただ、セレスホークがついてくるだけだ。俺たちは最高に楽しい気持ちで走っていた。モーリスさんの小屋に到着した頃にはみんなバテバテになっていた。ドニーは死にそうな顔をしている。
「はあはあ、セレスホークは?」
「どうやら巻けたみたいね。」
アルフィーは遠くの空を見ていた。確かにセレスホークの姿はなかった。諦めたのだろう。
「さて、帰りますか。ドニーに早く来なさい。置いていくわよ。」
「まっ、待ってくれ。はあはあ。」
ドニーは疲れはててるなあ。休ませてやりたいが、もう帰らないと日が暮れる。ここはドニーにもう一頑張りしてもらおう。
俺たちは無事に家へと帰った。持ち帰ったミニウサギの肉を母に調理してもらい夕飯に並んだ。夕飯を食べながら今日のことを母に話した。楽しそうねと母に言われると俺は笑顔でうんと応える。俺にとってこの両親がいて親友のアルフィーとドニーがいる。そんな日々がいつまでも続くと自然と思っていた。あの日までは。
その日は俺たちの住むこの国で伝染病が流行った頃のことだ。特に王都は悲惨であった。貴族や王族の有力者が次々と病に倒れていったのである。権力の空白が生じ、その空いた席を生き残った者たちが争い奪い合いをしていた。まだ少年だった俺はひたすら伝染病が収まるのを家で過ごし、外には最低限の用事でしか出てなかった。アルフィーやドニーとも伝染病の流行の間会うこともなかった。無事に生きているのか心配だった。終わらない夏はない。伝染病も終息し、またいつもの日々が戻ってきた。俺はまたドニーやアルフィーと遊び回っていた。楽しい日々に俺は満足していた。
ある日のこといつもの空き地に集合したドニーと俺にアルフィーは暗く悲しい顔をしていた。俺は心配になった。
「アルフィーらしくない顔をしているな。どうした。」
俺の言葉にアルフィーは無理した笑顔で泣くのを堪えているように思えた。こりゃ何か大変な事情がありそうだ。
「何かあるなら相談に乗るぞ。」
俺としては親友が困っているのだ。何とか助けになりたい。ドニーも頷いていた。気持ちは同じのようだ。俺とドニーに心配されているのを理解したようでアルフィーはゆっくりと話始めた。それは俺とドニーには驚きの話だった。
アルフィーは実は王族の人間だったのだ。
「今の王の末娘なのよ。」
「ドニーと俺は王族相手にあんなに無礼なことを。」
アルフィーがお姫さまである事実から俺、処刑されないかと思った。ドニーは目が点になっていた。そういえばアルフィーの家はでかかった。大商人の家なのかなと思っていたが、この町一の金持ちフリート家の屋敷より大きかった。そう考えるとアルフィーの家は特殊な家庭であると気づくべきだった。




