そして僕らは… その13
次の日の朝アークは急いで郵便局に行きガリクソン宛に手紙を書いた。内容はアルフィーとアルフィーの母親が離れ離れになった時期についてであった。アークがその時期を知りたいと思ったのは同時期に何か動きのあった施設がないのか調べるためであった。
郵便局へ午前中に手紙を出せばその日の夕方には届けてもらうことができる。これなら明日にはまたガリクソンかまたはフレイと接触出来るだろう。そこでアルフィーの履歴を教えてもらおうとアークは考えていた。
その履歴と文書の上での動きを照らし合わせれば自ずとアルフィーの母親が住んでいた場所が判明するのではないかと予想された。希望的観測だろうが、そんな気がしてならないアークであった。
その日の仕事を終えたガリクソンは一人自室に向かった。と歩いていると自分の郵便受けをまだ今日は見てないと思い、執事たちの休憩部屋にある自分の郵便受けを見に行った。郵便受けの所に着くともう誰もいなかった。夜間勤務の者は出払い、他の者は自室に戻ったようだ。
郵便受けの中を見ると一通の手紙が入っていた。住所から察するにアークからであった。ガリクソンは自分のところの住所がなぜわかったのかと思ったが、考えてみたら宛名に配達先の人の名前を書いて城の住所で出せば届くのだった。
「何かわかったのかのう。」
一抹の期待をしつつ手紙を開封するとアルフィーのことで聞きたいことがあるので近々会えないかというものだった。そういえばアークにはアルフィーのことをあまり話したことはなかった。詳しく知り調査に役立たせたいということだろう。何か掴みつつあるのだろうか。ガリクソンは少しホッとするような気持ちになった。着実に前進しているような感覚があったからである。ガリクソンはまた小鳥に手紙を託して夜の町に放った。明日、以前に会った喫茶店で落ち合おうという内容である。調度、都合よく休みであった。歩きながら何度もアークからの手紙を読む。その手紙からはアルフィーのために懸命に調べてくれているのがわかる。ガリクソンは姫様はなんとよいご友人をお持ちなのだろうかと感極まってしまう。泣きそうなのを堪えながら部屋へと戻った。ガリクソンは自分やフレイ、姫様には出来ないことをアークはやってくれていることに有り難みを感じた。優しい温もりをガリクソンは感じていた。
日が大分てっぺんに登り今日一の暑さになった頃、ガリクソンとアークは喫茶店で向かい合っていた。頼んだコーヒーがすでに到着していた。
「姫様のことで聞きたいことがあるとのことですか。」
ガリクソンが切り出す。
「はい、アルフィーのこれまでの経緯を聞いてなかったので。そこら辺がわかれば文書から情報を推察することができると思うんです。」
真剣な表情をしているアークを見てガリクソンはあらためてアークがアルフィーのために尽力してくれていることに感動していた。アルフィーからアークの話を聞いたことがあるが、まさにその通りの人物であった。フレイには最初協力するのを断っていたようだからきっとこうして活動していくうちに昔を思い出して来ているのであろう。そんな淡い期待を思いつつガリクソンは考えていた。
「では、姫様について教えましょう。何から話せばよいかな。」
にっこりと愛想のよい顔でガリクソンは言った。出来る限りのことを話そうという意気込みでもあった。
「そうですねえ。では、アルフィーが生まれた頃の話を。」
取り合えず、アルフィーの幼少期について聞くことにした。アルフィーはあまり自分のことについては話さない人だったのでこれを期に知りたいと思ったのである。
「私は姫様が王都にお戻りになってから付くようになったので間接的にしか知りませんが、肩身の狭い目に遭っていたようです。」
「いじめられてたんですか?」
「ミライ様がですね。」
「アルフィーは大丈夫だったのだすか?」
「結構、皮肉を言われてましたね。その頃はずっと舌を向いていました。母親であるミライ様と話す時だけ、元気よく話しておられました。」
その話を聞いたアークは意外性を感じていた。でも、よくよく考えてみると友人になったばかりの頃は人見知りして内向的だったことを思い出していた。いつ頃からだろうかアルフィーがお転婆で周囲を困らせ始めたのはとアークは考えていた。懐かしい気持ちにアークはなったが、それもそこそこにアークがもっとも聞きたかった時期につきて聞くことにした。
「アルフィーが母親と今生の別れをした頃について教えてください。」
「ふむ、その頃はアルフィー様はまだ字を覚え始めた頃でまだまだ親離れは出来ておりませんでした。そんな頃にですよミライ様について誰かが讒言し、捕らえられたのですよ。それでミライ様はどこかへ幽閉され王の娘である姫様は王と血が繋がっているということで王都からの追放という形に落ち着いたようです。当時、話を聞いた私は親と子を引き離すとは酷いと思ったものです。その一時期は姫様への同情論もありましたが、しばらくするとみんな忘れたように何も言わなくなりましたよ。」
