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4 到着

「小さな町だ」


 領主の館があることを除けば、リアンは何の変哲もない小さな町に過ぎない。

 元より、ルミエール領は大きな街の無い農村地域中心だという知識はあったが、実際にはニュクスの想像していた以上に田舎であった。


「おや、旅のお方かい?」


 町の入り口に佇んでいたニュクスを、農作業へ向かう途中の体格のいい若い農夫が呼び止めた。

 その顔には余所者に対する警戒心は微塵も存在しておらず、ルミエールという土地がいかに平和なのかを実感させる。


「はい。私は旅の絵描きでして、ルミエールの自然に惹かれ、訪れた次第です」


 穏やかな口調と笑顔で、爽やかな第一印象を作る。


「画家さんとは珍しいね。娯楽の少ない村だし、みな喜びますよ」

「画家といっても、素人に毛が生えた程度ですよ」

「もし機会があったら、村の子供達に絵を教えてやってくださいよ。こんな田舎じゃ、芸術を教えてくれる人もそうそういないのでね」

「そうですね。しばらくは滞在する予定ですし、考えておきます」

「ありがたいことです。子供達の笑顔が増えれば、ソレイユ様をきっとお喜びになられます」

「ソレイユ様とは、領主様のご令嬢ですね」

「はい。気高く武芸に秀でておられながらとてもお優しく、貴族でありながら我ら領民のことも家族のように大切にしてくださいます。私は、あんなにお優しい方を他に知りません。子供達とは特に仲が良く、交流するために、よく町の方へも訪れてくださいます」

「優しいお方なのですね」


 表情に出さないが、ニュクスはその話に感心を覚えていた。

 仕事柄、高貴な立場にある人間に近づくことも多いが、貴族と名のつく人間の大半は、常に相手よりも高い位置に自分を置かねば気が済まず、身分が下の者へ目線を合わせるような真似はまずしない。

 貴族に対してそういった印象を抱いていたニュクスにとって、村人たちと近しい位置にいるというソレイユの存在は新鮮なものであった。


「今日も子供達に童話の読み聞かせをするため、町を訪れておられますよ」

「では、ソレイユ様は今町に?」

「はい。もしよろしかったら、お会いになってみては如何でしょうか? ソレイユ様は芸術にも造詣の深いお方。きっと、有意義な時間が過ごせることでしょう」

「はい。是非ともお会いしたものですね」


 表面上は好青年として笑顔を浮かべ、内心では思わぬ好奇にほくそ笑んでいた。

 無論、いきなり殺しを実行するつもりは無いが、一度標的の姿をこの目で確かめておきたいとニュクスは考えていた。

 その機会が、こんなにも早く巡って来るとは思わぬ収穫だ。


「農作業がありますので、私はこれで失礼いたします。この町で過ごす時間が、あなたにとって有意義であることを」

「はい。色々とありがとうございました」


 農園の方へと向かっていく男性を見送り、ニュクスは深々と礼をした。


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