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03 遺されたもの



 別荘にたどりついた未利達は、事前にアレイス邸から押収していた鍵を使って内部へと入る。


 室内の様子を説明すると、まるで図書館の様だった。

 そこにはいくつもの本棚が壁にそって並んでいて、棚には様々な蔵書が保管されていたからだ。


「わぁ凄い」

「うわ、見る人が見たら喜びそうな部屋」


 鈴音の歓声を聞きながら。室内をまず眺める。


 本がやはり多い。

 例えば読書好きの人間とかならば、この景色を見れば確実に大喜びしただろうが、未利は別にそういう本などを読む方ではない。

 漫画やライトノベルならばよく読むが、ちゃんとした文学はあまり手を出していなかった。


 そんな部屋の中を用心深く眺めて言ったエアロが、とりあえず一目見て分かった事を口にする。


「手入れは定期的にされているようですね」

「近くだし、結構来てたのかもね」


 他にも何か発見できるものはないかと視線を向けていくのだが、取り立てて目立つ物はなかった。


 仮眠用に置かれているらしい小さめのベッドと、衣服をしまうような大きな衣装ダンス一つが目立つくらいで、後はごく普通に部屋にありそうなものばかりだった。


「あいつは、なんでこんなもんをアタシに譲ったんだか。……これ、一つ一つ調べてくしかないか」

「そうですね。一応気を付けてくださいよ」

「分かってるし」


 とりあえず、突っ経っていても何も分からないので、調べていくしかない。


「任せてください、探し物なら私が頑張ります!」

「あ、アンタは大して期待してないから、物壊さないでよ」

「えー。ひどいですよぉ」


 やる気になっていた鈴音が無茶しないように、適度に意気を挫いておいて本格的に作業開始。


 最初に入り口の近くから見ていくと、食べ物を発見した。


「これって、茶葉? あとは茶菓子か……」


 日持ちするようなお菓子がいくつか、綺麗に並んで保管されていた。

 包装紙を見る限り、マクレーランの店の商品のものと同じだった。


 フォルトは、ひょっとすれば、未利達がシュナイデル城に缶詰めになって特訓したり、祭りに備えていたりしていた時も、あの店にやってきていたのかもしれない。

 目と鼻の先にある、あの店に。


「もっと、違う出会い方をしてれば……」


 何か変わっていただろうか、と思う。

 考えても仕方のない事だろうが。


 なんか思考が暗くなってきたので、切り替えて、別の所を調べる事にする。

 茶菓子は後でスタッフがおいしくいただいておきました、にしておこう。


「お菓子、おいしそう……」

「一応鈴音が来た意味あったか。おあずけ、後で」

「ふぁーい」


 シリアスをごく自然に壊す鈴音に、未利は内心だけで感謝。


 家主がいない中、勝手に他人の部屋の物を漁るのは中々、アレな感じがするが、仕方がない。


 次に向かうのはエアロも調べている本棚。


 棚に並んでいる文字を目で追っていくが、どれも物語のタイトルの様な物ばかりだった。


「フィーの冒険、古代龍の伝説、フィセロットの悲哀……難しそうな本ってイメージがあったけど、そうでもない?」


 並んでいたのはどうにも、物語の本ばかりの様だった。


 他にも並べられた本の背表紙に目を通していくが、並べられている本のジャンルに偏りはない。

 物語もあれば、参考書のようなものもあったり、料理のレシピらしい物とかも交ざっている。


「駄目だ、分からん」


 めぼしい手がかりはなし。

 フォルトが何を託したかったのかさっぱりだった。


 あるいは、意味などなかったのかもしれない。

 ただ、手頃で人に贈っても困らなさそうな物をあげただけなどという事もありえるだろう。

 本当に手頃なのかどうかは、人によるが。


「まあ、文字の練習には最適そうだし。本には使い道はあるし、そんな感じ?」


 そんな感じなのかも、と思っていた。

 それに気づくまでは。


「ん、風?」


 気づいたのは勘だとしか言いようが無かった。

 本棚に顔を寄せた時、空気の流れがあり得ない方向から流れてきたように感じたからだ。


 棚に並んでいる本を取り出してみると、奥に小さな扉の様なものがあった。


「ビンゴ」

「何か見つけたんですか?」

