そして僕らは… その17
アグレピスト山が見えてきたのでふと周囲を見渡すと地上はごつごつとした岩石が多くある地帯に来ていた。この辺はちょっとした観光地になっている。気軽に自然観察が出来るからだ。今日も観光客かが散策していた。何人かの観光客がドニーとドラゴンが飛んでいるのに気が付いて見上げていた。今日も我国は平和だとドニーは思った。地面を見ていると岩石の間から緑が見える。植物が生えているのだろう。自然の力強さを感じた。
アグレピスト山は元々鉱山であったが、数十年前に採算が採れなくなってきたので、放棄された山である。ドニーが聞いた話ではこの鉱山は王国最大規模だったらしい。多くの労働者が全国から集まって来た。初期の作業法は大変危険な手法が採られ、多くの人命を失ったという。しかし、発掘法が改善され、アグレピスト山では死者はほとんどでなくなったという。その発掘法を発明した人の名はアグレピスト山の麓に立てられた碑文に刻まれている。ドニーは確か以前ここら辺を飛行する時に指導官がその碑文についての由来などと一緒に発掘法の発明した人の名前も言っていた気がするが忘れてしまった。
気持ちよい天気の中でゆっくりのんびりと飛んでいるとアグレピスト山の方からドラゴンの集団が見えてきた。たぶん、先頭集団であろう。指導官に先導されて飛んできた。指導官がいるからか同僚たちは大人しく真剣な顔でドラゴンを操っていた。ふざけてこちらに手を振りでもしたら指導官に怒鳴られるだろう。特に今回の飛行訓練の担当指導官は怒りっぽくて目をつけられたら面倒な人である。息するように怒る。だから同僚たちは大人しくしていかにも真面目にやってます風なのである。先頭集団がゴールに向かって飛び去っていくとドニーは中間地点のアグレピスト山にまで来た。山頂に降りると周囲の景色を眺めた。王都の方を見ると王都の町並みとお城が見えた。あそこに自分が住んでいる家があると思うと不思議な気持ちになった。深呼吸を一回するとドニーは再びドラゴンに跨がり、出立した。
後はただ真っ直ぐもと来たルートを進むだけである。少し飛ばして飛んでいるとブルーノーのいる集団が来た。これからアグレピスト山に行くようだ。ブルーノーはドニーに気付くと手を振ってきた。訓練中に気楽な人だなとドニーは思った。まぁ、割りと竜騎士隊の面々は指導官が見てないところではおちゃらけている人も多い。その最たる例がブルーノーであった。先程書いた賭け事の主催はブルーノーに特許があるかのような感じである。それぐらい頻繁に賭け事をブルーノーは主催していた。
その後も心地よい風を感じながらドニーは訓練場まで戻ってきた。ゴールした隊員はみんな総じて一安心といった感じであった。トラブルもなく無事にゴール出来たからである。
ドニーは騎乗していたドラゴンの様子を確認していた。疲れてないかとか体調不良を起こしてないか等、丁寧に観察していた。そこにブルーノーがやって来た。
「ドニー、いやあまた勝っちまったよ。」
だろうなとドニーは思った。あの面子ではブルーノーが一番速い。いつもおちゃらけてふざけているようでそのドラゴンを操る腕前はかなり上のランクである。本気を出せばドニーにとだっていい勝負ができるだろう。しかし、ブルーノーはドニーと本気でやり合おう何てしない。いつも適当にはぐらかされてしまう。そういうブルーノーの態度にドニーは馬鹿にされているようで腹が立つこともある。年下は可愛い存在なだけなのかと思うこともある。
賭けに勝ったブルーノーは上機嫌だった。結構、儲かったのだろう。
「それは良かったですね。」
「ああ、今度旨いもんでも奢ってやるよ。」
「それは楽しみですね。」
ドニーは感情の籠ってない棒読みで喜んだ。
「お前信じてないな。」
信じてないというよりもどうせまた賭け事をして今日の勝ちをパーにするのだろう。そうしてまた奢らされるとドニーは考えていた。
「信じてないというより確信していると言った方が正しいですね。」
「何をこいつ。」
ブルーノーはドニーの頭をくしゃくしゃと揉んだ。
「やめてください。もう行かないと怒られますよ。」
「そうだな。また指導官に怒鳴られるのは嫌だな。」
そう言ってドニーをブルーノーは解放した。ドニーとブルーノーはそれぞれのドラゴンを連れて集合場所へと行った。歩きながらふとドニーはブルーノーを見た。この人はあの人に似ているなと思った。
ドニーとブルーノーが集合場所に行くともう他の隊員が揃っていた。ドニーとブルーノーが最後だったようだ。全員揃ったのを確認した指導官は長い説教を始めた。いつものことで隊員たちは指導官のありがたい言葉を心に刻むよりも立ちっぱなしに耐えることに集中していた。
