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リッチがいいたけど、かなり変

 アンデッド、早い話が死者だ。一口にアンデットと言っても霊体のゴーストタイプ、死体が動くリビングデッドタイプ、死を超越したリッチタイプに分かれる。

 この中で一番厄介なのがリッチタイプ。直接攻撃が効かないし、魔法にも強い。そしてゴーストを意のままに操る。

 性格は一言で言えば研究者。魔法研究以外に興味がなく、税金を滞納する事が少なくない。

 基本自分から手を出してくる事はないが、研究の邪魔をされると烈火のごとく怒る。税金の徴収もタイミングを見て行わなければいけないのだ。


「とりあえず一筆書いてと……それじゃ四階に行くか」

 長居して姉ちゃんや翼ちゃんと鉢合わせしたら気まずい。何より腹が減ったし、もう帰りたいのだ。

 階段を少し登った所で、背後から物音がした……折角、見逃してやろうとしたのに。


「剣を収めたのが運の尽きだ。素手で俺達に敵うと思うよな」

 ポケットからアルモフォンを取り出して、オーク達を撮影する。ついでにさっき書いたメモも撮影。


「転送先は鍛錬場だな。今時間なら第二部隊が鍛錬している頃か……送付と」

 さすが神様が作ったマジックアイテム。一瞬でオーク達を転移してくれた。まだ数匹残っているが、怯えて近付こうとすらしない。


「ねえ、ヒカル。第二部隊って、ウードウさん率いる重戦士部隊だよね。忠義に篤く、ヒカルを馬鹿にしたら絶対に許さないっていう」

 熊人ウードウ、パワータイプの魔族や魔物の頂点に立つ魔王軍の重鎮。力自慢のオークでも、あいつ等から見れば羽虫程度でしかない。


「俺は殺さないって約束しただろ。だから“こいつ等は俺の故郷を荒らした上に、ケンカを売って来た。処分は任せる”って書いたメモ付きで送ってやったのさ」

 背中を見せたら、襲ってくるのは分かっていた。ついでにボスオ―クの性格からして、俺がいないと分かると悪態をつくのは容易に想像出来る。

ウードウは料理好きだから、調味料でも送っておこう。


「うわー、絶対にボコボコじゃん……ヒカルちょっと待って。結界が張ってあるよ」

 二階から三階に続く廊下に透明な壁があった。でも、空気の流れを感じるから、特定の人間が対象になるんだろう。


「へえー、フロアボスを倒さなきゃ解除されないのか。ペルル、なんとかなりそうか?」

 しかし、本当にゲームみたいなつくりだな。これだけの結界が張れるんなら条件なんて付けなくて良いのに。


「この程度なら簡単だよ。ある紋様が書かれていれは無条件で、通れる様になっているの……はい、これでオッケー」

 さすがはペルルだ。あっさり解析してくれた。

(そういや二階へ婦人服売り場だったよな。ちょっと覗いてみるか)

 婦人服売り場が似合うのはサキュバスとかダークエルフの女子だと思う。上手くいけば婚活が出来るかも知れない。


「……決めた。この建物を管理している奴は絶対にぶっ飛ばす」

 二階にいたのはトロルだった。トロルが婦人服を着てキャッキャウフフとはしゃいでいたのだ。


 三階はスルーして四階に直行。灯りの消えたおもちゃ売り場は、不気味で昔なら速攻逃げていた思う。

 まずはゲーム売り場から探索しよう。予約していたゲームが残っているかも知れないし。


「ヒカル、ゴーストが集まってきてるわよ。嘘?後ろからリビングデッドが来ているわ」

 相変わらず侵入者に対する反応が早いな。剣に光属性の魔力を流して待機する。


「ペルル、生きている人間の反応はあるか?」

 この短期間でリッチが研究材料を殺す可能性は低い。


「奥の方に四人いるわ……ゴーストが来るわよ」

 やって来たのはサラリーマンと学生のゴースト。多分、このデパートの客だった人達だろう。日本人だからゴーストというより、幽霊と呼んだ方がしっくりくる。


「やっぱり縛れているな。お経は分からないけど、成仏させてやるぜ」

 狙うのはゴーストの頭か出ている糸。これを断ち切れば、リッチとの契約が解除される。糸を切ると同時に浄化魔法を発動。二人共、こっちに感謝しながら消えていった……そういう事か。


「……ゴーストを倒しても魔石が残るのね。それとこれは玩具なのかな?……ヒカル、どうしたの?」

俺は久し振りに本気でむかついている。サラリーマンが残していったのは、小さい子供向けの玩具。多分、自分の子供へのお土産だったんだろう。


「ここのリッチは死んだ人間じゃなく、自分や部下が殺した人間をアンデッド化してるんだよ。最低限の礼儀もわきまえていない糞野郎だ」

 リッチは死を超越した者。故に死に対して尊厳を持たなければいけない。隷属化の条件は死者の悲願を叶える事。家族に一目会いたい、殺された恨みをはらしたい、その願いは様々だ。その代わりゴーストはリッチに仕え、研究所を守る。