「お宝ですか!」


 未利の声を聞きつけたエアロと鈴音がやってくる。


「宝かどうか知らんけど、ちょっとね。こんな所にこんなものがあって」

「本棚の奥に、ですか……。これはぱっと見では気が尽きませんね」


 隠された奥へと手を伸ばそうとしたら、エアロにペチンと叩かれた。


「あたっ、何すんの」

「迂闊に何でもかんでも触ろうとしらないでください。もっと警戒心を持つ」

「も、持ってるし……」


 未利が反論する間、エアロが取り出した杖で用心深く扉を叩いている。


「未利さんって、もっと注意深い人だと思ってたんですが」

「うっ」

「未利さんがエアロさんに弄られてる!」

「弄りじゃないし、うっさい」


 鈴音に言い返しながら、安全が確かめられた扉を開く。

 鍵はかかっていないようだった。

 そこから取り出したのは、楽譜だった。


 曲名を読み上げるがエアロは知らない様だった。


『星の旅路』


 未利も耳にした事が無い。


「作曲家って話は聞いた事が無いので誰かの曲なんでしょうけれど」


 ……問題は、


 マギクスの場合だったら、誰かに聞いていけばそのうち分かるだろうが、メタリカの場合だったら当分は分からないと言う事だろうか。


 大事に隠されていたという事は、それなりに歴史的に価値があるのか、個人的に価値があるのか、それか両方の品なのだろう。


 その後も色々捜索してみたりはしたのだが、良さそうな弓を見つけたので、ありがたくもらっておいた。それ以外役に立ちそうな物は特になかった。


 これ以上得られるものはないだろう、とそう思い。楽譜と、文字の練習用に数冊の本だけを持って別荘を出る。


「お宝じゃなかったんですね……」


 何を期待していたのか、鈴音はそんな風に残念がっていた。

 鍵をかけて帰りの道を歩きながら、未利が例のタルトを目的の人物達にどう渡すか考えていると、エアロが難しそうな表情をしてこちらに話しかけて来た。


「まさかとは思いますけど、あの人の事、許してまませんせんよね。大変な事をやらかした人だってちゃんと分かってます?」

「え?」

「未利さんの事、最近は少しずつ分かって来たつもりですけど、貴方は少しばかり他人に甘すぎます」

「別に、甘くしてるつもりはないんけど……」


 不本意な評価だったので未利は反論するのだが、エアロはその言葉を取り合おうとしなかった。


「犯した罪は絶対に消せません、できるのは時間をかけて償う事だけなんです。これでも一応兵士ですから、色んな悪人達を見て来てるんですよ、私は。あの人は親切そうに見えてかなりタチが悪い部類です、騙されないでください」

「だったら、何だっていうのさ。アタシに何がいいたいわけ?」

「未利さんのその性格……人の身になって考えられるという所は美徳ですし、私もまあ、それには感謝してるんですが。でも、自分をしっかり持っていないと、人に引きずられていってしまいますよ」

「……」


 未利は、言葉を返さずに黙り込む。


 その自覚はあった。

 人の考える事に影響されやすい、誰かの価値観を押し付けられると受け入れやすくなってしまうという事を。

 ちゃんと考えた事は無くて、今まではうっすらと、何となく考えていた事だが。


「私は、貴方達がこの世界に来たのは、そういう部分があるからなんじゃないかって思ってるんです。それは自分と違うものでも受け入れやすい、寛容って事でもあるんですけど、でも逆に考えると、それはとても危ない事なんです」


 だから、とエアロは帰りの道で、己の考えに結論をつける。


「自分の芯をしっかりもっていてくださいね」

「ん……」 


 言われた言葉を頭の中で繰り返し、忘れないように刻み込む。

 それがとても大事な事だというのは、エアロの真剣な表情からもよく分かったからだ。


「同じくらいの歳なのに、アンタってたまに年上みたいだね」

「そうですか? まあ、城の人達からもしっかりしてる方だってよく言われますけどね」

「それ自分で言う?」


 そんな会話をする中で、荷物を分担していた鈴音が回収したお菓子の袋を見ながらポツリと呟く。


「未利さん、私お店に戻った後、これ食べて良いですか。おなかすきました」

「それ今言う!?」




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