表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

魔物を倒したけど、なんか変

 これはまずいな。オークを倒したら死体が消え、青い石へと変わった。床には死体どころか血痕すら残っていない。


「まるでゲームだな。これじゃ魔物を倒しても罪悪感が生まれないぞ」

 戦いで最初にぶち当たる壁が生き物の命を奪ったという罪悪感だ。オークやゴブリンにも家族や恋人がいる。当然、大切な人を奪われれば激しく怒り、相手を憎む。

 大切な者を奪われたという怨嗟の念がこもった視線は、何百年経っても慣れるもんじゃない。


「あまり見た事がない石だね。魔力を感じるから魔石の一種なのかな?」

 俺も見た事がない石だ。詳しく調べたいが、日本にはこれを詳しく調べる道具がない。


「城の魔術工房で調べさせるか……送付は対象物をカメラで撮って、送り先を選択すると」

 送付先には魔術工房の他に農作物研究所や薬学部もあった……鍛錬場なんて何を贈れば良いんだ?差し入れでも送れと言うのか。

 そしてアルモニー様にも送れるらしい。いつの間にか、送って欲しい物リストがピックアップされているし。


「ヒカル、オークとゴブリンが近付いて来てるよ。それと奥の方から、このフロアで一番強い気配を感じるわ」

 この階を守っているフロアボスって奴だろうか。

 幸いな事に、うちの国と関係をもっている魔物は一体もいなかった。違う大陸から召喚された魔物なんだろうか。

 ペルルのナビに従って移動していたら、階段の前にオークが集団で固まっているのを見つけた。中に一匹だけがたいが良い奴がいる。多分、あいつがペルルの言っていたフロアボスなんだろう。


「猿人にしては中々やるな。しかし多勢に無勢。アルシェ山賊団の前では個人の力なぞ無意味。お前等、囲め」

 フロアボスオークの合図で、部下オーク達が突進してきた。俺を取り囲んでボコるつもりなんだろう。

 そして山賊だと?統治者の前で良くもぬけぬけと名乗ってくれたな。山賊や盗賊対策にどれだけ苦労したと思っているんだ!……決めた。ボコボコにして洗いざらい、情報を吐かせてやる。


「……お前等のみたいのがいる所為で、巡回予算が増えるし領民から苦情が来まくる。討伐に行けば山や森に隠れるから、騎士団の駐留費が増えるし……魔王の心得その十五!ゴキブリと山賊は見つけ次第叩き潰す事。喰らいなっ!風の(ヴァン)ブレイド

 なにが国や常識に縛られないだ。こちとら政務でがんじがらめなんだぞ。

 幸いな事に向こうはたかが猿人一人と高を括っている。

 剣に風の魔力を籠めて、一気に薙ぎ払う。魔力は刃の様に鋭い風へと変わり、オークの集団に襲いかかる。

(生命反応は途絶えた……でも、血しぶき一つもあがらないのか)

 オークは確実に殺した。でも床には無数の青い石が転がっているだけだ。


「おー、相変わらずえげつない威力だね。オークが真っ二つだ……本当、ヒカルも強くなったよね。昔と違って安心してみていられるよ」

 ペルルが感慨深げにつぶやく。ケンカのケの字も知らないひ弱な少年だった俺を、時には励まし時には尻を叩いて導いてくれたのはペルルだ。

 魔王となった今強い部下なら五万といる。でも隣にいて安心出来るのは、やっぱりペルルなのだ。


「う、嘘だろ。あれだけいた部下が殆んど倒された!?だ、旦那悪かった。素直にお縄につくよ。ほら、この通り、武器も捨てるからさ」

 こいつ修羅場馴れしてやがるな。山賊の頭としてのプライドより、自分の命を優先しやがった。。

 山賊や盗賊は腕っぷしでまとめあげている場合が多い。へたれな所を見せたら、部下が離反していく。それにも関わらず、こいつは命乞いしてきたのだ。


「まあ、良い。洗いざらい喋ってもらうぜ。オーク専用の拷問もあるしな」

 不敵な笑みを浮かべながら、オークを恫喝する。

 俺は清廉潔白な統治者ではない。なんの後ろ盾も持たない異世界の小僧が、ここまで来るには後ろめたい事もかなりした……姉ちゃんや翼ちゃんに正体を明かさないのは信じてもらう自信がないってのもあるが、俺の手が汚れ過ぎているっていうのもある。


