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そして僕らは…  作者: マジコ
16/33

そして僕らは… その16

「ブルーノーさん。早く支度しないと遅刻しますよ。」

「大丈夫だよ。ちゃんと遅刻せずに行くよ。」


へらへらしながらそう言うとブルーノーは先程自分で淹れた紅茶を飲んでいた。外出の許可が降りた時買ってきた物である。一度、ブルーノーの勧めで飲んでみたが、ちょっと苦手な味わいだった。自分はコーヒー派だなと改めて思った。ブルーノーののんびりとした様子を見てドニーは軽蔑の気持ちが湧いてきた。怠慢に見えてイライラするのである。


「朝食には遅れないようにしてください。僕は先に行きますから。」


そう言ってドニーは部屋から出ていった。ブルーノーは手をひらひらさせて見送った。そして、大きな欠伸をするとまた目をつぶった。その日はそれでもぎりぎりでブルーノーは食堂に来た。いつもだらけているようで遅刻をすることはなかった。そこがまたイライラする点であった。ブルーノーは要領が良いのだ。ドニーは認めたくないが、自分に無いものを持っているブルーノーが羨ましいのであった。

朝食を終えると隊員たちは長距離飛行の訓練をするために訓練場に集まった。みんな竜騎士の甲冑を装備しての集合である。この訓練は竜騎士にとってはドラゴンに長く乗れるとの楽しみと体力的に辛いという苦楽の訓練である。

ドニーとしてはドラゴンに乗れるので好きな訓練である。そして、自らを鍛えることを好むので訓練はその絶好の体を鍛える機会だとドニーは思っていた。


「よし、今日はアグレピスト山の頂上を中間地点にして戻って来るコースだ。」

「「「「はい!」」」」

「元気よし。」


隊員たちは元気よく整列していた。縦横5人ずつのメンバー計25人の隊員だ。小柄の奴から大柄の者、幼さが顔に残るものが居れば老けた顔の人もいる。入隊条件に見た目は関係無いので様々な見た目の人がいた。

指導官はみんなの顔を見て無表情になって言った。


「訓練でよく行く山だからお前たちももう慣れてきているだろう。しかし、そういう緩みの気持ちがあると大きなミスをしてしまう。そうならないように緊張感を持って全員無事に帰ってくるように。」

「「「「はい!」」」」


一斉に隊員たちは返事した。

竜騎士隊は5人ずつ出発していった。ドニーはブルーノーとである。ブルーノーはドニーを見つけると早速、軽口を叩いてきた。


「お、ドニーじゃねえか。この5人の中で誰が一番になるか賭けようぜ。」

「またですか。やりませんよ賭け事なんて。」

「そんな固いことを言うなよ。」


このブルーノーという男はすぐに賭け事を始めようとする。主催したりもする。今回もそうであった。竜騎士隊は規律が厳しく娯楽も少ないので結構ブルーノー主催の賭け事に秘かに参加している人は多い。ドニーは勿論参加しない。チクりもしない。なぜならわざわざ言わなくてもそもそも指導官たちは黙認しているところがあるからである。規律が厳しいとはいえある程度のガス抜き必要ということだろう。ドニーはそれにも不満を持っていたが、騒ぎ立てるようなことでもないような気もするので黙っていることにしている。


「バレても知りませんよ。」

「大丈夫大丈夫。」

「指導官も見て見ぬふりですからね。」

「そうだぞ。ドニー、今を楽しみましょうや。」

「そんな刹那的な。」


ドニーがそう言うとブルーノーはにんまりとした。


「いやいやなぁドニーよ。俺たちはな有事の際には最前線に出るんだ。いつ死ぬか分からないんだから悔いを残さないためにも今を楽しまねえと。」

「何か良さげなこと言ってますが、だからといって規律違反していいわけではないと思うのですが。」


ドニーは諦めムードの溜め息を吐いた。

この人に正論を言っても無駄なんだよなと改めて思った。いつも彼は悪ガキのように色々なことをする。女遊びにも慣れているようで入隊した頃はよくその手の話を無理矢理聞かされたものである。嫌がると青少年という若人なのに女と遊ばないと損だと説教的なことを熱弁される。ドニーにも一応女友達がいた。しかし、あまり人に話したいようなことではなかった。話さない方が良いだろうと思うのが最善であろうとドニーは考えていた。だからブルーノーにも他の同僚にも彼女については一切話していない。

ブルーノーが悪巧みするとドニーは止めるが、いつも周到な論理武装をして言い負かされるのでもう本気で注意はしないことにしていた。一応注意はするがそれ以上のことはしないことにしている。


「ふう、君はまだまだ子供だねえ。」


ブルーノーの言い方にドニーは苛立ちを覚えたが、怒ってもしょうがないから自分の乗るドラゴンの所へと行った。竜騎士隊では一人一頭のドラゴンが与えられる。このドラゴンとは戦死しなければ生涯の相棒となる。竜騎士隊で採用されているドラゴンはソニックドラゴンと呼ばれる空戦能力に高い性能を誇っているのを使っている。ソニックドラゴンは世界の軍隊で使われているドラゴンの中で最も扱いが難しいドラゴンの一種である。なぜならドラゴンの中でも最速の部類に入る種で、性能を最大まで引き出すには高速での動きを上手く扱わなくてはいけない。それを出来るようになるにはかなりの練度が必要となる。入隊したばかりの隊員は始めはゆっくりと飛んで次第に速度を上げていき慣らしていく。ドニーは実家にドラゴンを飼っていたので割りとすぐに乗りこなせるようになった。


