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02 例の日の続き

短編集「彼や彼女の探し物」EP7の後からの話。



 菓子店での勤務を終えた後未利とエアロは、次の目的地……フォルトの別荘へと向かっている最中だった。


 だが、その道中でなぜかその少女が合流してくる。


「鈴音……?」


 なぜ彼女がここにいるのだと思えば、相手は慌てた様子で何かを誤魔化す様にこちらに話かけてきた。


「はわっ。ここっ、これはこれは未利さん! ぐ、偶然ですねー! ちょっと常連さんに頼まれたので、未利さんの探し物お手伝いさせていただきます!」


 何ともわざとらしい偶然の再会もあったものだった。

 未利はそんな挙動不審の少女へ呆れた視線を向ける。


「何でアタシの顔見るなり、そんな大仰な動作で緊張するわけ? ていうか頼まれたって誰に!?」

「やだなー。緊張なんて、まったくこれっぽっちも一ミクロンもしてませんですわ」

「さらっと前半流すな。あと、語尾がおかしくなってるんだけど」

「はっ、しまった! 別に似てるからとかそういう理由ではないのですよ?」


 色々と聞きたい事はあるのだが、鈴音は平常時もこんな感じなので大して気にかけなくてもいいかと判断。連れて歩く。


「未利さん良いんですか?」

「まあ、良いんじゃないの? 人手が多いならそれに越した事ないだろうし、それにアタシとアンタとじゃ、当事者すぎて空気が重くなりかねないし」

「それはまあ、そうかもしれないですけど」


 居心地の悪さを懸念して思う様な成果を上げられなかった場合の事を考えたのだろう。

 素性がある程度知れている鈴音なら、他の人間よりは安全だと判断したのかもしれない。

 エアロは、無言で許可を出した。


「ありがとうございます! ふぅ、これで今度あの人に会った時に物騒なもの突き付けられなくてすみます」

「だから、アンタにアタシ等の同伴を頼んだのは誰だっつーの」

「い、言えませんよぅ」


 頑なにその話題について口をとざすその少女の名前は、音無鈴音(おとなしすずね)