「オ、オーク専用の拷問ですか?この世界の猿人はオークを知らない筈ですが」

 確かに俺はこの世界の人間だ。正確に言うと元この世界の人間となる。そして今の俺は魔族と魔物を統べる魔王だ。

 商品を入れてあるワゴンを剣で両断。バラバラになった支柱を数本拾い上げる。一本は手に持ち、後はポケットに突っ込んでおく。


「オークの鼻穴は広いだろ?その鼻穴に棒を突っ込めば、どうなると思う?角度によっちゃ脳みそを貫くぜ」

 不敵な笑みを浮かべながら、支柱をオークの眼前に突き付ける。殺気を感じたので支柱を背後に向かって投げる。


「ヒカル―、後ろってもう投げたか……おーい、オークの皆さん、この猿人魔族より怖いから逆らわない方が良いよ」

 背後でオークが倒れる音がした。ペルルの脅しも相まって、生き残っているオークは涙目になっている。


「あ、あの何をお伝えすれば良いのでしょうか?契約で言えない事もありますが、言える事ならなんでも言いますから……どうか命だけはお助け下さい」

 契約か……そりゃこれだけ大規模な異世界転移がする奴なら、情報漏洩にも厳しくて当たり前だ。


「ペルル、何か分かるか?」

 ペルルは魔法に詳しいので、オークにどんな誓約が掛けられているか分かるだろう。


「ちょっと待って……うわっ、えげつなっ!どこから来たとか、だれとどんな契約を交わしたとかを現地の人間に喋ると死ぬ様になっているよ」

 アルモニー様が後手に回った相手だ。それ位はするだろう。もっとも、アルモニー様の管轄はあの世界の三分の一程度だ。それ以外の地域に干渉するのは、手続きや交渉が面倒らしい。


「つまり、この建物に関する事は喋れるんだな……ちょっと待て」

 オークの口を割らせよるとしたら、自称ソードマンの少年から渡された携帯端末がなった。ディスプレイに表示されたのは家智先輩の名前……先輩からの電話は無視する訳にいかない。


「光君、良かった……怪我とかしてないかい?怪我しているなら迎えに行くよ」

 一度しか会っていない俺の事を心配してくれるのか……しかもモンスターがいるかも知れないのに迎えに来ようとするとは、素直に感謝しよう。


「俺は無事ですよ……おい、逃げんじゃねえ。あっ、気にしないで続けて下さい」

 電話している隙を付いてオークが逃げようとしたので、踏んづけておく。


「それなら安心したよ……今直ぐ帰ってきて。ソードマンの子覚えているかな。緒高君っていうんだけど、彼のパーティーと連絡が取れなくなったんだ」

 なんでも携帯端末の電波は四階から出ているらしいが、応答がないらしい。緒高君パーティーには貴重なジョブを持っている人が多いらしく、高ランクホーバーが集まるのを待って救出に向かうらしい。


「でも一階で会いませんでしたよ」

 上の階に行くには、この階段しかないらしい。


「緒高君のお父さんがこのデパートのお偉いさんらしくて、緊急用のエレベーターを使ったらしいんだ。彼の友人の証言だから、確実だと思う」

 前に忍者が潜入した所、上の階に行く程、強い魔物がいる事が判明したそうだ。強い魔物を倒した方が、ポイントを稼げるらしい。ただ肝心の忍者と連絡がつかないらしく、四階に何がいるか分からないそうだ……忍んでいるから、マナーモードにしているんだろうか。


「おい、四階には何がいるんだ?」

 気持ち強めに踏みながら、オークに尋ねる。

 四階にはおもちゃコーナーがあり、小さい頃は良く遊びに行っていた。


「痛いですよ。四階を守っているのは、アンデッドです。ちなみにボスはリッチです。これで勘弁してくれますよね」

 リッチか……あまり戦いたくない奴なんだよな。

 でも、このデパートは想い出がたっぷり詰まった大切な場所だ。小生意気な餓鬼おだかに死なれたら、想い出が汚されてしまう。


「四階にはアンデッドがいるそうですよ。とりあえず俺も行ってみます」

 涙目のオークが見逃して下さいと懇願してきた。周囲のオークも手を組んで懇願している。

 浄化スキルでアンデッドを倒してポイントを稼ぐつもりだったのか。でも、まずいな。

 救出隊が集まるのを待っていたら、誰かが死ぬ危険性がある。嫌な奴でも死んだら寝覚めが悪い。


「緒高パーティーにはクレリックに木増さんがいる。確か浄化ライトニングのスキルをもっている筈だ……光君、危ないから戻って来て」

 家智先輩が戻って来てと言うとオークが一斉に頷いた。そんなに俺が嫌か。


「すいません。電波が悪いので、一旦切りますね」

 一斉に床に崩れ落ちるオーク達。もう一度言う。そんなの俺が嫌なのか。


明日の七時予約投稿しています

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