「人って忘れる生きものですよね。」
「そうですな。特に他人のことわね。結局、世界は自分中心なのですよ。」
そう言うとガリクソンはコーヒーを少し口に含んだ。それに合わせるかのようにアークもコーヒーを飲んだ。深みのある苦さにここの喫茶店の味の良さを感じた。
「では、その頃の文書を調べれば何か手がかりが見つかるかもしれませんね。」
「確かにその前後で動きがあることを洗い出せば近づけるかもしれませんな。」
「それとアルフィーの母親が亡くなった時期は分かりますか?」
アルフィーの母親が亡くなった時期についてアークが聞いたのも手がかりを見つけるためであった。その時に動きを見せてる場所があればアルフィーの母親と関係がある可能性が高い。母親の名前は見つけられたのだ。動きについても何かを掴むことが出来るだろうとそうアークは楽観していた。
「今から10年ほど前ですな。」
「葬式は?」
「行われてないようです。少なくとも公には。」
「でも、何か動きがあったかもしれない。その辺りも調査してみます。」
「ふふ。」
ガリクソンはにこにこしていた。アークを引き込んで正解であると確信していた。研究室に出入りしている大学生ということもあり、不審に思われずに調査が出来る。疑われてたら興味が湧いたから調べてるとか適当なことを言っておけば良いのである。そしてなによりもこのアルフィーのために一肌脱ごうという心意気である。フレイが初め会いに行ったときは断っていたようだが、いざ協力することになると積極的に動いてくれている。きっと、今の彼が彼本来の思考なのだろう。
「ガリクソンさん、楽しんでません?」
アークはガリクソンの様子を見てそんなことを言った。ガリクソンは手を振り、続けてコーヒーを一口飲むと面白いことを発見した子供のように屈託のない笑顔をしていた。年取ると子供に戻るというがガリクソンもそうなのだろうかとアークは思った。冗談で口にしようか喉元まで言葉が上がっていたがあと少しのところで言わなかった。失礼になるのではないかと思ったのである。やっぱり、年上相手にはそれなりの節度が必要だろう。大学生になってから身に付けた処世術である。
「ちょっとね。」
「ガリクソンさんも意外と。」
「まぁ、年寄最後の冒険ですからな。」
なんだガリクソンさんも子供じみていると自分をそう評価しているではないかとアークは思った。子供っぽいと言うのは失礼と言うのはどうやらアークの杞憂だったようだ。
「ガリクソンさん。あんまりはしゃぎ過ぎて疑われないようにしてくださいよ。」
「その辺は大丈夫だよ。私は執事。主人のために働くもの。そう簡単に尻尾は出しませんよ。」
「まぁ、ガリクソンさんよりもアルフィーが墓穴を掘らないかそっちの方が心配だな。」
「そこは私とフレイで全力でサポートしますよ。」
今はわからないが昔は嘘を吐くのが苦手だった。目が泳ぐし、言葉は上擦るし、頭も尻も隠せてないという感じだった。ただ、多分推測だが家のことに関してはおくびにも出さなかった。きっと、何かしらの悩みはあったのだろうけど。
アークやドニーには自分の家という強大な権威に関わらせたくなかったのかもしれない。親分肌というか子分に変に気を使わせたくなかったのかもしれない。そのグループをまとめるための配慮には女王の素質を感じられるとアークは思っていた。
なら、フレイとガリクソンがいれば大丈夫だろうかなと思った。フレイもガリクソンも仕事が出来るようだし、アルフィーのためにというのが凄く感じられる。アークは自分は早くアルフィーの母親のことを調べて発見出来るように努めるのが役割りだと考えた。
ふと、アークが時計を見るとそろそろ閉店時間だった。店内のウエイトレスたちが閉店の準備を始めていた。これ以上この店に留まるのは迷惑だろうと考えたアークは言った。
「そろそろ帰りましょうか。」
アークが提案するとガリクソンもにこりとして残っていたコーヒーを一気のみをした。アークも立ち上がり自分のコーヒーを全部飲み干した。
二人は会計をしにレジへと行った。そこで少しどっちが支払うか相談した後、結局、ガリクソンが支払った。ここは年長者が支払うべきだという。アークは有り難く受け入れた。貧乏学生のアークには喫茶店のコーヒーはちと高い。家計を考えれば非常に助かった。
「アークさん。頼みましたよ。」
「はい、必ず見つけてみせます。では、さよなら。」
「では。」
アークとガリクソンは喫茶店の前で別れてそれぞれの家路に着いた。
一人家へと向かうアークは行き交う人々を見て不思議な気持ちになった。今、行き交う人々は自分がこの王国の次期女王になる人のために活動しているなど思ってないだろう。そのわくわく感を人に話せないのはちょっと残念だなとアークは思っていた。




