愁郷奇譚 - ノスタルディア -

第1章

第一節『プロローグ』

　風が草木を揺らすさざめきと虫の鳴き声が響く森の一角、満月が照らす開けた場所で二人の男が対峙する。

　一人は長剣を手にした赤髪の剣士、もう一人は巨剣を背負った大柄な白髪の男。白髪の男の部下達がそれを見つめる最中、仕掛ける隙を定める様に二人の男は睨み合いを続けている。固唾を呑んで見守る少女は、頬に冷たい汗が伝うのを感じていた。

　そんな時、不意に訪れた強風が二人の間を吹き抜ける。張り詰めた緊張の糸を断ち切るように、赤髪の剣士が距離を詰めんと走り出した。