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そして僕らは…  作者: マジコ
10/33

そして僕らは… その10

魔法の特訓で魔力を消費し、疲れたアルフィーは少ない夜の余暇時間をベッドに倒れこんで過ごしていた。毛布の上でごろごろした。


「ふう。」


つい、溜め息をした。こういう過ごし方をしているとアルフィーはいつもふと自分の人生はこれでいいのかと考えてしまう。表面的には摘み食いしたり、脱走したりと好き勝手生きているように見えるが、大きくは流されて生きている。そんな自分に嫌悪を抱くときもあるが、これまではまあ上手に付き合ってこれた。これからも自分は流されて生きて行くのだろう。アークやフレイを思い浮かべると自由に町に出たりできることが、羨ましく思えた。そのような不自由さも贅沢な日々の生活上の犠牲故のことである。

ふと、アルフィーは起き上がりベッドから降りて本棚から本を取り出した。古い魔法使いと勇者の冒険物語である。この世界には魔法使いはいるが、勇者はいない。そんなドラマチックな話などこの世にはないのだ。ただ、日常が流れているのだ。アルフィーの思い付きによる脱走なんかも刺激的と言えば刺激的かもしれないが、結局自分の生活の範囲内となっている。小説のような冒険活劇ではないのだ。

ぱらぱらと何ページか流し読みするとまた本棚に本を戻した。調度そのタイミングで部屋がノックされた。


「誰だ?」

「フレイとガリクソンでございます。姫様。」


渋みのあるその声は間違いなくガリクソンの声であった。作戦会議に来たのだ。


「入っていいわよ。」

「では失礼します。」


ガリクソンとフレイが部屋に入って来た。この面子が揃うとアルフィーは気持ちが落ち着く。他の侍女や執事も嫌いではないが、彼らからは安心感を得られない。フレイとは付き合いが長いというのがあるだろうが、ガリクソンにそのような感情が湧くのには理由はわからない。感覚的なものであろうとアルフィーは思っている。


「じゃあ、そこの椅子を使って。」

「ありがとうございます姫様。」


ガリクソンがそう言うとフレイと供にベッド近くの椅子に座った。アルフィーはベッドに腰掛けた。

早速例の計画についての相談が始まった。今日の議題はいかに城から抜け出すかである。それがどれだけ難しいというとアルフィーが脱走すること自体はさほど問題ではない。窓から外へ抜け出せば良いのだ。風魔法を覚えれば城の外へと飛んで行ける。空を飛んでいると発見される危険性もあるがまぁ、脱走は大した問題ではない。むしろ問題なのはアルフィーが抜け出していることを如何にバレないようにするかである。普通に侍女たちがやって来るし、食事や勉学のために人と接触しなくてはいけない。母親の住んでいた場所には日帰りでは行けないであろうことはアルフィーらは予想しており、その対策に悩んでいた。


「フレイ、何かバレない良い手はないかしら。」

「そうでね。テレポートは一度行った場所でないと使えませんし、病気のふりしたら医者が来て大騒ぎですからね。何か隠すというよりも気づかれないという方法があれば良いのですが。」

「気づかれない方法か。」


アルフィーは顎に手をやり思案した。フレイとガリクソンも沈黙して考えた。しばしの間の後、ガリクソンが提案した。


「姫様は確か変身魔法を使えませんでしたか?」

「ああ!その手があったか!」

「あの魔法なら自分以外にもかけれるはずです。その魔法をフレイにかけて姫様に化けさせ、姫様自身にはフレイに化けさせるのです。それならバレずに数日は誤魔化せるでしょう。」

「それはいい案だよガリクソン!」


手を叩いてアルフィーは喜んだ。魔法にはそれなりの自信のあるアルフィーはその案ならいけると思った。ガリクソンも頷いていた。フレイは困った顔をしていた。


「どうしたのフレイ?」


不安そうなフレイの表情に気づいたアルフィーは聞いた。


「私に姫様の代わりは勤まるでしょうか。」

「大丈夫大丈夫。ガリクソンがフォローしてくれるわよ。ねぇ、ガリクソン。」

「姫様私めにお任せください。万事抜かりなく行います。」

「でも、魔法の訓練とかどうすれば。」

「勉強で気になることがあるとかなんとか適当に理由をでっち上げれば良いのよ。」

「はあ。」


これは重責を担わされることになったとフレイは泣きそうになった。アルフィーの普段の行動を真似ればいいとはいえあのお転婆ぶりを再現するのは中々大変である。今から憂鬱なフレイであった。

大体の作戦が決まった会議はお開きにしようかとアルフィーが思い始めたとき、ガリクソンが口を開いた。


「姫様、フレイ。」

「どうしたの?」


急に改まってなんだろうかとアルフィーとフレイは思った。


「脱走の日取りについてですが、一週間教会に籠る儀式の時にされるのがよろしいのではないですか。」

「マジか。」

「そ、それは不味いのではないですかガリクソンさん。」


アルフィーもフレイも驚きを隠せなかった。一週間教会に籠る儀式というのは王家が代々王位を継承する前に神の側で祈り王位を継承することを許してもらうというものである。その時に脱走するとは畏れ多いことをする。罰当りだとフレイは思った。


