平和を愛する地球破壊爆弾
「ぐっふっふっふ。よく来たな勇者よ。しかしお前が今まで相手にしていたのは全て失敗作の兵器達だ。ここからはワシも本気でいくぞ。ぐっふっふ。」
勇者ルナはようやく悪の科学者ワルモーノ博士のもとに辿り着いた。ワルモーノ博士はあと一歩のところで地球破壊爆弾を完成させようとしていたのだ。
「笑っていられるのも今のうちよ!」
「ぐっふっふ。いいや、ずっと笑っていられるよ。まさかあの勇者がこんなに小さくて可愛らしい女の子だったとはな。ぐっふっふっふ。」
「くっ…」
勇者ルナは身長を気にしていた。
「ひとつだけ聞かせてワルモーノ。」
「なんだねプリ◯ュア不合格者くん」
「くっ…」
勇者ルナは小さい頃からプリ◯ュアに憧れていたのだ。
「さあ、なんでも聞きたまえ。」
「あなたはその昔、平和を愛した科学者だったはず。マーベル平和賞まで貰っていながら、何故地球を壊そうとなんかするの!」
「ぐっふっふ。愚問じゃな。ワシは今でも平和を愛しておるよ。平和を愛するからこそ、地球を壊すのだ。」
「意味がわからないわ!」
「勇者ルナよ、平和とは何かね?」
ワルモーノ博士は真剣な顔で勇者に問うた。
「みんなが幸せで暮らすことよ!」
ルナは得意気に応えた。
「みんなが幸せに暮らすか。それはいい。しかし、それは不可能なのだよルナ君。人間とは、周りと比較せずにはいられない生き物なのだ。どんなに恵まれていようと、隣人がより恵まれていれば、それだけで人間は不幸と嫉妬を感じる。故に、平等でなければならない。わかるかね?」
「ええ。だけど完全な平等なんて、それこそ不可能じゃない!」
「ああ、生きている限り不平等じゃ。自然界に食物連鎖のピラミッドがあるのと同じく、人間社会にもヒエラルキーが存在する。しかしなルナ君、生は不平等、死は平等なのじゃよ。」
ワルモーノ博士はにやりと笑い、完成間近の地球破壊爆弾を指差した。
「ダメよ!そんなの平和でもなんでもないわ!」
勇者ルナは叫び、剣を構えた。
「何故そう言いきれる?全ての生き物が同時に死ねば、悲しむ者もない。ようやく世界が平等になるのじゃよ。金持ちも貧乏人も、美人も不細工も、全ての者が同じ結末を迎える。苦しむ間もなくな。究極の平等じゃよルナ君。君はワシを悪だと思うかね?」
「くっ…」
勇者ルナの手足が震えた。直感的に、それが悪だとわかっているのに、何が間違っているのかわからない。勇者ルナは難しいことを考えるのが苦手だった。
「いつか死ぬのじゃよ。」ワルモーノ博士は優しい声で勇者に言った。「皆いつか死ぬのじゃ。遅かれ早かれな。それなら、足並みを揃えようじゃないか。」
勇者ルナは動けずにいた。何が正しいのかわからない。私は正義の味方なのだろうか?それとも、目の前の博士が正義で、私は悪者?
「誰かが100を得るとな、どこかで100奪われる。得たものは幸福で、奪われた者は不幸じゃ。不幸を犠牲にして幸福は成り立つのじゃよ。犠牲から得た幸せが欲しいかね?ルナ君。ワシはそんなものはいらん。誰も奪われないために、全てゼロに戻すのじゃ。それがワシの正義であり、平和なのじゃ。さあ、剣を捨ててこっちに来なさい。美味い紅茶がある。クッキーも一緒に出すから、そこで待っていてくれないかね?その間に完成する。完成したら、一緒にボタンを押そうじゃないか。」
「うわあああぁああああぁぁああああああああああ!!!」
勇者ルナは勢いよく剣を振り下ろした。
瞬間、辺りは業火に焼かれ、博士の研究所は灰塵と化した。ワルモーノ博士は骨さえ残らず、全て粉になってしまった。未完成の地球破壊爆弾も溶けてなくなり、勇者の眼前には荒野が広がった。地平線に日が落ちようとしていた。綺麗な夕焼けだった。
勇者ルナは地面に小さな穴を掘り、ワルモーノ博士がいたあたりの灰を一掴み埋めた。手を合わせると、立ち上がって家路についた。
帰り道、ルナは博士の言ったことを思い出していた。
「みんなで一緒に死んじゃうのは、確かに平等かもしれない。」
感想をお待ちしております。是非あなたの意見が聞きたいです。ワルモーノ博士はあなたにとって正義でしょうか?悪でしょうか?