「だからリッチがいるのに、リビングデッドもいたんだね」

 リビングデッドは死体に悪霊が入り込む事で、動き出す。死に尊厳を抱いているリッチには許し難い存在なのだ。

 ただ、どんな職業にも腐った奴はいる。信者を食い物にする神官もいれば、弱者をいたぶる騎士もいる。そしてリッチの中には外道に墜ちる奴もいるのだ。


「ああ、そいつにしてみれば高ランクホーバーは、またとない実験台だ」

 外道に墜ちたリッチを一言で言えばマッドサイエンティスト。研究の為なら犠牲は厭わない。

 税金なんて絶対に払わないし、住民にも手をだしやがる。

魔王様の心得その十六 絶対に許すな.。外道リッチと禁止薬物

山賊も許せないが、外道リッチはもっと許せない。あいつ等を討伐する経費は馬鹿にならないんだぞ。俺が行けば一発なのに、政務を優先して下さいって許可が降りないし。


「良く考えたら、山賊と同じ建物にいるリッチがまともな訳ないか」

 ペルルの言う通りだ。異世界の建物を勝手に占拠する奴がまともな訳ない。


「ペルル、突っ走るから、しっかり掴まってろ」

 幽霊が憑りついてくるが無視だ。原因リッチを倒せば解放される。


「ヒカル、あそこだよ……とことん腐ってるわね」

 そこにいたのは杖を持った小学校三年生位の女の子。足元には緒高達が倒れている。


「おじちゃん、助けて。お兄ちゃん達がお化けに襲われて、私怖い」

 そう言うと、女の子は泣きだした……もう、限界です。


「なーにがおじちゃんだ!お前は百歳を軽く超えている糞爺リッチだろうが」

 剣を振り下ろすと、泣いていた筈の女の子が一瞬にして飛び退いた。


「こらっ!少女をいたぶるとは、とんでもない奴じゃの。少女は愛でる物じゃぞ」

 聞こえて来たのはしわがれた老爺の声。しかも危ない発言をしやがって。


「なにが愛でるだ!お前は、女の子に霊体に隠れているド変態だろうが」

 外道リッチだと思ったら、違う方に道を踏み外してやがった。


「うるさいっ!身も心も少女と一体化するのが、儂の夢なんじゃ。大人の女は金をいくら稼がなきゃ駄目だとか、イケメンでなきゃ駄目だとか。もう、怖いんじゃ……研究に邁進すれば結婚出来ると思っていたのに」

 なんだろう。痛々し過ぎて突っ込めない。


「だから何よ!?そんな風にうじうじしているから、もてないのよ。もてたいなら、きちんと努力しなさいよ。そんなのだから、百歳超えても独身なのよ。ねえ、ヒカル……って、ヒカル大丈夫」

 ペルルの威勢のいい啖呵にうなだれるリッチ。よほど、堪えたのかいつの間にか骸骨の姿に戻っていた。

ちなみに俺も相棒ペルルの辛辣な言葉が胸に刺さって、あまり大丈夫じゃないです。


「うるさいっ!研究に勤しんでいたら、婚期をのがしたんじゃ」

 分かるわー。俺も修行と政務に勤しんでたら、いつの間にか三百歳だもん。


「とにかく足元の四人をこっちに返しなさい」

 ペルルの言葉を聞いた途端、リッチはニヤリと笑った。


「ほう、この礼儀知らず共が目当てか。こいつ等の命が惜しかったら、武器を捨てるんじゃ」

 リッチはそう言うと杖を振り上げた。同時に地面からスケルトンが現れて緒高達の首に剣を突き立てる。


「ほらよ。これで良いんだろ?」

 剣を投げ捨てるとリッチが短剣を持って近付いていた。背後からはゴーストとリビングデッドが近付いて来ている。


「武器がなければ、アンデッドである儂にダメージを与えれないじゃろ?ほれ、殴ってみよ。最も殴れば、お前の仲間が死ぬがの」

 リッチは薄ら笑いを浮かべながら、俺の周囲をゆっくりと周り始めた。右手を通り過ぎた直後に手の平に光の魔法を集約させていく。ぐっと握りしめ、光が洩れない様にする。


「それで俺はどうすれば良いんだ?ちなみに俺のランクはF、ジョブは雑務兵見習いだぜ」

 この手の奴は変わったデータに食いつきやすい。何よりなんで俺のランクがこんなに低いのか知りたい。


「嘘をつくな!たかだかFランクに儂の呪縛が破られる訳ないじゃろ……いや、相性の問題か……うん、なんか手が光ってる?」

 相性?なにとの相性が悪いんだ?魔王になった今でも、陽キャやリア充は苦手だけど。

 

「お前を一発で倒せばスケルトンは骸骨に戻るんだよ」

 狙うはリッチの頭蓋骨。ここを壊せばリッチは活動を一時的に休止させる。光をまとった拳がリッチの骨を破壊していく。


「さすが魔王様。頭蓋骨どころか全部の骨を砕いちゃったね」

 最初は頭蓋骨だけを砕くつもりだったが思ったより硬く、一気に砕く事にしたのだ。


「緊急用のエレベーターは……あった。ここだ。緒高達を乗せて。一階のボタンを押せば完了」

 リダイヤルで家智先輩に報告。結果、“あまり心配を掛けるな”とめっちゃ怒られました。


「それじゃ、帰ろうっか。ヒカル、私お腹すいたー」

 こっちの世界は故郷だけど、俺はある意味ぼっちだ。うるさい位にぎやかな相棒の存在は、心の底から頼もしい。


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