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幕間 安堵感

 デパートを出ようとしたら、正面入り口に物凄い人だかりが出来ていた。絡まれても面倒なので、認識阻害魔法を強化する。これで俺個人を知っている人以外には、認識されなくなる。この場にいる人で言うと田中君と家智先輩だけだ。


「光君、凄いね。いつの間にそんな強くなったの?」

 そしてデパートから出ると、近付いて来たのは田中君だけだった。デパートの前でたむろしていた連中は、俺が出ると同時にデパートの中へと雪崩れ込んでいく。

 お目当てはバーゲン品ではなく、生き残ったオークとゴブリン。一匹をパーティーで囲み、ボコボコにしている……あれじゃ、どっちが悪者か分からない。ゲームの戦闘は画面越しだから、平気だったけど多対一の戦闘は見ていて気持ち良いもんじゃない。


「色んな経験をしたから……ところで、家智先輩は?」

 家智先輩の姿を探してみるが、どこにも見たらないのだ。心配を掛けたから、謝っておきたいのに。


「家智先輩は緒高君達の付き添いで病院に行ったよ。僕も周辺のガードがあるから、光君は先に帰っても良いよ」

 Fランクって、便利に使われるのね。帰って良いと言われても、どこに行けば良いんだろう?まだ寮の部屋も決まっていないし。


「ヒカル、早く行こ。お腹空いたし、あの人達なんか怖いよ」

 ペルルの顔がひきつっている。デパートの中へ雪崩れ込んでいったホーバー達は、愉悦の表情を浮かべていた。まるで魔物を殺す事に快楽を覚えているようだ。


「正義という名の下での暴力か……さて飯食いを行くぞ」

 目指すは食堂つかさだ。今日はホテルにでも泊まろう。


 ◇

 食堂に妖精を連れて行ったら、大騒ぎなると思う。だから俺の認識阻害魔法を解除して、ペルルに掛け直す。これでペルルは周囲からは、普通の女の子に見える。おじさんもおばさんも俺だと気付かなかったから、大丈夫だろう。


「今日は生姜焼き定食にするかな。ペルルはどうする?」

 ペルルは魔力を維持する為に、普通の人間と同じ位の量を食う。身体の倍以上ある飯を胃の中に納める姿は、傍から見たらマジックである。


「ご飯ってお米を炊いてるんだよね?食べた事ないからなー。このナポリタンってのにする……ねえ、ヒカル。あの人さっきからこっちを見ているよ」

 ペルルの先にいたのは、秦姉さん。秦姉さんは食堂つかさの一人娘で、俺も小さい頃は可愛がってもらった。確か年は二十歳で、威勢が良く江戸っ子気質の美人だ。

 ペルルの言う通り、秦姉さんは、確かにこっちをじっと見ている。秦姉さんからは、ペルルは十代半ば位の少女に見ているはず。そして俺は髭面のおっさん……確かに怪しすぎる。