その日の訓練は夕方には終わった。へとへとの隊員たちは夕食を食べ、その後は風呂に入りそして自由時間であった。ブルーノーはさっさと疲れたと言って寝てしまった。他の隊員もブルーノーと似たようで自由時間とはいえほとんどの人は寝てしまった。ドニーは訓練場に併設されている竜舎に行った。スージーの世話をしたかったからである。竜舎に着くとスージーがドニーが来たのを足音で気付き、甘い鳴き声を発した。ドニーが来て嬉しいのだ。ドニーはスージーのもとに行く前に用具室に寄った。バケツとブラシを持ってくるためである。スージーの体を洗ってやろうと思ったのである。今日、スージーはよく頑張った。その労いの気持ちもあって隅々まで洗ってやろうと思ったのである。
スージーのところに行くとスージーはドニーが持っているブラシとバケツを見て洗ってもらえると理解したので嬉しそうにしていた。他のドラゴンは羨ましそうにしていた。竜舎の一頭あたりの場所は牛などと比べて比較的に広い。翼を広げても横のドラゴンにぶつからないようにするためである。スージーは息を吐き楽しみにしているようであった。バケツに水を入れて早速スージーの体をブラシで擦り始めた。
スージーはブラシで擦られると目を細めて気持ち良さげにしていた。時折、翼を広げて伸びをしている。
「グォ。」
鳴き声を聞くと幸せそうだなとドニーは思った。機嫌が良いのだろう。機嫌が悪いと拒絶する。それがないので機嫌が良いのだろうと思った。スージーは素直で人懐っこいのであまり世話で手を焼くことはない。むしろブルーノーの方が大変そうである。スペックの上ではドニーの相棒であるスージーより高いが、ちょっと気難しいというか癖があるのだ。一度、へそを曲げるとその日は機嫌が悪い。操るのが難しいのだが、ブルーノーは難なく操る。おそらく、ブルーノーのドラゴンの操縦術は竜騎士隊トップクラスだろう。
一通りスージーの体を洗い終えたドニーはもう一度スージーの体を撫でた。スージーは気持ち良さげである。こうしてドラゴンの世話をしていると実家で飼っているドラゴンを思い出す。元気にしているだろうかとふと思う。ドニーが生まれた時には既に飼っていた。どうやら父が子供の頃に拾ってきたらしい。よく世話をしていたからなつかれていた。友人を乗せて町の空を飛び回っていたものである。ドニーはドラゴンに乗って空を飛ぶのが好きである。だからこそ竜騎士隊に入ったと言える。ドラゴンと常に側に居られるこの仕事を天職とドニーは思っていた。戦争になれば最前線に送られるが、命の危険以上にドラゴンとの生活が魅力的だったのである。
ドニーは最後にスージーの頭をまた撫でて離れていった。手を振りながら立ち去った。スージーは別れを惜しんで鳴いていた。
部屋に戻って来たドニーはブルーノーが寝ていたので静かに自分の椅子に座った。ブルーノーはまだ明かりを消していなかった起こしたら悪いので明かりも消してやろうと思い、電球の電源をOFFにした。しばし、考え事をした後、ドニーも寝ようと思いベッドに入って就寝することにした。その日はゆっくりと寝る事が出来た。
次の日、訓練を終え自由時間となったドニーのもとに手紙が来ていた。差出人を見ると母からであった。何かあったのだろうかと考えたドニーは恐る恐る手紙の入った封筒を開けた。内容は何てことない母と父の近況報告であった。最近は農地を借りてささやかな家庭菜園をしているそうだ。中々美味しく出来てるらしく採れた野菜で作った母の料理は美味いそうだ。今度、休みがとれたら帰省して軍隊での話を聞かせてくれと書いてあった。ドニーが軍でもエリートの竜騎士隊に所属しているのは自慢らしく誇らしげに竜騎士隊について書いてあった。
「帰省か。」
ドニーが呟くとベッドでだらだらしていたブルーノーが起き上がり、にやにやしていた。その顔にドニーは少しいらっとした。この人のそういう顔や態度はやたらと腹が立つ。嘲笑されているような見下されているような気分になるのである。自分でも人間的に必ずしもブルーノーより上だとは思えない自分に情けなさを感じたりもするから余計に誤魔化そうとするのかイライラするのである。
「何ですブルーノーさん。」
「いやあ、ドニーは若いなと思ってな。」
「どういうことです?」
ドニーは眉間にシワを寄せた。また馬鹿にしていると感じていた。
「実家にあまり帰りたくない理由があるんだろう?」
「否定はしませんが。」
「帰りたくないってのは自己を統制出来てないということだよ。自己を統制出来るなら割り切って帰省が出来るだろ。それが出来ないということは感情で行動するということさ。それは子供のやり方だろ?」
「うっ。」
図星であった。この男ブルーノーはたまに鋭い意見を言う。そうしたところが他の隊員からも親しまれる要因なのだろう。どういう人生を送るとこうなるのだろうかとあの人も含めて思ってしまう。自分もまったく同じてはなくても雀の涙でもいいからそういう真理を衝いた考え方が出来るようにならないかと思う。そういうことを考える時、自分に腹を立てる自分がいる。