 淡い桃色の乙女チックな服装に身を包んだその少女は、元の世界で知り合った少女であり、当然その為マギクスの生まれではなくメタリカの出身だ。


 彼女も未利達と同じ学校の生徒で、転移の魔法が発動した時に学校にいた為、このマギクスの世界へやってきていたのだ。


「えっと、誰だっけ。雪谷(ゆきや)ってやつは元気?」

「雪くんですか? はい元気ですよ。さっさと帰って弟の面倒を見ないとーとか言ってました」


 あと、もう一人把握している限りでは雪谷という少年がいるのだが、そちらも無事で過ごしているようだった。

 白い狼に似た魔獣の姿になっていて、「雪くん」という可愛らしいあだ名で呼ばれるのを恐れ、このマギクスではレトという名前を名乗っているのだ。


「そ、元気なら良いけど。普通の町で普通の人に保護されて元気してるアンタ等って結構タフだね」

「そんな事ないと思いますけど、未利さん達ほどじゃないですよ」


 反論しようと思った未利だったが、あながち間違いでもない事に気が付いて愕然とする。


「普通は異世界に来てそんなに色々巻き込まれたりしませんから」

「うぐぐ……」


 人の生死に関わったり、命の危険に遭遇したり、世界の行く末を何とかする為の助力をしたり。

 省りみれば、実に騒動のレパートリーが豊富である。

 いやそもそも別に反論する必要ないし、と未利は精神的苦痛から持ちこたえる。


 そこにエアロが思い出したように話題を提示する。


「そういえば未利さん、例の話を一応鈴音さんに聞いてみたらどうですか」

「あ、そうだ。鈴音は何かここら辺で変な物見てない?」

「変な物?」

「例えば……」


 と、せっかくだからと未利は、鈴音にアスウェルが説明したような事を説明していく。

 植物のようで、実際はそうでなくて、最大の特徴が人を襲ったりする化け物の話だ。


「えぇー、何ですかその見るからに怪しそうなの!」

「何だってアタシに言われても困るし。アイツに聞いて!」

「アスウェルさんって、確か未利さんが店にいる時によく来て、未利さんが仕事してる時によく話しかけてて、私には物騒なものをよく突き付けてくる客さんですよね」

「え? そうなの? いやアタシがいない時の事なんか知らんけど」


 鈴音はでも、と自分が気になっている事について口にしていった。


「同じような化け物さん? ……を実は見た事があるんですよね」

「え、嘘、どこで。いや嘘でしょ」

「何で信じてくれないんですかぁ」

「だってそんな見るからにやばそうな奴に出会って、アンタが生きてられるわけないし」

「生きてますよ。ここにいますから。私どんだけひ弱だって思われてるんですか」

「結構、百人いや万人に一人の逸材くらい」

「ひどい!」

「あーはいはい、すねるのは後にしてさっさと説明」

「未利さんが言ったんじゃないですかぁ」


 ひとしきりうじうじした鈴音が復帰して、その内容を説明し始める。


「えっと、実はなんといいますか。心域で……」

「は?」

「だから、未利さんの心の中でですぅ」

「はぁー!? 何それ聞いてないんだけど、姫ちゃん達のみならず、何でアンタまでご来訪しちゃってんの、ていうかどんだけアタシの心締まりがないの!? 氷裏といい、謎の少年といい」


 他の比較対象が無いので正確な基準が分からないのだが。自分の心の中なんて、そうそう人に見せられるものではないだろうと、未利は思っている。

 それなのに玄関口が全開になってるというまさかの防犯状況。

 かなり信じられない。


 そう思えば、


「未利さん……、貴方どれだけ面倒くさい人なんですか」

「い、言うな。言わないでよ。アタシ自身そう思ってるし! 自覚してるし!」

 

 エアロからの一言ダメージがやばい感じだった。


「それは私も実は思ってました。あ、未利さんってもうすぐ死んじゃうのかな。ちゃんと生きて行けるのかなって。でも、アーク・ライズの人たちざっと十数万人くらいも入ってるんですから、締まりがないどころか、蓋すらないんじゃないかと、あはは……」

「誰それ!? 笑えないし!」

「す、すみません。空気を軽くしようと」


 全開玄関の話題からの、まさかの続き。

 聞き覚えのない名称が出た事に、未利は全力でこれ以上ないくらいに驚いた。

 人数の桁が違う。規模が違う。


 鈴音の肩を掴んで「詳しく!」と詰め寄ったところ、聞き出した話によるとこうだった。


 消滅の危機に会ったアーク・ライズという世界、そこに住んでいた住民達は安全な場所に避難するために、未利の心域にデータとなって眠っているらしい。


「何それ……」


 開いた口が塞がらない。

 というか塞ぐ気すら起きない。


「信じてもらえないかもしれませんけど、事実なんですよぉ。というわけで、未利さんの中には、数十万人分の生命エネルギーが蓄積されてるんです。でも未利さんが死んじゃったら、皆がデータのまま死んじゃって周辺に拡散してしまうんですから、死にそうになっても死なないで何とか頑張ってください!」

「はぁ。規模が大きすぎて、もはやどこから突っ込んで良いか分かんないし、本人の許可なく勝手に住み着いてるなとか、アンタも大冒険してんじゃんとかあるけど、まるっとおいとくわ」

「「結構言いましたね」」


 どうでも良い所で、鈴音とエアロの声がはもった。


 未利は、これまでに得た情報を元にある推測を立てる。


 姫乃が見た前の世界では、マギクスを救う為に未利の犠牲が必要だったという事が判明している。

 未利が死なないとマギクスが滅亡し、どういう因果関係なのか知らないがメタリカも滅んでしまうのだと。


「アタシの死=、延命処置ってこと? そのおかげでリミットが伸びて、本来なら間に合わなかったはずの終止刻(エンドライン)対策が間に合う……」


 考えられるのは、その辺りだろうか。


 最近再び学習しなおした内容を頭の中に浮かべる。


 終止刻では魔力バランスが崩れるという事情が根幹にある。


 終止刻(エンドライン)とは……。

 光の魔力と闇の魔力。星に内在するその二つの魔力が均衡を崩し、闇の間力だけが増えてしまうという原因不明らしい謎の現象だ。


 そして、この世界に生きる生命は皆、光の魔力を宿しているというのが常識。

 それならば、アーク・ライズの住人達も体内にそういう力を宿しているのではないか。


 鈴音の話では、彼らも魔法を使えるようなので、ありえない話ではない。

 なら、未利の中にいる数十万人が未利が死んだ際にどうなるか……。


 その力はこの世界に解き放たれるのだろうか。


「じゃあ、逆に考えれば終止刻の対策には想像以上の時間がかかるって事?」


 終止刻を終わらせるには、凛水のペンダントを得て、浄化能力者がセントアーク遺跡を起動する。


 未利達の持っている知識ではそんな感じだが、もしかしたらそれ以外にも何かあるのかもしれない。


 とりあえずはその話は、


「お城に戻った時に話し合わないといけませんね。逆に未利さんの身が危なくなりますけど、隠してる場合でもありませんし」


 エアロの言葉に同意だ。

 姫乃達と話し合わなければならないだろう。




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