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そして僕らは…  作者: マジコ
18/33

そして僕らは… その18

「ブルーノーさんには言われたくないですね。」


何とかブルーノーに言い返すもこれが精一杯であった。幼稚だと自己嫌悪に陥る。

一方、ブルーノーは快闊に笑った。皆に好かれる笑顔だ。


「俺はそんなにガキっぽいか?」

「そりゃもう権化ですよ。」

「お前に言われたくないがな。」

「そんなに俺は子供ですか?」

「うん、まだまだ子供だよ。」


そう言うとブルーノーはまた盛大に笑った。ドニー的にも心当たりがあるので言い返せなかった。


「まぁ、理由は分からんが割り切れないなら無理して行かなくていいんじゃないか。」


そう言われるとドニーはそんな気がしてきた。両親には忙しくて帰省している暇がないとでも言っておけば良いだろうと思った。実家は王都から少し遠い。そこを言い訳にすれば問題はないだろう。


「参考になりました。」

「そうか。」


ブルーノーは微笑し、どこかへと部屋を出ていった。

いつもふざけているけどたまに賢いことを言う人だなとドニーは思った。ブルーノーは兄貴肌なのだろうと思えた。

次の日、ドニーは休日だった。

町にでも行こうと思っていた時、訪ねて来た人がいた。事務員に呼ばれて待ち合い室に行くと上品さを感じる年配の男性がいた。


「誰だろう。」


心当たりのない人であった。王都に年寄りの知り合いなどいないと思った。人違いではないかと思った。


「お初にお目にかかります。」

「どうも初めまして。」


やっぱり知り合いではないようだ。俺に何の用だろうかとドニーは思った。トラブルを起こした記憶もないし、こんな高貴そうな人と関わったようなことをした記憶もない。


「何の用ですか?」

「まぁ、立ち話もなんですからちょっと町にでも行きませんか?

「はぁ。」


この老人に言われるがままドニーは王都の中へと行った。王都に向かう道は天気がよく、気持ちのよい朝だった。こういう日にドラゴンで飛行をするのはとても気分が良いだろうなとドニーは思った。しかし、今日は天気通りに気持ち良い気分ではなかった。むしろ不安で頭が一杯であった。言われるがままに出てきたが、この人は何者だろうと思っていた。服装自体は何でもない一般的な庶民の恰好である。ただ、その佇まいとそこから醸し出す雰囲気が庶民のそれとは違う。もっと高級な層の人間ではないかと思われた。そんな人と関わり合うような人生を送ったことはないと思ったが、そういえば一人いたなと頭に彼女が浮かんだ。だが、だとしても今さらあいつのことで接触されるようなことをした記憶はない。とすると思い当たるのは一つだけであった。

巻き込まれる。

王都には工場などの生産施設はほぼない。あってもこの王国がまだ弱小で田舎だった頃から大通りに構えていた老舗の小さな工場くらいである。王都にある店といえば宿泊施設とかレストランなどのサービス業である。後は貿易会社があるくらいである。王都の貿易会社は中継貿易と高級品を王室や生活水準が高い住民への遠方の地の商品を高値で売ることで莫大な利益を得ていた。王都で商売しているのはこれらである。食品は近隣の農村などから運ばれてくる。そういう風に王都の経済と物流は成り立っていた。

町中は開店準備を終えた店が開店し始めていた。王都は今日の活動が始まったといった感じである。王都は元気があるなとドニーは思った。

ドニーと年配の男は喫茶店の前に来た。落ち着いた雰囲気の玄人好みそうの佇まいであった。ドニーの知らない店である。ドニーはあまり王都の中を必要以上に彷徨かないのでこういう知らない店もある。ブルーノーさんなら知ってるかもなあとぼんやり思った。あの人はよく王都の中へと遊びに行くしとドニーは思った。


「では、入りましょうか。この喫茶店には入ったことありますか?」

「ないです。」

「結構美味いコーヒーを出すのですよ。」


にこやかに言うのでドニーは美味しいのだろうと素直に思った。


「それは楽しみです。」


ドニーがそう言うのと同時に年配の男はドアを開けて中に入った。ドニーも続いた。

中はシックで渋味のある内装であった。店主らしき人もこの店の雰囲気に良く合う人だと感じた。ドニーが店内を興味深げに見ているとウエイトレスの女の子がやって来た。小さくて可愛らしいまだ子供だと思われた。


「いらっしゃいませ。」


可愛い声だなとドニーはドキりとした。竜騎士隊は男所帯なのであまり女の子と話す機会がないので他の隊員もそうだが女の子と話すのが苦手なところがある。幸いこの店に連れて来たこの老人が淀みなくウエイトレスと話すのでドニーがたじたじで余計なものを注文するということはなさそうであった。テーブルに案内されると老人とドニーはコーヒーを頼んだ。

