15 連合軍
「……アマルティア教団の蛮行を許しておくわけにはいきません。すでに我が領の民も犠牲になっていますし」
腫れた目元を抑えながらも、ソレイユは覚悟を新たに面を上げる。
「そのことで、お前に大事な話がある」
「何でしょうか?」
神妙な面持ちでフォルスは腕を組む。領主として父として、これから話す内容は苦渋の決断であった。
気持ちを整理するために一度目を伏せ、一呼吸置いてからフォルスは静かに語り始める。
「来るアマルティア教団との対決に備え、王都サントルを拠点とし、各地の勇士によって結成される連合軍の設立が決定した。ソレイユには、ルミエール領代表として連合軍に参加してもらいたい」
「私がですか?」
「今回必要とされているのは、参謀等の補助役ではなく、来る脅威に対抗できるだけの純粋な戦闘能力だ。病で衰えた今の私よりも、戦士として日々成長を続けているお前の方が、この役目には適任であろう。本音を言えば、一人娘を戦渦に送り込むような真似はしたくはないが……」
「アマルティア教団がいつどの場所を襲うか分からぬ以上、領の守りを固めるべく領主が領に留まるのは当然のこと。同様に、根本的な脅威を取り除くためには、アマルティア教団との対決も必須。父上が領を守り、私は連合軍に合流してアマルティア教団の戦力を削ぐ。とても合理的な判断だと思います」
「……済まぬな。領と国、どちらも大切だからこそ、これ以外の選択肢が無かった。父親としては失格だろうが」
「領主として、戦士としては最高の決断ですよ。私もまた、一人の戦士ですから」
「強くなったな」
「いつまでも可憐な乙女というわけではありません」
「ふふっ、内面は昔からお転婆だっただろうに」
「だとしたらそれは、父上の血を受け継いだからこそでしょうね。母上はとてもおしとやかな方でしたから」
「そう言われては何も言い返せんな」
一本取られたと思い、フォルスは破顔一笑した。
元々早熟な子ではあったが、領主代行の任を経たこの半年間は、特に成長目覚ましい。
父親としてはやはり娘には危険に身を投じてもらいたくはないが、同時に、この子ならどんな困難でも乗り越え、さらなる成長を遂げてくれるのではという期待感もあった。
「出立は何時頃までに?」
「王都までの旅路も加味すると、一週間以内には出立の準備を整えてもらいたい。人選はお前に任せるが、領の防衛戦力との兼ね合いから、あまり多くの兵を出すわけにはいかぬのが実情だ。申し訳ないが、少数精鋭を意識した人選を願いたい。軍資金は多めに用意しておく、戦力不足と感じた場合は傭兵の雇用も可だ。王都までの道筋には傭兵ギルドを有するグロワールもある。有用な人材は多いことだろう」
「グロワール。オッフェンバック卿が治める街ですか。先日の領主会議の際にもお世話になりました」
「オッフェンバック卿には事前に書簡を送っておく。グロワールに到着したら彼を訪ねるといい。きっと力になってくれるはずだ」
「承知しました。さっそく人選について考えてみたいと思います」
「悩んだ時はいつでも相談してくれ。先達として、実りある意見を述べることも出来るだろう」
「ありがとうございます。父上」
「頼んだぞ、ソレイユ」
娘の健闘を祈り、フォルスはソレイユの肩に優しく触れた。




