28 勇将二人
王都サントルの中心部。騎士団本部の屋上に二人の壮年男性の姿があった。
「準備は万端ようだな。ウルズ」
紺色の短髪をオールバックにまとめた細身の男性は、ルミエール領領主――フォルス・ルミエール卿。
かつては剣聖と称えられた勇将だが、7年前に患った病の影響で体は衰え、現在は歩行に金属製の杖を用いている。
全盛期のように最前線で剣を振るうことは叶わぬが、鋭い眼光と気迫には一切の衰えを感じさせない。
「出陣まで残り3日だからな。目的は監視とはいえ、両国の関係に大きな影響を与えるやもしれん場に赴くのだ。半端な準備では臨めんよ」
刈りあげた金髪と立派な口髭が印象的な長身の男性は、熱砂赤銅騎士団を率いる――ウルズ・プレーヌ卿。
勇猛かつ理知的。時には奇策を用いて難関を突破するアルカンシエルを代表する勇将の一人だ。指揮官としてだけではなく、一人の武人としての戦闘能力も高く、40歳を越えてなお、その巧みな槍術は他の追随を許さない。
同じ時代を生きてきた盟友同士。
方や一線を退き参謀役に回り、方や現役の戦士として今も戦場の最前線へと立つ。
互いに歳を取り立場も変わったが、長年培ってきた男の友情だけは変わりない。
「帝国とて早まった真似はしないだろうが、もしもの場合は頼んだぞ」
「無論だ」
少ない言葉で交わされる、勇将同士の護国の誓い。
荘厳な雰囲気はここまで。
互いに表情を軟化させた2人の男は、年齢相応に家族の話題を口にする。
「フォルス。お前の娘、何歳になった?」
「17歳だ。私が不在の間、よく領内をまとめあげてくれている」
「17か。そろそろ縁談の一つや二つ舞い込んでくる頃だな」
「すにで来ているよ。娘にはまだ知らせていないが、こちらへ来てから何件から見合いの申し込みがあってな。状況が落ち着いてからということで、話は私の所で止めてあるがね」
「魔物の頻出に帝国との軋轢。貴族連中も、何もこんな面倒な時期に縁談を申し込まんでもよいだろうに」
「危機感というのは常に現場が一番感じているものだ。温室しか知らぬ者達には、それが分からんのだよ」
「剣聖と謳われた男の言うことは違うな」
「皮肉を言ってくれるな。一線を退いた今、私はもう娘の将来を思うだけの一人の父親だよ」
「父か。娘の縁談、どうするつもりだ?」
「一応話は持ち帰るが、娘の意志を尊重するつもりだ。まあ、あれのことだから全て断るだろうがな」
「ほう?」
「あれは淑女の皮を被った戦士だ。甲斐甲斐しい妻を演じている姿は、まったく想像がつかん」
「親馬鹿め。本当は可愛い娘を手放したくないだけだろう」
「言ってくれるな。娘が心から愛した男を紹介してきたなら、身分に関係なく快く送り出してやる所存だ」
親友の父親らしい一面を垣間見たウルズは愉快に笑い、フォルスの背を叩いた。
「お前ら親子の未来のためにも、今回の任務、十二分に果たさねばならんな」
「期待しているぞ、親友」
「任せておけ、親友」
互いの拳を合わせ、童心に帰ったかのように二人の男は豪快に笑った。




