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『騎士』03

「いくつか質問がありますが宜しいでしょうか」


 村長の自宅。応接間へと通された私は必要な情報を確認する為に話を始めた。


 「勿論です」とサリバンが返す。彼は慣れた手付きでお茶を二つ用意するとその一方を私の前に置いた。品質のいい茶葉を使っているらしく部屋の中にふわりと香りが広がっていく。


「ありがとうございます。今回の依頼は山賊に対処して頂きたいとの事でしたが、もう少し詳しくお応え頂きたいのです」


「と言いますと?」


 私はポーチから羊皮紙を出して向きを確認し、双方が確認できる位置にそれを置く。そこに記載された文章を指差しながら会話を続ける。


「そちらからの依頼書です。この対処とはどの程度の事を想定しての言葉でしょうか? 期間についての説明もお願いします」


 騎士団には国内国外を問わず様々な依頼書が届けられている。今回のような山賊絡みの問題や手に余る害獣の捕獲、果てには人の手に負えない魔物の討伐も。そういった中でも嫌われるのが要所を不明瞭にした依頼だ。


 例えば今回は山賊の対処という事だが、これはどの程度までの要求なのかというのが問題になってくる。村やその周辺の警護として人手が欲しいだけなのか、山賊の捕縛や討伐を目的としてなのか。加えて日時の指定も今日の夕暮れまでには村に来て欲しいとだけしか書かれておらず、そこからどの位の期間を目安として滞在しなくてはならないのかも分からない。


「言葉が足らず申し訳ありませぬ。今回の依頼は森の入り口から村へと続く街道の警護という形です。期間に関しては本日深夜から明日の朝までお願い致します」


「差し支えなければ理由をお聞きしても?」


 依頼書を折り畳んで元の場所にしまう。要点は理解出来たものの、依頼書も彼の説明も端的過ぎて情報不足が否めない。


「実は北方からの客人が本日訪れるとの話を頂いておりまして。それだけならば何も問題はなかったのですが……いつ頃からか山賊が森の街道に出没し、そこを通る旅人を狙うといった話が絶えないのです。村の衆が交代で見張る事も可能ですが彼等にも仕事があります故、夜更けに森の中に立てという訳にもいかず騎士団にご依頼する事となりました」


「そこまで被害が出ている様であれば、前もって山賊の討伐を正式な依頼として届けた方がよかったのではないでしょうか」


「それも考えましたが先の話自体が急なものでして……これは言い辛いのですが、討伐の依頼とあっては警護の依頼と比べて報酬が嵩む事はご存知の筈。村にはそこまでの費用を出せる余裕が無いのです」


 サリバンの話は納得のいくものだった。確かに討伐依頼とあっては大規模な数の人員を導入する必要がある為、騎士団側から要求される報酬も増加する。後々の安心を買えるとはいえ掛かる費用も馬鹿にならない。


「分かりました。ではそちらが提示した通り本日深夜より明日の朝まで、街道の警護という事で了承致します」


「おお、ありがとうございます。まだ夜までは時間がありますので宜しければ食事は如何でしょうか。山菜や肉等この付近で取れた最高の物を用意いたします。城下のものと比べるのはおこがましいとは思いますが、捨てたものではありませぬぞ。必要がございましたら息をつける個室もご用意出来ますので」


 依頼書に記載された報酬以上は受け取らないと伝えるが「こちらの気持ちです」という言葉に押されて世話になる事になってしまった。申し訳ない気持ちはあるが空腹感や疲労も確かにあり、余計に時間を使うよりも効率的だと考えたのもある。


 その後すぐ近場の食堂へと案内され、彼と食事を共にする事となった。サリバンが店主と会話を交わして席に着くと直ぐに運ばれてくるローストされた猪肉や根菜やキノコを使った煮込み、ふっくらと焼き上げられたパン。温もりのある食事に心を躍らせた。


「城下の方では異国の食材も目にする機会が多いとお聞きしますが本当でございましょうか」


「市場ではその様な物を取り扱っていると聞きますが、実際に目にする事はあまりないですね」


 確かにセンタリウルは交易の盛んな国であり、取引された品が卸されるのは都市の市場なのだが料理人や商人、酒場の店主といった仕事柄それらの取り扱いが必須となる職種の者や主婦が市場を訪れる事があっても私達が直接市場に向かう事はまずない。


「そうでしたか。それで……料理の方は口に合いましたかな?」


 「ええ」と笑顔で返す。彼はほっとした様な顔で胸を撫で下ろした。


「それはようござんした。実は地酒もありましてこれもまた味のある物なのですが、お出し出来ないのが残念でございます」


「お気遣いなく。こちらも弁えておりますので」


 暫くすると森を見回っていた猟師の方々が交代して帰って来たらしい。銃を携えた体格のいい男達がサリバンへの報告を行なっていた。軽く挨拶を交わすと彼等は「貴重なお時間を使わせてしまう訳にはいきませんので」と早々に立ち去って行く。私は話に気を取られ過ぎてしまった事を反省し、少しばかり急く様にして食事を終えた。


「満足頂けたでしょうか。この食堂は宿も兼任しておりまして上の階には宿泊用の部屋がございます。一番良い部屋をご用意する様に店主とは話を付けておりますので、短い間ですがご休憩なさって下され。夜警の交代時間が近付いたらお伝え致します」


 そうしてサリバンは会計を済まして食堂を出て行く。私は店主から教えられた部屋に入り、身体を休める為に目を閉じた……。

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