注文が済むとドニーから口を開いた。


「で、あなたは誰ですか?私の知り合いにはいないと思うのですが。」

「そうですな。知り合いではないですが、縁はありますな。」

「はぁ。」


だいたい察しはついた。


「アルフィーですね。いや今は姫様か。」

「その通りです。私は姫様の執事ガリクソンと言います。」


ガリクソンという年配は満面の笑みでこちらを見た。流石は王室に仕える者。素晴らしい作り笑いだ。人に好感を持たれそうな笑顔だ。


「で、僕に何の用ですか?協力出来ることはないと思いますけど。」

「いや、あなたにしか頼めないことですよ。」

「と言いますと?」

「ドラゴンに姫様を乗せてあるところに行ってもらいたいのです。」

「どこにですか?」

「ふむ、そこは最果ての塔という所です。行っていただけませんか?」

「うーん。」


ドニーは悩む振りをした。答えはもう決まっていたが。


「それって陛下の許可は降りてるのですか?」

「いえこれは姫様の個人的な希望でして陛下には内緒です。」

「では無理ですね。」


ガリクソンは予想通りだなと思った。姫様の希望とはいえ勝手に一国のお姫様を連れ出すのは大問題だろう。しかもそれが時期女王となれば露見すれば非常に不味いことになるだろう。そんな危険な綱渡りなどをやろうなどかなりの酔狂なやつだと言えよう。しかし、ガリクソンはここで引き下がる訳にはいかない。何とか協力してもらえないかと頭脳を巡らした。


「ですが、姫様はあなたにとって将来の主君。願いを叶えてあげるのも勤めではないですかな。」


自分で言いながらガリクソンは無理があるなと思った。今は主君ではない。それに本来は諫言するのが臣下の勤めとも言えるだろう。


「例え主君のためとはいえこの時期に遊びに出掛けるのはどうかと思いますよ。それに確か僕のような低い身分の者とは付き合えないはずでは?」

「遊びではないのです。姫様にとっては大事なことなのです。かつての友人であるあなたにしか頼めません。それにアーク殿も参加しておりますよ。」

「友人といってもそれは昔の話。時期女王になるための儀式を控えているのに外に出掛けるのは遊びに行くのと大差ないですよ。」

「生き別れになった母が住んでいた場所に行きたいという願いでもですかな。」

「そうだとしても王室のことを優先するべきです。それを諭すのが執事たるあなたの務めでしょう。」


ドニーはそう言うと運ばれてきたコーヒーを飲み代金を置いて行ってしまった。

残されたガリクソンはどうしたものかと悩ましげにコーヒーを飲んでいた。


ドニーは悩んでいた。取り合えず協力することは拒んだ。それ自体は間違った判断ではないと思っている。竜騎士隊の隊員が勝手に一国の女王候補を城の外に連れ出すのは非常にまずいと思う。ばれたら今の仕事から離職しなくてはいけなくなるだろう。それは嫌だった。でも、心のどこかでこの悪事に加わりたいと思う自分もいる。なんというか自分の心の裏から煽るような声がするような。歩きながら悶々としていた。それにしてもアークも参加しているとは意外だった。最後に会った時はもうトラブルとは関わり合いたくないような感じだったのだが。軍人になってからは会ってなかったが、以前母からの手紙で王都の大学に入学したと聞いたことがある。たまに王都の町を彷徨いている時に出くわさないかなと思っていたこともあった。結局、町中で遭遇することもなく、子供の頃以来会っていない。

とぼとぼと一人町の群衆の間を分け入っていると小腹が空いてきた。もう時期昼であることに気がついた。昼食は寮の食堂で食べるとして少し屋台で何か買って食べようと思った。ドニーの中でこういう時に買い食いするものは決まっていた。それは焼き鳥である。多少の焦げ目がつくまで焼きたっぷりとタレをかけた一品は王都名物であった。幼少期に親につれられて王都へと来た時に食して以降大好物となった。そういえばアークやアルフィーにどれくらい美味いかなど熱弁を振るったものである。その当時は気にしてなかったが、アークもアルフィーも呆れていたなと微かな記憶を頼りにどんな表情だったか思い返すとそう思える。不意にくすりと苦笑する自分がいた。あの頃は輝いていたなと今さらながら思う。決して今に不満足というわけではない。竜騎士隊に入隊して大好きなドラゴンと日々を過ごせている。幸せだと思う。あの頃の輝きはそれとはまた別の美しさと素晴しさと幸せがあった。今も昔も今の自分であるための大切なピースなのである。それぞれの時にはそれぞれの意味があるのである。

焼き鳥を買うならここと決めている屋台で買った焼き鳥を頬張りながら寮へと帰った。食堂に行く前に自室へと行った。同室のブルーノーはおらず、どこかへ行ったようである。ふと机を見ると母からの手紙が置かれていた。そういえば仕舞い忘れていた。内容は確か近況報告と昔話である。今日は過去にちなんだ話が舞い込んでくるなとドニーは思った。悩ましい話もあるが、懐かしい気持ちになった。それはそれで良いのかなと思えていた。部屋を出て食堂に行きながらぼんやりと久しぶりに故郷に帰るのも悪いことではないような気がドニーは抱き始めていた。

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