「そんなことをして天罰を受けたらどうするのですか!?」

「しかし、一番脱走するにはもってこいの日ではあるのです。」

「ですが、かなりリスキーな日取りですよ。もしバレたら冗談では済みませんよ。私は反対です。」


珍しくフレイは異論を唱えた。それもそのはずで歴史と格式のある神聖な儀式をぶち壊すかのような話だからだ。尊敬するガリクソンの提案とはいえ飲み込めるような案ではない。何より姫様に危害が及ぶ可能性があるのだ。そこは臣下の一人として看過していいものではない。


「私も畏れ多いことであることは百も承知です。」

「なら。」

「でも、私めは姫様の執事。姫様のことを思うのが第一なのです。何が一番姫様のためになるかを考えたらこの策に辿り着いたのです。」

「私も姫様のためなら何だってしますが、これは不味いですよ。神を欺こうというのですから。」

「いや。」


アルフィーは決めた。


「神の前でやれば大丈夫よ。」

「そんな感じで良いんですか?バレでもしたら下手すると王位の継承権を剥奪されるかもしれませんよ。」

「確かにその危険性もある。でも、私は何より記憶に微かしかない母の残像を見たいのよ。これは私にとって王位を継承するのと同じくらい大切なことなの。完全に自由がなくなる前に一度でいいから母の住んでいた場所を見たいのよ。」


そう言われたフレイは黙るしかなかった。フレイには悲しいくらい同情している気持ちがあった。母親の記憶がほぼないというのはどれ程悲しいことだろうかと思っていた。フレイがアルフィーに仕え始めたのは幼い頃からである。同世代の侍女がいた方が良いだろうというところからである。アルフィーがアークやドニーと遊ぶようになってからも屋敷の中では常に側にいた。アルフィーが母親を恋しく思っているそぶりは普段は一切見せなかった。フレイも側に仕えていたが見たことがなく気の毒な方だが、元気そうにしているとしか感じていなかった。しかし、ある時アルフィーの部屋へ行くと母親の名前を呟きながら一人で泣いているを見てしまった。その姿が痛々しく、自分にはなにもしてあげられないという無力感を抱いた。その日以来フレイはアルフィーの為に尽くそう、寂しくないようにフォローしようと思うようになった。そんな心持ちのフレイには母親の住んでいた場所を見たいという願望を否定することは出来なかった。ここは手伝うしかないのかと思わざる終えなかった。


「わかりました。私が姫様の変身魔法で姫様になりすまします。私は親が病気で見舞いに帰るとか適当な理由をつけておきます。」

「流石はフレイね。私の悪友ね。」

「私はあくまで姫様の侍女ですから。」

「話はまとまりましたな。では、ふむ明日私めがアーク殿に伝えにいきましょう。」


ガリクソンが微笑みながら言うとフレイはキョトンとした。執事長でもあるガリクソンが直々に使いっ走り役をやるなど意外だったのだ。


「ガリクソンさん。それなら私が行きますよ。」


この場にいる者の中で一番身分が低いのはフレイである。この申し出は当然のことであった。ガリクソンはアルフィー付きの中では最も格の高い人なのである。産まれがそもそもフレイとは違う。フレイは一般家庭すなわち庶民の出身である。フレイの場合は家族を食べさせるために調度アルフィーと同じくらいの年頃の娘を募集していたのでそれに乗ったのである。だから、アルフィーに仕え者の中でも身分は低い方である。ただ、アルフィーが地方に住んでいた頃からの侍女なので他の侍女から一目置かれていたりする。それに対してガリクソンは貴族出身である。三男だったので家を継ぐことなく若い頃は自由に過ごしていた。大学では当事ほとんど注目されていなかった天文学の勉強をしていた。大学生活も残りわずかでどう生きようかと考え始めていた時に父から王家との関係強化の為に王家の執事になるよう命じられた。特に嫌がる理由もなかったので、二つ返事で承諾した。そうして執事になったので父の位階の高さもあり、ガリクソンは王家全体の執事の中でも上位に位置する執事であった。そんなガリクソンが自ら使いっ走りになろうというのだ。それをはいそうですかと流せるほどフレイに度胸はないし、そうするべきではない。


「明日は私めは一日休みですし、一度アーク殿と顔合わせをした方が良いかと思いましてね。アーク殿にはそれはそれは苦労をかけることになりますので、一つ今回協力していただけることに対する感謝の念を伝えましょうと思いましてね。よろしいですか?姫様。」

「私は構わないけど。」

「姫様がそう仰るなら私もよいですが。」

「では、決まりですな。私めはここで仕事がありますので失礼いたします。」

「そう、お休みガリクソン。」

「明日はお願いしますガリクソンさん。」

「はい。お任せください。」


そう言ってガリクソンはアルフィーの部屋から出ていった。


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