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26 握手

「町が賑やかになってきたな」


 リアンの町の入り口で、ニュクスはソレイユたちの到着を待っていた。

 町中が賑わってきたのを見るに、ソレイユたちが町へ下りてきたのだろう。

 合流したら、いよいよこの町とはお別れだ。


 宿からここへ来るまでの間に、ニュクスも多くの住民に声をかけられた。イリスと共にニュクスから絵を学んでいた子供達が中心で、「戻って来たらまた絵を教えてね」や「ソレイユ様のことを守ってあげてね」などと、無垢むくな瞳でニュクスへそう語り掛けてきた。

 どちらも守りようのない約束だし、後者に至ってはニュクス自身がソレイユの安全を脅かす脅威そのものだ。子供達に嘘をつく気にはなれない、だからといって真実を告げるわけにもいかない。結局ニュクスは、無言で笑みを浮かべることしか出来なかった。


 仮に自分が何の後ろめたさもない旅の絵描きだったなら、もっと気持ち良く旅立てたのだろうなと、ニュクスはありもしないイフを思い浮かべる。もちろん暗殺者としての自分を否定するつもりはないが、いずれせによ、らしくないことを考えてしまう程度には、一つの土地に長居し過ぎたということのようだ。

 

「おや、絵描きさん」

「おはようございます。この場所で会うのは二度目ですね」


 不意に声をかけてきたのは、農具を背負った体格のよい若い農夫であった。ニュクスがこの町を訪れた際に初めて出会った人物だ。


「絵描きさんもソレイユ様と共に王都へ向かうと聞いておりましたが、どうしてここに?」

「ソレイユ様とはここで合流予定なんです。恥ずかしながら、大勢に見送られるのは苦手でして」

「そういうことでしたか」


 納得した様子で農夫は微笑んだ。初めて出会った時も、この人はとても穏やかに迎えてくれたなと、ニュクスは一か月程前の光景を思い返す。


「子供達に絵を教えてくださり、ありがとうございました。うちの一番下の妹も、イリスちゃんと一緒によく絵描きさんに絵を習いにいっていましてね」

「アレットですね。イリスと並んで、あの子も熱心な生徒でした」

「絵描きさんがいなくなったら、寂しくなりますね」

「私も名残惜しくはありますが、こればかりは仕方がありません」


 そう言うと、ニュクスは農夫に手を差し伸べた。


「ここで過ごした時間は、とても有意義なものでした」


 農夫がその手を握り返し、二人は固い握手を交わす。


「絵描きさんのご武運をお祈りしております」


 笑顔でそう言い残すと、農夫は農園の方へと向かって歩いて行った。

 



 それから程なくして、騎馬の足音が町中からニュクスの方へと近づいてきた。

 旅の足には騎馬を使うと事前に聞かされていた。どうやらソレイユ達が到着したようだ。


「お待たせしましたニュクス。準備はよろしいですね?」

「もちろんだ」


 白馬に跨るソレイユを先頭とする遠征組が到着し、全員が一度騎馬から降り立った。騎馬は全部で4頭おり、人数に対して1頭少ない。


「ニュクス、騎馬の扱いの心得はありますか?」

「人並みには。普段は自分の足を使った移動が多いがな」

「それは良かった。でしたらあなたは、リスと同乗していただけますか? リスは乗馬が苦手でして」

「構わない。眼鏡っ娘も問題ないな?」

「大丈夫ですよ」


 重装のクラージュや弓騎士のウーでは、いざという時に同乗者の存在が邪魔になってしまうかもしれない。ソレイユと同乗するという選択肢もあるのだが、リスはソレイユに迷惑をかけたくないらしく、消去法でニュクスが同乗者に選ばれることになった。リス的には、ニュクスに迷惑をかけるのは問題ないらしい。


「それじゃあ、早速――」


 宛がわれた漆黒の騎馬に、ニュクスは騎乗しようとしたが、


「ニュクス!」


 聞きなれているはずなのに、随分と懐かしさを感じる少女の声。 

 名前を呼ばれたニュクスは騎乗を止め、町の方向へと振り返った。


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