「スージー、今日はよろしくな。」

「グルグル。」


ドラゴンの頭を優しく撫でるとドラゴンのスージーは気持ちよさげに目を細めされるがままになっていた。ドラゴンの安心しきった様子にドニーは顔を綻ばせた。生真面目なドニーでもドラゴンの可愛げのある表情を見ると和やかな気持ちになるのだ。ドラゴンと一緒にドニーも目を細めていた。ドニーはドラゴンの扱いに慣れていた。実家でドラゴンを飼っていたからである。毎日世話をしていたのでどうすればドラゴンと仲良くなれるかよくわきまえていた。

向こうではブルーノーたちが賭け事の話をしている。ドニーはその輪から外れて一人ドラゴンと飛べることに集中していた。他のどんな遊びよりもドラゴンと共にいることが何より楽しいのである。小さい頃からそうであったが、一時期ドラゴン並みに一緒にいて楽しい友人がいたこともある。今はもう会ってないがたまに思い出す。今も遊んだらどんな風な自分になっていただろうかと妄想したりもする。もう忘れようと思っても思い出したように目の前に光景が広がる。そんなことを繰り返しながら今日まで生きてきた。竜騎士隊の入隊が決まった時も喜びと同時にあいつらに言ったらどんな反応しただろうかと思い浮かべてしまう。あの日から自分は心が立ち止まっているのだろうかと考えてしまうこともある。

気付くともう前のグループは出発していた。


「ドニー、俺たちも出発するぞ。」


ブルーノーが他の隊員と一緒にドニーに大声で言葉をかけてきた。

呼ばれたドニーは賭け事の話はまとまったのかなと呆れつつわかったと手を挙げた。隊員たちはそれぞれのドラゴンに乗り、指導官の合図と共に出発した。勢いよく飛び出した竜騎士隊はどんどん加速していく。この加速をどこまで出来るかでその竜騎士の腕前がわかる。そして、この5人のうち一番腕があるのはドニーだった。

飛び始めてしばらくするとドニーは一緒にスタートした同僚との距離が開け始めた。同僚は決してのろいわけでも、ドラゴンたちの扱いが下手くそという訳でもない。むしろその腕前はかなりのもので一般的な兵士よりも遥かにドラゴンの操縦が上手い。

ドニーはどんどんその速度を上げていく。しかし、不思議と景色の変化はスピードの割りにゆっくりであった。ドニーはその上空からの素晴らしい光景を臨みながらひたすら前のグループに追い付こうとしていた。

置いてかれたブルーノーらは苦笑していた。その圧倒的なスピードには始めから付いていけるとは思っていなかった。ドニーと自分たちでは勝負にならないということは彼らはよく心得ていた。だからかブルーノーの賭け事にドニーは対象外であることは多い。特にドラゴン関係の時はドニーと他の隊員とでは勝負にならないので、あえてドニーを外している。そういう扱いを受けているドニーは自信になるようなちょっと寂しいような複雑な気持ちになっていた。ドニーのモットーとしてはそれでいいのだが、どこか孤独を感じてしまうそんな気持ちになる。

トップを飛行するドニーはちらりと後ろを見た。ブルーノーたちが遥か遠くに見える。飛ばしすぎたかなと思いつつ、さらにスピードを出そうとドラゴンに合図を送る。足でドラゴンを軽く叩くとドラゴンは翼を動かし、さらにスピードを上げた。このソニックドラゴンの最高速度を出しつつあった。このくらいのスピードを出すとドラゴンに乗り慣れているドニーでもちときつい。手を離したら一気に後方へと吹っ飛ばされるだろう。素人が体験したら気絶する速度である。ドニーもしがみつくので精一杯である。

遂にドニーは前のグループに追い付いた。前のグループもブルーノーたち同様苦笑していた。彼らもまたドニーのドラゴンを操る巧みさには敬服しているのだ。


「ドニーは普段は模範生なのにこういう時は無邪気な子供になるよな。」


隊員の一人がそう言うと他の隊員も笑いながらそうだそうだと相槌を打っていた。

ドラゴンに関してドニーは子供のように夢中になるのだ。小さい頃からドラゴンと触れ合い、乗り回していた。この仕事を選んだのも半分はドラゴンと共に過ごせるからというのもあった。

前のグループを追い抜いたドニーはそこで少しスピードを緩めた。スピードを出しすぎてドラゴンをバテさせてはいけないと考えたからである。


「スージー、ここからはゆっくり飛ぼう。」

「グルルル。」


ドニーがそう言って撫でるとソニックドラゴンのスージーはスピードを緩めた。安心しきった表情をしているようだった。スージーとしても疲れ始めていたのである。ドニーが前方を見るとアグレピスト山が見えてきた。


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