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第2章 トンネル

 洞窟の、もといトンネルの中は音が響いて思いの外騒がしかった。

 どこかを流れているらしい小川の反響音、2人が歩く靴音、呼吸音、衣服がカサカサと擦れる音。それが途中立ち止まると、たまに一瞬しんっと静まり返る。

 車道はアスファルトで固めてあるものの、歩道は所々に石が転がる、コンクリートで半端に固めた悪路だった。ところどころ水たまりが出来て歩きづらい。

 新也はできる限り静かに呼吸をしていた。

 視線をあちらこちらから感じていた。

 目には見えない。

 けれど確実にいる無数の何か。

 流石の藤崎もなにか感じるのか言葉少なに2人はトンネルを歩いた。

 反対側へ出たときには2人は思わずふうっと安堵の溜息を漏らした。

「何も、出なかったな……」

「……帰りは分かりませんよ」

 新也はぼやくも少し笑った。

 珍しく緊張している様子の藤崎が面白かったからだ。

「お前な」

 藤崎も笑う。

 それで2人とも少し肩の力が抜けた。

 帰りも、本当に何も起こらずに無事にトンネルを抜けることが出来たのだった。

 

 しかし、本当の怪異はその後だった。

 2人は車に乗り、来た道を戻らずに反対側の街へと降りた。どこかで簡単に食事でもして帰ろうという塩梅だ。

 週末の駅前は凄い人混みだった。

 駅前のパーキングに何とか車を止めた辺りで、新也は周囲が妙なことに気づいた。

 見てくる、のだ。

 通りかかる人皆が、自分たちを見てくる。

 普通に歩いている人が、自転車を運転している人が、新也たちが近づくとぐるっと首を回してこちらを見てくる。

 その目に瞬きはない。血走った目だった。

 それがみな、ばっとこちらを振り返る。じっとこちらを凝視する人々は2人が数メートル離れると普通に戻る。

「……先輩」

「うん……」

 人並みを掻き分けて、馴染みの店へ歩きだしていた2人は無言で頷き合う。

 その間も、2人をすれ違う人が皆、顔を覗き込むようにこちらを見てくる。若者も、老人も、妊婦さんも、大人も子供も皆だ。

「か、帰りましょう……」

 思わず、新也は藤崎の腕を引いた。

 その瞬間だった。

 2人はあのトンネルの前、車の中にいた。

「え!?」

 新也は飛び上がらんばかりに驚いた。

 藤崎が躊躇せず車から飛び出す。

 周囲は変わらず、あのトンネルの霧深い夕暮れだった。

「なん、だったんだ……」

 藤崎が狐につままれたように、呟いた。

 新也もそろりと車から降りた。

 冷たい空気と嫌な沈黙が2人を包む。

 どちらからともなくその言葉は漏れた。

「帰ろう……」

 2人はトンネルを潜ることなく、その場を後にした。



【end】

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