「気の所為だよ。気の所為。すいませーん、注文良いですか?」

 出来たら、おじさんかおばさんが来て下さい……しかし、やって来たのは秦姉さん。あまり意味はないが、メニューで顔を隠してみる。


「こーら、みんなに心配を掛けて、今までどこにいっていたの?みんな心配してたんだからね」

 ゴンッと鈍い音がして頭に衝撃が走った。そこにいたのはお盆を抱えて、怒っている秦姉さん。

 もしかしてバレている?そんな筈はない。認識阻害魔法は解除したが、今の俺が光だと分かる奴はいないと思う。


「あの誰かと勘違いしていませんか?」

 多分、魔物に襲われた常連客がいるんだ。俺の名前を呼んでいないし。


「なに言ってるの……あなた光君でしょ?体は大きくなったけど顏は変わってないし、メニューを選ぶ仕草は昔のまんまだよ……ちょっと、なんで泣いてるの?」

 嬉しさの余り、涙が零れ落ちていく。日本には俺が光だと分かってくれる人はいないと思っていた。でも、秦姉さんはきちんと俺だと分かってくれた。


「魔王の目にも涙か……すいません、どこか人に聞かれず話が出来る所はありませんか?」

 さすがペルルさん、ナイスフォロー。

 ◇

 案内されたのは、奥にある座敷。大人数で来た時は、ここを使っていた。


「それで、今までどこに行っていたの?」

 俺は今までの事を全部話した。異世界イグジスタに召喚された事。そして魔王になり、日本へ戻ってきた事を伝えた。でも、証拠はなに一つない。


「信じてもらえないかも知れないけど、俺は異世界に行って魔王になった。今は永年勤続のバカンス中なんだよ」

 この間まで中学生だった少年が、三百歳の魔王になって帰って来た。信じられる訳がない。


「異世界か……昔なら信じなかったけど、魔物やホーバーを実際に見ているしね……それでおじさんやおばさん、優ちゃんにはいつ言うの?」

 信じてもらえて嬉しいけど、やっぱりその話になるか。確かにいつまでも逃げている訳にはいかない。


「こっちにいられるのは、数カ月間だけなんだ。それにとこっちに来ている魔物は俺がいる世界と何がしからの関係がある……俺が光だって信じてもらえないだろうし、下手すりゃ面倒事に巻き込んでしまう」

 俺が異世界から来た魔王だと言えば、魔物達の親玉だと疑われるだろう。そうすれば家族に迷惑が掛かってしまう。

 恐怖でヒステリックになった民衆は手に負えない。俺に敵わないとなれば、家族や親しい人が標的になってしまう。


「でも、私は光君だって分かったよ。優ちゃんや翼ちゃんも、きちんと話せば分かってくれると思うな」

 姉ちゃんはともかく、翼ちゃんと会うのは気まずい。でも、両親や姉ちゃんにはきちんと別れを告げたいし。


「今俺がやらなきゃいけないのは、向こうから来ている馬鹿を退治する事だ。それが落ち着いたら会うよ」

 アルモニー様が俺を日本に一時帰宅させたのは、その為だ。


「見た目だけじゃなく、性格も変わったね。物凄く大人になった感じがするよ」

 秦姉さんが優しく微笑む。そりゃ、御年三百歳だし、魔王業で散々苦労しているから。


「俺なんてまだまだだよ。こっちに戻って来て、自分の弱さに改めて気付かされたんだ」

 俺は家族や友人、自分に都合の悪い事から逃げている。なにより、翼ちゃんの事をまだ吹っ切れていない……多分、大切な宝物から否定されるのが怖いんだろう。


「本当、おじさんになったね。魔王様ならお妃様もいるんでしょ?もう、子供もいたりして」

 秦姉さん、それボッチ魔王の心をえぐりまくりです。いや、ここは心配せない為に、敢えて嘘をつこう。優しい嘘ってやつだ。


「ミナトさんですよね。話はよくヒカルから聞いてました……丁度良いです。ミナトさんからも言ってやって下さい。ヒカルったら、もう三百歳になるのに彼女すらいないんですよ」

 優しい嘘作戦、発動前に相棒ペルルによって強制終了となる。出来たらもう少しオブラートに包んで欲しかったな。


「……えっとお見合いとなかったの?」

 あったよ。オークやトロルの姫とのお見合い話ならね。


「俺は身一つで異世界に行って、色んな人に支えれて魔王になった。俺は向こうに家族どころか親戚すらいない。ある意味強い後ろ盾がいなかいから、バランスが保てているんだ。魔王と結婚したとなると、向こうの家の権力も強くなるんだよ。そうなりゃ権力闘争が始まるんだ」

 恋愛云々の前に結婚する条件が出てくるのだ。他国の姫様なら条件を満たすんだろうけど、猿人はうちのマナ濃度に耐えられないし、エルフは生まれて直ぐ婚約者を決める風習がある。


「つまり、光君はまだ彼女もいないと……うん、それなら安心だ。お姉さんが応援するから、日本でお嫁さんを見つけ行きなさい」

 秦姉さんはそういうと、俺の肩をバシバシ叩いた。頑張りなさいって感じが伝わってきて、心が暖かくなる。

 魔王になってからみんなに一定の距離を置かれる様になった。なにより魔王ではなく、桃園光として接してもらえるのが凄く嬉しい。

 ちなみにペルルは白米をいたく気に入り、豚カツ定食も頼んでいた。



明日七時に更新します

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